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【日経COMEMOテーマ企画】世の中を変える「お金の使わせ方」(理論編)

今年最後の日経COMEMOテーマ企画は、「#世の中を変えるお金の使い方」というテーマでコラムが募集されている。経済を回し、社会を元気づけるために消費は重要な要因だ。明るい2020年を迎えるためにも、社会を元気にする消費について考えることは良いことだろう。COMEMOのテーマ募集記事の社員も素晴らしい笑顔で飾られている。白い服を着た眼鏡のおじさんの笑顔は最高だ。


お金がない人々に金を使えという愚

しかし、そもそもの話として、日本はお金を使っている場合なのだろうか。政府は老後のために2000万円を貯蓄しろと言い、子供を産むことの経済的負担を考えると二の足を踏んでいる20代・30代夫婦が多いのが日本の現状だ。内閣府の調査によると、9割の人々が子育てを大きな経済的負担だと考えている。

このような状況で、「頑張って消費しましょう!」と声高に叫んだところで、多くの人々が「そりゃあ、大学の先生は生活に余裕があるからそんなこと言えるんでしょう」と鼻白むことだろう。なお、国立大教員の給与はそんなに良くはないし、学生への奢りやなんやらと自腹も多いので生活に余裕はない。頑張って働けば働くほど、自腹を切らざるを得ないのが国立大教員の現状だ。世知辛い。

日本の社会を元気づけ、景気を良くしたいとおもうのであれば、まずは「日本は先進国最低の貧困国である」という現状から目を背けるべきではない。

日本の深刻な貧困問題と抜け出せない泥沼状態は、米国でも広く知られている。ブルームバーグに寄港された記事では、「真面目で勤勉に暮らしても貧しい国」として揶揄されている。

また、一昔前は日本より低水準の給与だった、中国やASEAN諸国の所得も日本を追い越してきている。大企業級の課長・部長クラスの年収は、中国をはじめとしてタイやインドネシアが日本の平均的な課長・部長クラスの給与を超えてきている。


「外国人にお金を使わせる」こと以外を考えてはいけない

人口が増加傾向にあり、国内市場が成長している時代には内需をベースにしたビジネスでも景気を活性化させることができる。消費をすればするほど企業は潤い、国内市場から得た利益が従業員に還元される。給与を増加させることによって、優秀な従業員を惹きつけ、より多くの収益を生むことができる。縮小している国内市場でいくら頑張っても給与が上がらないのは、給与を上げた結果として企業の収益を増加させる見込みが薄いためだ。

このロジックから言えば、成長している市場で収益を得るビジネスに従事する従業員の給与は伸びることになる。この観点から見ると、どこの市場をターゲットにすべきかが見えてくる。

もし、高付加価値・高単価な商品を扱うのであれば、先進国でもGDP成長率の高い市場をターゲットにすべきだろう。

経済産業省の資料によると、2018年、先進国で最もGDP成長率が高い2か国は、米国(2.9%)とスペイン (2.5%)である。反対に、先進国で最もGDP成長率が低い2か国は、日本(0.8%)、イタリア(0.9%)だ。

GDPの成長率で考えると、勢いがある市場は新興国にある。世界で最も経済成長が著しいのはインド(7.7%)であり、次いで中国(6.6%)だ。ASEAN平均でみても5.5%の実質GDP成長率を誇り、勢いのあるアジア諸国の中で、日本だけが低迷していることがわかる。

また、新興国ならどこでも良いのかと言うとそういうわけでもなく、ブラジルやアルゼンチンなどのラテンアメリカやサウジアラビアやトルコなどの中東は安定性に欠ける。

社会を良くするために消費を回すのだとしたら、米国やスペイン、インド、中国、ASEANの人々にお金を使ってもらうことを考えるべきだろう。日本を元気づけるために求められているのは、地域密着の「あなたの親愛なる隣人」ではない。

しかし、残念ながら、多くの大企業が自力で海外から収益を得る試みを諦めているようにも見える。昨今、相次ぐ海外企業のM&Aによる海外事業の拡大は財務上のグローバル化(海外売上高比率や外国人管理職比率)を押し上げているが、これではM&A先の従業員と経営層の給与が上がることはあっても、日本で働く従業員の給与が上がることはない。日本人従業員の給与を上げても、コストが増すだけで経営上のメリットが何もないためだ。


海外からの収益モデルは、大企業主導ではなく、個人主導

外国人にお金を使ってもらうために、大企業の戦略転換を期待するのも難しいだろう。これらの企業の多くが、なんとかしようと多くの試行錯誤を繰り返した結果、海外企業投資という判断に落ち着いている。何も努力をしてこなかったわけではない。

肝心なのは、大企業がなんとかしてくれるだろうという他人任せの発想ではなく、自分がやろうという当事者意識だ。幸いなことに、インターネットや物流システムの発達によって、個人や零細企業の規模でも大企業のような海外ビジネスを行うことが可能になっている。このような、海外から収益を得るビジネスモデルを持った小規模事業体のことを「生まれ持ったグローバル企業(Born Global Company)」と呼ぶ。

2020年は、日本の至る場所から数多くの Born Global Company が生まれることを期待する。

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