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首都圏人口一極集中は解消されない。考えるべきは「地方の終活」。

自民党の有志議員は首都機能などの分散をめざす議員連盟を立ち上げた。新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、大災害や感染症に備えて国会や中央省庁、企業、研究機関などが一度に機能不全に陥る事態を防ぐ。

首都機能の分散化とは、具体的には、省庁移転の検討らしいです。

どうでしょう?効果はないと思いますよ。

仮に、省庁が移転して、国家公務員が東京からいなくなったところで、この一極集中が改善されるとはとても思えません。国家公務員なんて所詮日本に58万人しかいません。東京だけでも約790万人の就業者がいます。たかが58万人ごときが移動したところで、1割にも満たない。一都三県を合計すれば、2000万人の就業者がいます。全国のほぼ3分の1の就業者がこの首都圏に集中しているのですから、省庁の移動でなんとかなるという話ではありません。

そもそもなぜ東京や首都圏に人口が集中するかというと、それは仕事があるところに人間は集まるからです。これは、明治以降の人口動態を見ても明らかです。

東京が常に日本の人口トップだと勘違いしている方も多いですが、たとえば明治17年は、日本で一番人口が多かったのは新潟県です。新潟だけではなく、兵庫、愛知、広島の人口も当時は東京より多かった。それは、それらの地域が当時の産業集積地だったからです。

明治からの長期推移を見ても、過去一番人口が多かったエリアは、首都圏でも近畿圏でもなく九州地方でした。

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そして、それより目立つのは、東京の人口増よりも、東京を除く南関東(埼玉・千葉・神奈川の3県)の増加が著しいことです。

東京一極集中といわれていますが、東京よりも集中したのはこの首都圏周辺3県なのです。

戦後の1950年から1985年の間に急上昇しているのは、いわゆる「ドーナツ化現象」といわれるものです。その頃は、郊外への一戸建てを求めて、家族が東京から埼玉・千葉・神奈川に移住したためです。逆に、その時代、東京は転出超過で、出産などにより自然増をのぞけば、流出し続けていたことになります。その証拠に、東京の人口は、1970年から2000年まで、30年間でたった60万人しか人口の増えない人口停滞期になっています。

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とはいえ、2019年に1400万人に東京の人口が膨張したように、2015年以降また東京への集中が加速しました。2015年から2019年までの4年間で東京の人口は、毎年12万人くらいずつ増えています。

タワマンなどの建設ラッシュが東京の人口増だと考えている方もいるかもしれませんが、それは違います。確かにタワマンは増えていますが、それは東京や首都圏内での人口移動にすぎなく、首都圏の人口増に何ら影響を与えるものてはないし、そもそも人数的にたいした数ではありません。

東京及び首都圏の人口増かはほぼ若者の転入によるものです。都道府県別の転入超過推移を見ればそれは明らかです。東京への転入は、ほぼ20-34歳の若年層で占められています。35歳以上の人達はあまり県をまたいだ移動はしません。東京ですら、35歳以上は転入どころか、むしろわずかに転出超過なのです。


つまり、東京に移動しているのはほぼ若者だけで、全国の若者を首都圏が吸い取っているというのが実情です。首都圏以外も若者の転入超過が見られる県はありますが、大阪・福岡・愛知などごく少数で、首都圏ほどの大移動ではありません。

とにかく、東京含む一都三県への集中具合は止まりません。

そんな中、コロナの影響で、郊外へ移住することを一部の上級国民が推奨していたりするのですが、彼らはほんの数年前まで、「何時間も通勤電車に乗ることは非生産的」とか「職住接近こそが生産性をあげる」などと言ってたわけで、何を言ってるんだか、とも思います。

もちろん、物理的にオフィスに行かなくてもよい仕事の人はいいでしょう。しかし、以前も推計した通り、日本の就業者でテレワークが可能な仕事なんてせいぜい3~4割に過ぎません。

そのあたりのデータはこちら↓

「鎌倉あたりに移住して、広い家でテレワークして、家族との時間を楽しむことがこれからの人間の生き方だ」などとカッコつけたいのか、自分は成功者だと自慢したいのかわかりませんが、お前がそうしてのほほんと暮らしていけるのも、毎日店頭で物を販売したり、暗いうちから店に物を納入するために運転しているドライバーや、ゴミを処理する人など、物理的に現場に行って汗水たらして頑張ってくれているエッセンシャルワーカーと言われている人たちのおかげであることを忘れるな、と言いたい。

そして、エッセンシャルワーカーの方々は、東京や首都圏が好きだから住んでいるというのではなく、仕事があるのがそこだからそこにいるのです。

地方創生云々をキレイごとで言ってる人達にも僕は個人的に疑問だし、移住してくれたら金を渡すよなんていう行政の施策もまるで意味はないと考えています。

人を移住させたいなら、そこに仕事がなきゃダメなんです(隠居後の高齢者を集めたいなら別だけど)。

そして、残念なことに、今後も地方で仕事が増えるという見込みはほぼないでしょう。よって、この首都圏人口集中状態が緩和されることは、理論上はあり得ないのです。

もちろん、一極集中しすぎると、大型の災害に東京が見舞われた時どうしようもなくなるという問題はあります。しかし、そうした未来の警鐘を鳴らしたところで、個人の流れを止めることはできないでしょう。

間もなく、2023~24年頃から、毎年150万人以上が死ぬ「多死時代」が到来します。それが50年以上続きます。生まれる人数より死ぬ人数が多い時代が来るわけですから、当然人口が減少しまくります。

ある特定の自治体目線で、自分たちのエリアが人口減少しないように、なにんて考えても無駄です。総体として減るし、皮肉なことに、首都圏だけは転入によって唯一人口が増え続けることになるでしょう。

むしろ今後、地方が考えていくべきは、消滅はやむを得ないとした前提で、どうやって消滅へのソフトランディングを図るのか、という視点の方ではないでしょうか。

地方は、町の死に方を考えるべき時にきていると思います。決して、ネガティブな話ではなく、現実問題として。ステージ4のがん患者への延命措置みたいなものをやる意味はない。間もなくやってくる「多死時代」と合わせて、そろそろ本気で「地方の終活」を考えるべき時にきていると思います。


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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。