心理的安全性確保の入り口「夢中ポーカー」のススメ
Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。みんなが安心して働ける、心理的安全性の高い「コミュニティ型組織」づくりが最近のマイブームです。
というわけで今回は、日経COMEMO編集部からのお題「#心理的安全性を確保するには」をもとに記事をお届けします。面白いなと思った方はぜひ、ハートマークを「スキ!」として頂けると執筆のモチベーションになってとても嬉しいです。
関係性の質が、成果の質を上げる(おさらい)
心理的安全性はとても話題になっていて、僕自身、研修やセミナーでも頻繁に触れる概念です。コミュニティづくりにおいてもとても大事な概念になります。簡単に定義を説明すると「組織の中で自分が思っていることをオープンに発言できる状態」ということです。要するに「自分の本音が言いやすい環境」=心理的安全性の高い環境ということになります。
コミュニティ型組織開発のプログラムでは、僕は参加者の皆さんに必ずこう問いかけます。「みなさんは会社で、本音を誰に対しても堂々と発言できますか?」こう尋ねると、皆さんドキっとしたリアクションをして、バツの悪い表情をしたり、苦笑いをすることが多いです。これが、日本の組織においてなかなか心理的安全性が上がっていない証拠とも言えるでしょう。上の記事に出てくる事例をみても「ああ、これが日本企業だな」と思ってしまうところは正直ありますよね……。
ただ、この概念がフィーチャーされてきていることは事実で、多くのビジネスパーソンが重要性を認知しはじめている段階と言えるかもしれません。組織の多様性が求められる中で、必然的な動きだと考えています。
他の方も書いているのでサラッと説明すると、心理的安全性という言葉が話題になったきっかけは、Googleのピープルアナリティクスチームによる研究レポートだと言われています。パフォーマンスの高いチームは、その入り口として、行動や発言を非難されない環境にあることをこの研究はつきとめたのです。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授の「成功循環モデル」と紐づけて語られることも多く、人事系の講演の定番になっています。
成功循環モデルの考え方の根幹は「関係性の質が、成果の質を上げる」というものです。闊達に議論出来て、のびのび行動できる組織は、パフォーマンスが上がるというわけです。
この考え方は僕の専門としている「コミュニティ」の考え方とまったく一致していて、僕自身もコミュニティ開発のノウハウを使って、組織の心理的安全性を高めるプログラムを企業に提供しています。引き合いもとても増えていて、チームの生産性に対する関心の高さがうかがえます。
違うパターンのコミュニケーションをデザインしよう
「パフォーマンスが悪ければ、関係性をよくすればいいじゃない」マリー・アントワネット風に表現するとそういうことなのですが、正論としては確かにその通りと思うものの「それができないから苦労するんじゃないか!具体的にどうすれば関係性がよくなるんですか!?」という悩みを抱える方が多いのではないかと思います。実際、コミュニティのプロの僕のところにも「どうしたらいいですか!?」という駆け込み寺的なご相談もよく来ることがあります。
まず前提として「対話を増やす」ことが大事になります。対話というのは、メンバー同士が対等な立場でテーマについて語り合うことです。ここで本音をちょっとずつ交換しあえる状況を産み出すことがセオリーになります。
ただ、対話をデザインするのが一般の方にはなかなか難しいわけです。既にギクシャクしている人たち同士が、いきなり和気あいあいと本音で話せるわけでもありません。というわけで、相談された方に「対話が大事ですよ」と伝えても「うちの組織ではできません」と断言されることもあります。
しかし、この「うちの組織ではできない」理由について尋ねると「既にそうなっているから」という以上の回答はあまりでてきません。結局、自分たちのコミュニケーションを客観的に見ない状況で語られていることが多いということなのです。
大事なのは、もっと解像度を上げてみると「うちの組織ではできない」という言葉の前には、このような枕詞が隠れているということです。「今までのコミュニケーションのパターンを繰り返すならうちの組織ではできません」。
この「パターン」を変えることが重要なのです。パターンを変えるということは、うまくガイドをしながらコミュニケーションのありようを変える機会をつくるということです。しっかりとファシリテーター役を立てて、違うパターンのコミュニケーションをデザインするわけです。そして、この「違うパターンのコミュニケーションのデザイン」を精度高くできるかどうかが、ファシリテーターとしての腕の見せ所です。
ゲーム形式でチームの対話をデザインする「夢中ポーカー」のススメ
ファシリテーターとして大事なのが「ルールの設定」です。自然とメンバーの方々がコミュニケーションをとってしまうようなルールや状況を設定して、その設定の上でふるまっていただくことで、それまでうまく自己開示ができなかった人たちや、初対面で沈黙が続いていた人たち同士が、自然と自分の本音を開示できる状態を産み出すのです。
この状況設定とルール設定をわかりやすく短い時間で浸透させて、コミュニケーションを一瞬でリデザインする方法があります。
「ゲーム」です。
ゲーム形式で対話を促す「コミュニケーションゲーム」というジャンルがあります。カードゲーム形式のものもあれば、オンラインで提供されているものもあります。「アンガーマネジメントゲーム」あたりはとても有名ですね。
ゲームの上でコミュニケーションをとって頂くと、するするっとメンバーの方々の自己開示が進むことがあります。どんなビジネスパーソンも、子どもの頃から「ゲーム」には親しんでいます。ゲーム上においては、ルールを逸脱しないことがマナーだとほぼすべての人が理解して沁みついていますし、「こういうルールだからこうふるまいましょう」とメッセージを発すると、どんな方でも、階層や世代関係なく、その通りに振る舞うようにインストールされているのです。
というわけで、僕がチームビルディングなどで数多く使っているお薦めのコミュニケーションゲームがあります。「夢中ポーカー」です。
はい。そうなんです。僕がつくったゲームです(笑)。こちらのnoteにルールを全公開しているので、ぜひだまされたと思って、やってみて下さい。
夢中ポーカーは、カードゲームをやっているうちに、お互いの考えていることがどんどん開示されていくアイスブレイクワーク(自己紹介ゲーム)です。白い名刺カードとサインペンを用意して、お互いに夢中なものを交換しあうゲームです。ルールの型としては、ポーカーというよりは、ババ抜きと人狼ゲームを組合わせたようなものになります。
一見複雑に見えるのですが、1ターンくらい回すと小学生でも理解できますし、3ターンくらいまわしてみると、どんなに静かで固まっていたテーブルでも盛り上がるというものになります。
夢中ポーカーの肝は、自然と会話量が均等になるルール設計になっていて、進めるうちにお互いへの共感が走るようにできていることです。
心理的安全性が担保されていない「心理的不安」なチームの特徴の一つが「声の大きい人がいる」ことです。この人が何か言うとみんなだんまりになる、そんな圧が強めな存在です。こういう方は場の空気を壊してしまい、多くのだんまりな人を生んでしまう傾向にあります。
マネジメントにそういう方がいるとなかなか大変です。そういう方は部下がだんまりな状況を気にして「何か発言しろ!」と言うわけですが、そんな状態で本音はまず出てきません。結果として、会話量が声の大きい人にどんんどん偏っていって、だんまりな人はますます会話をしなくなる、その結果、だんまりな人たちが「陰口」で本音を愚痴として吐き出す……そういう構造で心理的不安な組織は、ますます心理的不安になっていくのです。
しかし先ほど書いた通り、声の大きい人も「こういうルールのゲームだから」と言うと、それにきちんと従ってくれる傾向にあります。例えば、声の大きめな体育会系の方ほどルールには敏感だったりします。対等にふるまうためのルール設定を埋め込んだゲームをやると、きちんとその通りに振る舞ってくれて、その結果、チームにおける会話量のバランスが是正されていくのです。
そのような、ルールにしたがって自然と振る舞うように長年刷り込まれている人間の習性をある種利用して、フラットでオープンなコミュニケーションを行うように設計されているのが「夢中ポーカー」なのです。
会話量が均等になるルール設計をしよう
ファシリテーターをつとめる数多くのワークショップの冒頭で僕は「夢中ポーカー」を実施するのですが、お通夜のような顔の参加者や、多弁な人とおとなしい人が混ざっているグループが、ものの15分程度でわいわいがやがや話せる、そんな状況をつくることができます。
夢中ポーカーは1つの例ですが、心理的安全性を組織に生み出す上で大事な第一歩は、会話の量が均等になるようにルール設計していくことだと考えています。
例えば、会議において「一人あたりの発言時間を1分間にする」「階層が上の人が聞き役になるように、発言時間を制限する」というルールを決める方法があります。違反したら罰金で小銭を回収して、会議で配るお菓子を買うというのも、ゲーム性が増していいかもしれません(階層が上の人ほど違反の罰金をちょっと大きめにするのも手です)。ちょっとした遊び心と工夫で、フラットな関係性をデザインすることはできるのです。
心理的安全性は一朝一夕に確保できるものではありません。だからこそ、みんなが自然としたがってしまうルールを決めて、楽しみながら発言する場を産み出していくことで、確保の糸口をつかんでいく必要があります。それぞれの工夫で、対話を促す場のデザインに、試行錯誤しながらに取り組んでみることをお勧めします。
そしてニッチもサッチもいかないなと思ったら、プロを呼ぶのが手っ取り早いです(笑)。我田引水で恐縮ですが、チームの対話とビジョン形成を軸にした「コミュニティ型組織開発」のプログラムを提供しています。夢中ポーカーを皮切りに、参加メンバーが思わず自己開示を進めてしまう数々のワークを組合わせてデザインしています。ご興味ある方はぜひホームページのフォームよりお問合せ下さい!
また「Voicy」ではCOMEMO記事の元ネタになる10分ビジネス小噺をほぼ毎日放送しています。記事が「面白い!」と思ったみなさま、ぜひ聞いてみてください!
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