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背中を押してくれた魔法の言葉ーI've got your back

私は泣いたことがない、泣いたりするのは違うと感じてた・・・

そんな歌が昔流行ったことがありますが、昔の私はまさにそうでした。

会社で泣くのは恥ずかしい、ありえない。つらくて悔しくて涙が出そうになったときは、人目につかない場所で泣く。同僚や上司の前、職場では感情をコントロールできる人が真のプロフェッショナルだと信じていました。

そんな私が、人前で涙を流したのは、15年ほど前。初めてシニアディレクター(日本企業だと部門長?)に昇進したときのことです。職場で自分の力不足を痛感する日々で、昇進の話が来たときは、嬉しさよりも正直、驚きと不安が先に立ちました。

周囲の男性たちは自信を持って昇進を受け入れていましたが、私は「私でいいのだろうか?」という疑問ばかり。組織のヘッドになることで期待に応えられなかったらどうしよう、失敗したら周りに迷惑をかけてしまうかもしれないという考えが頭の中をめぐり、すぐに「はい、やってみます」とは言えませんでした。

そんな私を見て、米国人の上司が言いました。

"I've got your back."

直訳すると「背中を見ている」、つまり、「何かあっても私が援護するから」という意味です。そのあとに続いたのは・・・

"I am so confident that you will succeed."

(君が必ず成功すると確信しているから)

その言葉を聞いたとき、初めて大粒の涙がぽろぽろとこぼれました。それを見ていた上司も一緒にもらい泣きをしていました(笑)。
(余談ですがこれ以降、感情豊かなこの上司の影響で職場で泣くことに抵抗がなくなりまして、感動するとすぐに泣いてしまう人に変わりました。我慢していたんですね)

「信じてくれる人のために挑戦しよう」と思えたのです。失敗しても大丈夫、きっと彼が守ってくれるはずだから。

承認の魔法

この経験を通して、私は「承認されること」がどれほど人をエンパワーするかを実感しました。承認は単なる評価ではなく、その人の存在価値、ありのままの姿を肯定し、前に進む力を与えるものです。

特に、キャリアの転機では、周囲の承認が決定的な意味を持ちます。心理学者アルフレッド・アドラーは「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と述べていますが、仕事も同じ。人は一人で成長するのではなく、周囲からの承認によって自信を持ち、挑戦することが可能になるのです。

日経新聞の「経済教室」(2025年1月17日掲載)で、京都女子大学の正木大貴教授は下のように指摘しています。

「普通私たちは誰でも他人に認められたいという欲求を持っているもので、自分のありのままを表現し、そのありのままを他人に受け入れてもらいたいと望む。たとえそれが小さなコミュニティーであったとしても、そこは本人にとって安らぎの場となりうる。」

日経新聞の「経済教室」(2025年1月17日掲載)

上司の承認とはまさにそれです。誰かが「あなたを信じている」と言ってくれることで、人は安心して自分の力を試し、未知の領域に思い切って踏み出せるのです。

私が昇進を受け入れられたのも、上司の言葉があったからこそ。もし、あの時「君ならできると信じている」と言われなかったら、今のキャリアはなかったかもしれません。

承認の力は魔法のようなものです。たった一言の「あなたを信じている」「私が支えるから」は、人の可能性を最大限に引き出し、困難に立ち向かう勇気を与えます。

組織のリーダーの言葉は、想像以上に部下に影響を与えます。

承認の文化を育むために

日本の管理職は「言わなくても伝わる」「わざわざ褒める必要はない」と考えがちですが、これは誤解です。多くの管理職が、部下を褒めたり、承認する言葉をかけることにあまり慣れていません。結果として、優秀な部下でさえ自信を持てず、十分な力を発揮できないというようなことも起こります。

だからこそ、意識的に「承認する」文化を育むことが大切です。私たちは、承認の言葉をもっとストックするべきではないでしょうか。

「すごい、よく頑張ったね」「君のおかげでうまくいったよ」「誇りに思う」

こうしたシンプルな言葉が、人を勇気づけ、次の挑戦へと背中を押してくれます。

SNSの時代だからこそ、私たちはリアルな人間関係の中で、お互いを尊重し、認め合うことがより重要になっています。明日、あなたの周りの誰かに、「I've got your back」と伝えてみませんか?その言葉が、その方の人生を変える一言になるかもしれません。

そして私も、そんなふうに誰かに「I've got your back」と伝えられる人でありたいと思っています。