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「全社員ジョブ型」の「全社員」には非正規社員も入っているか(同一労働同一賃金の関係)


こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

寒い日が続きますね。私の出身の石川県白山市でもかなり雪が降りました。

さて、今回は、前回に引き続きジョブ型雇用について書いていきます。

前回記事も「ジョブ型」でしたが、今回も続けて「ジョブ型」について書いていきます。

以下の記事にあるように、日立製作所では、全社員ジョブ型にするということのようです。

一言で「ジョブ型」といっても、「職務限定」の労働契約ではなく、実質はただ成果主義を言っているだけの場合や、労働契約自体は「職務無限定」としつつ賃金制度だけを「職務給」とするものもあり、様々です。

上記の記事での「ジョブ型」がどういうものを指しているかは定かではありません。

ただ、私は、「全社員」の中には、非正規社員が含まれているのかが、いわゆる同一労働同一賃金の関係で、非常に気になっています。

裁判所は基本給の待遇差は不合理でないとする傾向

さて、働き方改革関連法で導入された、均衡・均等待遇規定(いわゆる同一労働同一賃金)に関しては、既にいくつか最高裁や裁判例が出ています(厳密には改正法前の労契法20条のものですが)。
しかし、今のところ、基本的には基本給の待遇差は「不合理でない」とするものがほとんどです(定年後再雇用の事案で不合理とされたものはありますが)。
以下では、一例として、大阪医科薬科大学事件の高裁判例(大阪高裁平成31年2月15日)を例に挙げます)の判示を見てみましょう。
同判決では、以下のように述べています。


「正職員には原則として勤務年数により昇給の道が開かれているのに対し,アルバイト職員には原則として職務の変更がない限り時給の変動がないと定められていることを併せ考慮すると,正職員の賃金は勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給的な賃金,アルバイト職員の賃金は特定の簡易な作業に対応した職務給的な賃金としての性格を有していたといえる。
 以上のとおり,職務,責任,異動可能性,採用に際し求められる能力に大きな相違があること,賃金の性格も異なることを踏まえると,正職員とアルバイト職員で賃金水準に一定の相違が生ずることも不合理とはいえないというべきである。」

基本給については、同事件の最高裁(令和2年10月13日)は判断しなかったため、少なくとも最高裁も上記判断を否定はしていないことになります。

基本給は「メンバーシップ型雇用」に守られている

上記の高裁判例は、誤解を恐れずにざっくり言えば、「正社員は職務無限定で雇用し広くジョブローテーションをして昇進していくことを前提に『職能給』を、アルバイトは職務を限定して雇用しジョブローテーションをしないことを前提に『職務給』をとることは、両者に待遇差が生じるけども不合理ではない」としています(実際には、正社員転換制度等も考慮していますが、省略します。)。

上記の判断は、「正社員はメンバーシップ型で雇用されていて、ジョブ型で雇用されている非正規社員とは職務の内容やそれらの変更の範囲、責任も違うのだから、待遇差があっても問題はない。」というように「メンバーシップ型」、「ジョブ型」の対比で言い換えても、大きく問題はないでしょう。

これは、ある意味「人基準」と「仕事基準」とで、そもそも両者は物差しが違うということもできるでしょう。

「“全社員”ジョブ型」は非正規社員を無視できない

上記のとおり、大阪医科薬科大学事件の高裁判例は、「正社員はメンバーシップ型で職能給、アルバイトはジョブ型で職務給をとり、結果として待遇差が生じても不合理でない」としています。

となると、基本給の待遇差の不合理性を否定する方向に作用していた(したがって、企業側の言い分を守ってきた)「メンバーシップ型」を「ジョブ型」にした場合、アルバイトの人たちと同じ物差しを使わなければならなくなり、非正規社員との関係も考慮に入れざるを得ないでしょう。

そうなった場合、「全社員ジョブ型」としつつ、依然として正社員と非正規社員との待遇差が残っているとすれば、それはいよいよ「雇用形態による待遇差」と言わざるを得なくなくのではないでしょうか。

冒頭引用した記事では、「管理職だけでなく一般社員も加え…」とありますが、このなかには、非正規社員も含まれているのかが非常に気になっています。


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