地方発ユニコーン企業が明日の日本を創り出す②【業種・産業編】
ユニコーン企業というと、どのような業種をイメージするでしょうか?
恐らく、最も一般的なイメージはメルカリやUberのようなIT企業でしょう。新進気鋭のITエンジニアが集まり、インターネットやスマートフォン、PCなどのソフトウェアやアプリケーションを開発している姿がユニコーン企業の典型的なビジネスモデルではないでしょうか。
しかし、実際のユニコーン企業の一覧を見てみると、必ずしもインターネットやアプリケーションなどのバーチャルな世界で戦っている企業ばかりではないことがわかります。前回紹介した3社をみても、うち2社はクラフトビールと義手・義足の製造というIT業界ではない企業となっています。
ユニコーン企業ということは、世界規模で急成長しているスタートアップです。スタートアップと普通の中小企業の区別は、クリステンセンが指摘するような、既存のビジネスや市場を変革するような破壊的イノベーションを起こしているということです。地方都市からユニコーン企業を生み出すのであれば、現在、どのようなビジネスが破壊的イノベーションを起こしているのかを知ることはビジネスアイデアを考えるうえでの重要な参考資料となることでしょう。
1. ユニコーン企業へと成長するための多様な道筋
CBインサイトのリストをまとめると、290社あるユニコーン企業は69業種に分類することができます(69業種のリストは最下部を参照ください)。
業種を見てみると、1位が「eコマース/マーケットプレイス」、2位が「フィンテック(Fintech)」、3位が「インターネット・ソフトウェア&サービス」、4位が「オンデマンド・サービス」、5位が「ヘルスケア」となっています。割合でみると、上位5業種で全体の46.55%を占めています。
そして、69業種中57業種が企業数5社以下であり、非常に多様性があることがわかります。そのほとんどが、ITやソフトウェア、アプリケーションなどの所謂、IT企業と呼ばれるものです。ですが、ハードウェア開発や製造業、コンサルティング会社など、一般的なユニコーン企業のイメージとは異なる業種のビジネスも多く含まれています。
それでは、IT企業ではない業種ではどのような企業があるのでしょうか。具体例として、直近3年以内にユニコーン企業のリスト入りした評価額の高い順に2社ほどピックアップしてみましょう。
1-1. JUUL(評価額:約1700億円、2017年12月リスト入り)
JUULは、2017年7月に創業したばかりの電子タバコの事業会社です。スタンフォード大学の2人の大学院生が発表した論文を元に立ち上げられた企業で、当初は PAX Labsの傘下だったものが2017年にスピンアウトしています。
日本では法規制の問題で普及していませんが、欧米での普及率は高く、伝統的な企業は電子タバコの市場を奪われています。米国市場に至っては、72%の市場シェアを持ち、タバコ市場に変革をもたらしています。
1-2. Samumed(評価額:約1500億円、2018年8月リスト入り)
Samumedは、サンディエゴに本社を置く再生医療薬品の企業です。毛髪、皮膚、骨や関節の再生に取り組んでいます。近年、ヘルスケア領域のスタートアップ企業に対する投資は急激に増え、全世界から注目が集まる分野です。
2. 地方都市におけるスタートアップ企業の業種
これまで見てきた企業は、大都市圏も含めたユニコーン企業全体の話です。そのため、事例として挙げた2社もサンフランシスコにサンディエゴと大都市圏となっています。
しかし、本稿のテーマが「地方発ユニコーン企業」とするのであれば、地方都市の規模で、どのような業種が成長を遂げているのかを把握する必要があるでしょう。
下図表は、東京・大阪・名古屋の3大都市圏以下の人口の都市を本拠地に持つユニコーン企業(45社)の業種です。
図表にある企業数の多い業種を見てみると、「eコマース/マーケットプレイス」「フィンテック」「ヘルスケア」など、ユニコーン企業全体でみても大きな変化はありません。
一方で、地方都市の規模にしかない業種は5つ(「ヘルス&ウェルネス」、「保険テクノロジー」、「マネジメント&戦略コンサルティング」、「ソフトウェア」、「サプライチェーン・テクノロジー」)確認できます。
このように、大都市ではなくとも多様な業種のユニコーン企業が生まれていることがわかります。つまり、都市の規模や業種に関係なく、ユニコーン企業が生まれる可能性はあるわけです。
3. まとめ
これまで見てきたように、都市の規模に関係なく、地方都市のユニコーン企業は多種多様な業種に分かれていることがわかります。ただ、これらの業種を見ていると、3つの傾向が見えてきます。
第1の傾向は、最先端科学技術を強みとして投資を集めている企業群です。最近注目を集めているAIや再生医療、ロボティクスなど、まだ具体的な商品やサービスにまで至っていない場合もあるが、将来の可能性が強く期待されています。これらの企業群は、大学等の研究機関と密接な関係にあることが多いです。(Samumed、Darktrace、Adaptive Biotechnologiesなど)
第2の傾向は、伝統的なビジネス領域に対して、破壊的なプロダクトやサービスを提供している企業群です。例えば、Allbirdsは、ビジネスでもスニーカーが履かれる時代の流れを掴み、プレミアム感のある環境に配慮したスニーカーを出すことで、既存のスニーカー市場を打ち壊すことに成功しています。また、Birdのシェアリング電動スクーターは、カリフォルニアの新たな交通手段として既に定着してきています。この企業群には、前回紹介したBrewDogや前述したJuulも当てはまります。この傾向で最も多い業種は、eコマースやマーケットプレイスによる小売り・物流の破壊的イノベーションがそれにあたります。
第3の傾向は、ある特定領域に特化したテクノロジービジネスです。日本でも、ここ近年、HRテクノロジーや教育テクノロジーなどの特定領域の生産性向上を目的としたテクノロジー企業が増えてきました。この傾向では特に、金融と教育、旅行分野でのテクノロジーの応用が盛んに行われています。一方で、飲食店や農業、環境整備など、テクノロジーを掛け合わせることでイノベーションを起こすことができる領域は未だ無数にあり、拡張性の高い分野であると言えます。
以上のように、ユニコーン企業の業種は多様な広がりを見せています。大都市ではなくとも、科学技術やテクノロジーを上手く活用し、既存の市場を破壊するイノベーションを起こすことでユニコーン企業へと成長している企業は数多くあるのです。
【付録】