見出し画像

2025年のビジネス環境<仮説>

新年はやめに公開するつもりが、米国のトランプ大統領の就任前から様々なうごきがあり、タイミングが遅くなってしまった。

2年前の2023年に、当年のビジネス環境に関して私なりの見方を、半ば自分用のメモとしてまとめた。いま、答え合わせ的に読み返すと、手前味噌ながら、大きくは外れておらず、当たらずといえども遠からずのこの2年間だったのかと思う。

これを読み直し、この2年の変化を加味して、今年のビジネス環境の展望を自分なりに考えてみたい。今回も、あくまで私個人の考え方ということであり、個々の分野の専門家・スペシャリストではないことから、これが当たっているかどうかについては、批判的に判断して頂き、取り入れる部分があったりそうでない部分があったりということでご活用頂けるなら幸いだ。


この2年の3つの大きな変化

仮説を立てる前に、まず、前回2023年からの2年間で顕在化した変化を3つあげておきたい。

1つ目は、日本の人口減少の影響の顕在化である。2つ目として、AIの台頭 がある。そして、3つ目が不安定な国際情勢、中でも台湾有事を筆頭とする 東アジア地域の情勢の流動化である。

変化1:日本の人口減少の影響の顕在化

まず 人口減少についてである。少し前までは少子高齢化と言われてきたものが、はっきりと労働人口の減少・人手不足という形で顕在化してきたのがこの2年と言えるだろう。ニュースで人手不足という言葉を見ない日はないと言っても過言ではなく、それに応じて、最低賃金に限らず賃金の上昇を政府が促すなど、企業の経営環境にも大きな影響が出てきている。

変化2:AIの台頭

2つ目はAI、特に生成AI の台頭である。元々数年前からAI技術の急速な発展は注目されてきたが、いよいよそれが多くの会社や人にとって身近に利用できるものとして登場してきた。特に、デスクワークのうち、正確性は求められても創造性は求められない事務仕事は、今やAIが肩代わりできるレベルになってきていると言ってもよいであろう。変化1の人手不足とは対照的に、この部分では人手が要らなくなり、人間の仕事がなくなっていくという状況が起き始めている。

変化3:国際情勢、特に東アジア地域の不安定化

そして3つ目が国際情勢の不安定化、特に東アジア地域の流動化である。かねて言われてきた台湾有事であるが、中国が軍事行動を活発化させる一方で アメリカでは2度目のトランプ政権が誕生し、その政策の柱はアメリカファースト、つまりはアメリカ以外の地域でのプレゼンスを気にしないという政策である。こうした中で、東アジア地域に対するアメリカの関与及び関心が薄まるのであれば、中国が台湾を侵攻するのではないかという懸念が現実のものになってきている。

これら3つの変化を踏まえて、2025年にどのようなビジネス環境が予想されるのか、2023年の項目の差分を記す形で考えてみたい。

終わらない、下からのグローバリズムと上からのグローバリズム

まず、グローバリズムについてである。

トランプのアメリカが進める、下からのグローバリズムの縮小

2度目のトランプ政権誕生によって、大きく見ると、アメリカがアメリカファースト、つまりは反グローバリズムと言ってよい政策に舵を切ることは明白になっていると言えるだろうし、実際にそういう動きになっている。 それが正しい政策かどうかは別として、アメリカの自国優先主義がはっきりと見て取れるようになるのが、トランプ政権の今後4年、少なくても次のアメリカの中間選挙までの2年と考えておくのが良いのだと思う。

それを先取りするように、日本製鉄による US スチール買収は現バイデン政権によって阻止されることになった。これも今後政権を引き継ぐトランプ氏の政策を、民主党としても先に取り入れたということなのかもしれない。

このような中で、2023年の投稿で書いたいわゆる「下からのグローバリズム」 はますます縮小していく方向になるのだろうと思われる。すでに起きはじめていることだが、中国をサプライヤーとして物を組み立てて販売するといったことは、対アメリカ輸出ということを考えると大きなハンデを背負うことになる。そうであれば、中国に代わる存在を見つけていくことになるのだが、例えばそれが果たして米国の自国内生産への回帰なのか、あるいはインド等の国であるのかどうかということはまだはっきりとしない。自国内生産に回帰するといっても、一方で移民流入を制限する方向に動いているトランプ政権下で、人手が必要な部分はまかないきれるのか、一方で人手を借りずに機械化を進め、結局はトランプ氏の支持層といわれるブルーカラー白人層の仕事が減るのか、その結末ははっきりしない。

上からのグローバリズムの進展は、アメリカ偏重の視点では見えないかもしれない

一方で、「上からのグローバリズム」はますます進展するのではないかと思われる。2年前に書いたデジタルノマドビザについては目立った進展がなかった日本ですら、外国人起業家のビザ要件を緩和するといった動きが、遅まきながら出てきている。

先進国は、今後ほぼ例外なく高齢化が進み、日本と同じような状況が生まれてくると思われるなか、 AIでは肩代わりできない、いわゆる高度人材の取り合い・囲い込みは、ますます激化するのではないだろうか。唯一の例外はアメリカかもしれない。アメリカは移民に支えられる形で国としての人口は増加していく見通しである(少なくても第二期トランプ政権誕生までの予測では)。一方で、アメリカ国内にこうした移民と白人を中心とした人々の断絶が起きており、矛盾を抱えている。今回、トランプ氏が メイク・アメリカ・グレート。アゲインという標語で大統領選を勝ち取った。私からすればアメリカは現在もグレートな国だと思うのだが、 特に中低所得者の白人層からすると、移民にアメリカを乗っ取られてしまった、白人中心の、少なくても白人にとっても輝かしいアメリカを取り戻したいというのが、この標語に込められた意味なのだろう。

こうした中で、アメリカだけを見ていく政策や経営方針は、今後必ずしも日本にフィットしないものになっていく可能性があると思われる。むしろ、日本と同様に高齢化や人口減少に悩むアメリカ以外の先進諸国に日本と類似のマーケットが生まれ、そこに日本の商品やサービスがフィットするという可能性は高まっていくのではないだろうか。この時に、どうしてもアメリカ偏重で物を見てしまう日本(人)の習慣がマイナスに作用しないように、気にしておきたい。

上からのグローバリズムが見えない空洞化を生む懸念

そして、コロナ禍以降、いわゆる高度人材にとっては活用の自由が生まれたリモートワークによって、住む場所を変えなくても実質的に移住して働くのと同じように仕事が出来てしまう環境は整っており、それはビザ要件の緩和やデジタルノマドビザの浸透によってますます加速する可能性がある。優秀な日本人が、労働力としては国外に出てしまう可能性がある一方、こうした人材を海外から日本に呼び込めるか、も課題になるだろう。それが物理的な人の移動を伴わない分、見えないことで難しさを加速するかもしれない。

日本を取り巻く地政学的環境の変化

考えておくべき中露(+北朝)のシナリオ

変化3で書いた通り、日本を取り巻く地政学的な環境は、2度目のトランプ政権の誕生によってますます不安定化すると考えている。アメリカの東アジア地域に対する関与・関心が薄まるのであれば 、中国が台湾や東シナ海において領土拡張の動きを見せることは十分に考えうるシナリオだろう。習近平政権の今後や、日本以上に急速に進むと考えられる中国の高齢化を考えると、中国としてもこうした軍事行動に出るタイミングはあまり先に伸ばせないという事情もあると思われる。

日本としてはこうした地政学的な大きな環境の変化を想定しておく必要があるのだと思う。そしてワーストケースとしては、例えば、何らかの形でウクライナ情勢が落ち着いた状況の中で、南を中国から、北はロシアから挟み撃ちで攻められるといったこと、加えて日本海側において北朝鮮が何らかのアクションを起こすといった事態が起きたらどのように対応するのか。個人や 個別企業のレベルでは対処のしようのない部分も多いが、1つの想定としては考えておかなければならないのかもしれない。

日本にカントリーリスクはないのか

その意味で、日本にカントリーリスクがないと思うのは幻想かもしれない。むしろ、カントリーリスク はないと思ってる人が多い分だけ、有事が起きた時にそれに対応できない可能性がある。日本人ビジネスパーソンと話していた時に、 台湾はカントリーリスクがあるのでビジネスをしにくいという趣旨の発言を聞いたが、 むしろ、台湾は有事を織り込んで動いている分だけ、何かあった場合でも、少なくても最低限の対応をすることはできるのではないだろうか。こうした点で、日本のバブル後の数十年で言えば日本企業よりもはるかに世界展開力がありネットワークも有している台湾企業と日本企業の協働は、逆説的かもしれないがリスクヘッジの観点からも考えられて良いのではないかと個人的には思うが、一般的な日本のビジネスパーソンの現状認識からするとそれはなかなか難しいのかもしれない。先日の日産の本田との経営統合の動きの裏側で、台湾・鴻海のアプローチを封じたことにもそうした考え方を感じる。

国際的な経済金融の動向

アメリカの好況と世界のインフレはいつまで続くか

おおかたの予想に反して、この2年もアメリカ経済は好況がつづいた。これは、FRBが多少引き下げたとはいえ高金利の継続につながり、それもまた円安が続いている要因となっている。

このまま好況が継続しつづけるのか、それはいつまでか。歴史を振り返れば、永続的な好況はありえない。とはいえ、いつまで続くのかは、トランプ政権のかじ取りにもよるのだと思うが、何とも見通せない。

そして、この2年間もそうであったが、世界全体としてのインフレは当面続いていくのではないかと思われる。労働力の供給源であった中国をいわゆる 西側の陣営が当てにできない状況になってきている以上、いずれにしてもコストは高くついてしまい、最終的にそれが 物価に反映していくという動きは継続していくのであろう。先進国の高齢化による働き手の減少もそれを加速させる要因になるのかもしれない。

日本の円安の行方

また日本に限って言えば、 4年連続という歴史的な長さで円安が続いている。

 今後 アメリカ経済が何らかの形で減速ないしは不況に陥り、これによってアメリカの金利が下がることにより相対的に日米の金利差が縮小していけば、 今よりは円高方向に進む時が来るだろうとは思う。ただ、それがかつてのように1ドル100円ないしはそれを切るといったところにまで行くのかどうかは、今の日本の国力を考えると難しいのではないかと考える。人口が減り 国内マーケットが縮小し、国内市場に依存する部分の高い日本経済が今後経済的に大きく成長していくかという点は、なかなか期待しにくいであろうと思われる。その意味で、引き続き日本国内のインフレ基調、そして大きくは円安の基調は、中長期的に継続していくのではないかと思っている。 

日本国内の社会経済環境

受け止めきれないインバウンド

引き続き、いわゆる「インバウンド」の流入は旺盛であるが、それによって、東京などのホテル価格は高止まりしているうえ、慢性的な満室が続いて、この時期は受験生の宿が確保できない、といった問題も起きている。一方で、インバウンドの恩恵をうけることが出来ないでいる地方も少なくないようだが、そうした地域は、下記の記事にもあるとおり、

昭和の時代の国内団体旅行のノウハウやインフラが応用

という旧態依然とした観光客の受け入れ態勢のまま、というところも少なくない。言葉の問題一つにしても、飲食店で英語のメニューすらないとなると、インバウンドの取り込み、特に個人客や富裕層を相手にすることは難しいだろう。掛け声は良いとして石破政権がすすめる「地方創生」をいかに海外にも開かれたものにしていけるかで、生き残れる地方とそうでないところの差が開いていくのではないだろうか。

モラルの崩壊による治安の悪化

最後に、「日本の劣化」ともいうべき課題がある。インフラなども劣化しているが、人間の劣化も進んでいないか。昨年問題になった「闇バイト」では、単なる盗みを働くレベルを超えて、人を死傷させる強盗が多発した。
また、一般にはエリートの部類に入るであろう大企業の会社員や公務員による金融犯罪が多発もしている。

はたして、いつまで日本は安全な国であり続けられるのか。その根幹がゆらげば、インバウンドの流入も細り、日本で働きたい人も減り、また、日本人の海外流失にもつながっていくだろう。実は、この問題はもっとも根深く憂慮すべき事態で、あらゆる点で日本の将来を左右するだろうと思われる。

今、何をやるべきか

以上、私なりの仮説を述べてきたが、個人でできることの範囲、自分や自分の属する組織ができることに絞って考えてみたい。

次の時代に向けての仕込み

これは2年前そのままだが、まず大きくは次の時代に向けての仕込みをすること。この2年で、日本は世界との差が一層開いてしまったように思う。そこを見すえて、キャッチアップすること。これに尽きるといってもいいのではないだろうか。

細かくは、変化するグローバリズムへの対応、変化する金融情勢や国家財政の状況(端的には年金の将来見通し)への対応など、個別の課題は数限りなくあるが、未だに昭和を感じるような政策・施策、企業経営も珍しくない。高齢者が多数を占めるわが国で、足踏みしたり時計の針を戻すような施策は受けがよいのだろうが、それで未来が開けるのかとおもう。保険証ひとつにしても紙から抜け出せない我が国に未来はあるのか、そちらの方が私は一国民として不安だ。政治家も有権者も、すこし目線を上げて考えてほしいと思う。

本年もよろしくお願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!