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パナソニックとダイソン、どっちが好きですか?〜技術ブランディングというもう一つの戦い

日本の家電の王者、パナソニック。利益率の悪い白物家電からB2B(企業間取引)へと事業シフトを進めている間に、ダイソンが新技術をひっさげて新しい顧客価値を生み出し、高価格の白物家電を次々と投入してきた。パナソニックは、ナノイーやジアイーノなどの空気関連の技術で対抗する。これから、どんな戦い方をしていくのだろうか。

パナソニック対ダイソンの訴訟

次の記事では、「パナソニックのヘアドライヤーの広告表示が不正競争防止法違反にあたるとして、ダイソンが広告差し止めなどを求めた訴訟の判決で、東京地裁(杉浦正樹裁判長)は27日、ダイソン側の請求を棄却した」、と報じている。

具体的には、パナソニックのヘヤードライヤーの広告で、水分発生量が従来の18倍であるとか、ヘアカラーの色落ちを抑えるなどの表示がなされているが、ダイソンは第三者による検証を行い、これには根拠がないとして差止を求め提訴した。今回、裁判所は、この提訴に根拠がないとして棄却したが、ダイソンは控訴するという。

正直言って、ダイソンが出てくるまで、白物家電はもうどれも一緒で、新商品も何がいいのかわからないような状態が続いていた。各メーカーは、ただ機能を追加するだけで、本質的な価値向上をとげることは少なかった。何年モデルかを聞かないと、どれが新商品かもわからないほどの差分しか生み出せていなかったのだ。そこにダイソンが進出してきた。掃除機だけかと思いきや、ヘアドライヤー、扇風機など、さまざまな製品で、新技術を投入することで商品のイメージを一新するような攻勢をしかけてきたのだ。

ダイソン製品は、掃除機も扇風機も、空気清浄を行うことが一つの特徴でもある。本来の機能に加え、空気や水分という目に見えない機能で差別化することが重要になってきているのだ。だからこそ、今回のドライヤーのナノイーが水分量など目に見えない技術で差別化しようとしていることに対して、「ちょっと待った」を仕掛けざるを得なかったのだろう。

デザイン経営への転換

次の記事は、パナソニックがデザイン経営に取り組み始めたということを報じたものだが、テレビなど家電畑を歩んできた、パナソニック株式会社の品田社長は「必ずしも消費者が望まない機能が追加され、毎年マイナーチェンジを繰り返すビジネスモデルは持続的ではない」と感じていたと述べる。「本当の意味で新しい価値を生む新家電を作っていこうやと、19年に家電事業の社内カンパニートップに就いた品田氏は、各現場を回って繰り返し社員に語りかけた」そうだ。

デザイン経営について、デザイン部門を統括するパナソニックHDの臼井重雄執行役員は、次のように語っている。「技術はどちらかといえば積み上げていくが、デザインはゴールから逆算して考える『バックキャスト』型の思考だ。中長期戦略との相性はいい。作り手の都合ではなく、顧客を起点にして考えると、社会や価値観が大きく変化している時代に、変化を誰が読み取るのかといえば、デザインのメンバーが適任となる」

技術ブランディングというもう一つの戦い

一方で、デザインから入ると、顧客の困りごとの解決にとどまりがちで、大きな技術のブレークスルーなど、顧客が考えもしなかった解決策を導き出すことは難しい。なぜなら、新たな技術を確立させるためには、顧客のいない状態で数年間から10年間、技術開発を続ける必要があるからだ。そのあきらめない力がなければ、技術でブレークスルーをすることはできない。そうすると、顧客課題を解決できそうな技術を組み合わせるだけの新商品しか、生み出されなくなってしまう。

ダイソンはサイクロン技術やデジタルモーター技術を確立し、「ダイソン」というまったく新しいカテゴリーの掃除機を売り出した。技術の違いを消費者が理解することで、圧倒的な市場での地位を得ることになる。これが、技術ブランディングの強さだ。パナソニックのナノイーとジアイーノも、技術に名前がついていて、多くの製品に上乗せされて付加価値となっていることから、技術ブランディングに成功していると言えるだろう。

そういった意味からすると、今回の訴訟は、ヘアドライヤー1つの売れる売れないの問題を超えて、パナソニックの技術ブランドの一つであるナノイーに対して、ダイソンがチャレンジを仕掛けてきたという意味で、技術ブランディングの戦いということができる。ダイソンが控訴を続けるのも、この製品の問題ではなく、もっと長期的な戦いの主戦場になる技術ブランドの話だからだ。

技術ブランドを制する者が長期的繁栄を築く

商品開発者であれば、商品が売れたかどうかで一喜一憂するのが当たり前だ。しかし、短期的に売れたところで、長期的繁栄につながるとは限らない。やはり、他社には真似のできない技術ブランドを確立したものが、その技術ブランドを付加価値にあらゆる商品と掛け算して、長期的に繁栄を築くことができるのだ。

これまでは、全方位で商品を出す王者パナソニックに、特定商品で挑戦するダイソンという構図であったが、ダイソンがパナソニックの技術ブランドをつぶしにかかる戦いによって、この戦いの主戦場は技術ブランディングに本格的に場所を移したと言えよう。

パナソニックは、いかに商品の縦割りを超えて、技術開発、商品開発、マーケティングを技術ブランディング主導に変えていけるか。それが少しでも遅れると、ダイソンのような技術ブランディング企業に、すべてをオセロのようにひっくり返されるリスクもある。パナソニックの舵取りから目が離せない。

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