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人を動かすのは、利益か?恐怖か?

「ナッジ理論」というものがあります。

もともとは英語の「NUDGE」で、直訳すると「ひじで優しく押したり、軽くつついたりする」という意味。それが転じて、ちょっとしたきっかけを与えて、消費者に行動を促すための方法として注目されているものです。商売やマーケティングをしている人、これから広告業界などに行きたいと考えている人なら必須で知っておかないといけない理論だと思います。

このナッジ理論は、ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー教授が提唱したもので、僕も講演ではよくお話していますし、拙著「ソロエコノミーの襲来」の中で詳しく書いています。

さて、そんなナッジが災害時にも有効活用できるのでは、というNHKのニュースがありました。

これは非常に興味深い結果です。

地震や台風などの災害が起きた時、以下のふたつの放送、どちらを言われた方があたなは動きますか?

「あなたの避難がみんなの命を救う」
「あなたが避難しないとみんなが死ぬ」

一見すると、前者「あなたの避難がみんなの命を救う」っていわれた方が動きそうなものですが、実際は後者なんです。

キレイごとでは人は動かないということ。もっとはっきり言えば、リスクを提示しないと人は動かないということです。これは命に関わる案件においてとても大事な視点。避難を促す行政の放送だけではなく、テレビなどの放送においてもそうかもしれません。最近、台風などでは「命を守る行動をとってください」という言葉が使われていますが、本当はそんなキレイこどの言葉ではなく「逃げろ! 死ぬぞ! 」の方が効果あるんですよね。

お金で考えてもそうです。

「〇〇したら1万円あげます」より「〇〇しないと1万円取られます」と言われた方が人は動く。

ナポレオンはこう言いました。「人を動かす2つのテコがある。それは恐怖と利益である」と。

そして、利益より恐怖の方が人は直観的に動いてしまうものです。


とはいえ、これはいわゆる政治では恐怖政治だし、マーケティングにおいては脅迫マーケティングといわれているもので邪道なんです。


本来「ナッジ」というものは、人の行動をよりよくするための選択肢を提示することであり、こちら側の意のママに誰かを動かす手法ではありません。


今日、訃報が届きました。野村克也さんがお亡くなりになりました。生前、ぼやきと言いながら、ノムさんは多くの名言を残してくれました。そのひとつが前述したナポレオンの言葉に付け足しをしたものです。

ナポレオンは「人を動かす2つのテコがある。それは恐怖と利益である」と言ったが、私はこの2つに「尊敬」を加えたい。リーダーは「利益と尊敬と、少しの恐怖」で組織を動かしていくべきで、その潤滑油が「笑い(ユーモア)」だ。

非常に含蓄のある言葉です。

この「笑い」というか「ユーモア」は非常に大事です。

ナッジの好例として、よく使われるのが「ハエの絵」の話です。いつも利用者によって汚くなってしまう公衆トイレですが、男性の方はよくわかると思いますが、小便器の周りっていつも飛び散った小便で汚れています。それを「キレイに使いましょう」なんて貼り紙しても効果はないわけです。「もう一歩前へ」とかも同様です。

それを飛び散らないようにする仕組みが「ハエの絵」なんだそうです。便器に「ハエの絵」を書いておくと、男の習性として必ずそのハエめがけて小便をかけます。そのおかげで、小便が便器内におさまり、結果としてトイレがキレイになるというものです。

効果の真偽に疑問も多少はありますが、言いたいことは、トイレをキレイに使わせたいなら、理屈で説いても無駄で、無意識にそうせざるを得ない環境を提示することが大事だという点です。

僕自身が、最大の「ナッジ」と言えるのは以下の事例です。

いつもゴミだらけの公園があったとします。誰もがゴミを公園に捨て去るからで、ゴミがあるから他の人も気にせずポイ捨てしてします。そんな公園をキレイに使わせるのに、ナイキが海外で実施した事例がこれです。

ナイキナッジ

ゴミ箱にバスケットゴールの板をつけただけです。

これによって、ゴミをポイ捨てしていた人達がみんなゴミ箱にゴミを入れるようになりました。バスケのシュートのようにゴミを投げ入れるわけですね。はずしたら、もう一度やり直して、結果的に入れるまでやります。下手すると、自分のゴミじゃなくても、誰か他人の落としたゴミをわざわざ見つけて、シュートする人も出ます。

これも、一言も「ゴミを捨てるな」とか理屈や言葉を使ったわけじゃありません。板一枚おくだけで、人の行動を生みだすことができるのです。そして、そこにはクスッとしたくなるユーモアが隠されています。


我々は、人間が意思とか理屈とか、合理的判断によって行動すめものだと思いがちですが、とんでもない間違いです。人間の行動は環境や感情によって生み出され、理屈はその行動をとった自分自身を正当化するための弁護作業でしかありません。

そういう人間の本質を知らないで、知識を詰め込んだり、道理を説けば人間が動くなんていうのは傲慢な考え方です。

もちろん、意思によって行動する場合もあるでしょう。しかし、ほとんど大部分の人は、行動したからそこに意思があったと思い込んでいるだけです。

理屈では人は動かない。意思があればなんでもできるなんてものは後付けの屁理屈です。

命令とか「べき論」で人が動くと思っている人は、本当にお気楽だと思う。


だからこそ、最近のいきすぎた感情主義は危険だなと感じざるを得ません。各人が不快だと思ったこと徹底的に排除し、その行動を後で「これは正しい」と後付けの理屈付けをして、正義感ヅラしている状況のことです。

「そういうことをしないようにしましょう」なんて言葉が無力であることはは説明した通りです。求められているのは、環境を作ることの方だと思います。

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コメント (2)
いつも勉強させて頂いてます。いい記事ありがとうございます。
トゥキディデスが「戦史」で戦争の三原因として挙げてるのが、利益、名誉、恐怖ですから、多くの人間を動かす誘因としては今も昔も変わらないという印象です。
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