コミュニティの力で「メセナ」の民主化をしたい
先日公開した記事『博物館の「未来をつくる」お手伝いをしたい』が、ありがたいことにとても多くの反響をいただいた。今回は、より具体的にぼくらがどのようなかたちで博物館・美術館などの文化施設を支援していきたいのかについて綴っていきたい。
芸術文化の活動を支援する企業活動
タイトルにある「メセナ」という言葉は、日本ではあまり馴染みのない言葉かもしれない。メセナは「企業が芸術文化を支援する活動」を指す。
公益社団法人企業メセナ協議会が発表する「2023年度メセナ活動実態調査[報告書]」によれば、2023年度のメセナ活動費の総額は約190.5億円。アンケート回答企業のうち180社は30年以上にわたりメセナ活動を継続しているという。
バブル崩壊やリーマンショック、そして最近ではコロナ禍という社会的・経済的な変動がありながらも、芸術文化支援の灯火を絶やすことなく180社もの企業の方々には尊敬しかなく、オシロ社としても見習わずにはいられない。
現在、メセナにおける支援のあり方も多様化しつつある。下記の記事にあるように、企業側がただ資金を提供するのではなく、自社で持つ技術やリソースなどを博物館やアーティストに提供することで、素晴らしい芸術体験や創作活動を共創していくかたちも増えているという。
このような共創を前提にした支援は非常にクリエイティブであり、実際に芸術文化活動に参加する社員の方々には普段とまったく異なる刺激を受けることにもつながるため、得られるものも多いだろう。「日本を芸術文化大国にする」を掲げるオシロ社としてもぜひこういった活動と連携・支援し、輪を広げていきたいとも考えている。
理想は景気に左右されない自立自走した運営基盤
上述のように、企業によるメセナ活動では巨額の資金が投じられている。日本における芸術文化活動に対して、メセナが大きなインパクトをもたらしていることは間違いない。
しかし、その反面でメセナだけではカバーしきれない範囲があることも事実だろう。例えば、メセナは多額の資金により支援されるが、支援先には偏りが生まれやすい。従前の報告書では活動分野についても詳報されているが、やはり世間的に人気の分野やCSRとして広報がしやすい分野での活動が多い。逆に博物館や美術館の運営で非常に重要な保存・修復、さらにいえば芸術文化を未来へとつなげる評論・研究の分野への支援件数は少ない。
もちろん、企業がメセナに取り組むことはとても素晴らしいことであり、大きな社会貢献であることは間違いない。一方で、華々しい表舞台の裏で行われている努力や、地道な調査・研究にも充実した支援が行き届くようにしたい。
もう一つあげると、芸術文化への支援は景気に左右されやすい点がある。やはり、多くの企業にとってメセナ活動はあくまでも「慈善活動」であり、CSRやSDGsの文脈から支援している。もちろんそれらの活動も大切ではあり、実際に多くのメセナ活動によって数多くの文化施設が生まれ、活動を継続でき、アーティストやクリエイターの創作活動支援も実現している。
このような敬意を持ちつつも、やはり数字はシビアだ。報告書中に記載されている活動費総額の推移を見ると、当然だけどバブル崩壊後、リーマンショック後、そしてコロナ禍の時期にメセナ活動は抑制傾向になっている。もちろん、企業の至上命題は利益の確保と従業員の雇用維持にあるため、企業が危機的状況にある中では事業以外の資金を拠出することは難しい。
最近でも企業運営の美術館が休館になるニュースが話題となっているが、博物館や美術館をはじめとする文化施設は資金調達の手段が乏しく、交付金やメセナ、寄付などの支援金頼りになっている場合も多い。まさに運営基盤となるベースが脆弱となっているのだ。先日の記事でも書いたが、ぼくはこのような脆弱性を脱却し、一つひとつの文化施設がさまざまな収益手段を手に入れることで自立自走した運営基盤が理想だと考えている。
その新しいアプローチとして、ぼくはオシロ社が開発・運用するコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」によって、今回のタイトルにあるメセナの「民主化」を実現していきたい。
「民主化」がもたらすコレクティブ・インパクト
「民主化」とはつまり、芸術文化支援の門戸をより広く個人に向けて開放していくことを指す。しかし、それだけでは賛助会員や友の会、クラウドファンディングでも可能だろう。ぼくとしてはそこにコミュニティの力が加わって個別に存在する応援者同士がつながり、強い絆のもと「応援団」になる。それにより継続的で参入障壁の低い仕組みをつくっていきたいと考えている。
さらにいえば、コミュニティを一つのハブとして機能させ、共創を生み出す仕組みを構築することもできるだろう。「メセナの民主化」とは企業が担うメセナ活動を、個人でも芸術文化を継続的に支援していけること、そしてこれまで芸術文化支援を担ってきた企業と、一個人の応援者が交わることで、芸術文化を起点とした新しい共創のスタイルが生まれていくのでは、とも考えている。つまり、メセナの民主化とは支援の門戸を広げることで、さまざまなステークホルダーが交じり合うことでコレクティブ・インパクトをもたらす仕組みなのだ。
ぼくは企業メセナをはじめ賛助会員や友の会制度、さらにいえばクラウドファンディングの次の一手として、メセナの民主化を「メセナ・コミュニティ」という新しいスタイルで、芸術文化を守り、未来につなげていくための必要な手段になりえると考えている。メセナ・コミュニティ以外にも芸術文化支援できる方法があるかもしれない。いずれにせよ、継続・持続的な方法かつ、ステークホルダーの負担も無理なく、ただお金を得るだけではない手段が理想的だ。
オシロ社では、先日から本格的に博物館・美術館などの文化施設に向けた支援に注力していくことを発表し、着々と実現化に向けて話を進めている。近い将来この場でも事例を紹介できるようにしていきたいと思っているので、ぜひ楽しみにしていただきたい。