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日独比較が好きな日本人

日独比較が好きな日本人
日本の人はドイツとの比較が好きですよね。本当に多く目にすると思います。「日本とドイツは似ている」というのは第二次世界大戦で同盟関係にあったからなのか、製造業を得意とする産業構造のせいなのか分かりませんが、とりあえず日独比較の上で「ドイツにできてなんで日本にできないんだ」のようなロジックはよく目にします。正直に言って、日本とドイツが親密な関係にあった期間というのはその大戦中を除けばさほど多くないことでも知られておりますし、そもそも中国と蜜月関係にあることからしても我が国とは完全に交わり得ない性質をお持ちの国でもあります。

ドイツも問題含み:格差問題
以下の記事中にあるように、ドイツの合理性と日本の非合理性はよく比較されます。

確かに一定の事実なのでしょう。しかし一方でドイツは日本とは比較にならないくらい格差が問題になっている国というのはどれくらいの人がご存じでしょうか。この点は以下の本が本当に名著なので一読推奨でございます


詳述は避けますが、いわゆる日本でも「お手本」として挙げられることの多いハルツ改革は雇用の種類を細分化し、雇用の「量」を稼ぎに行く改革でした。なので失業率は下がりましたが、1人当たりの所得で見るとそれまでよりも格差は当然拡がりました。日本でも非正規比率の高まりが格差問題として社会に表出してきましたが、それと同じです。ハルツ改革を経たドイツは女性や高齢そして外国人を労働供給源として取り込むことに勤しみ、経済の活力維持に繋げました。そう、ここ数年で日本がやっていることです。その意味で日本がやっていることはドイツに20年弱遅れているという部分もあるように思えます。しかし、そうした改革の結果、ドイツにおいても相応の問題が発生していることは見逃せません。

もっと言えば、ドイツは地政学的に波乱含みです。中国と北朝鮮に隣接する日本も人のことは言えませんが、今や欧州はドイツを中心点として経済・金融の上では南北問題、移民を巡っては東西問題、そしてEUの運営を巡っては小規模加盟国(ベネルクス三国やフィンランド等、新ハンザ同盟)との分断問題を抱えています。これを亀裂で表せば縦・横・斜めであり、もはや「ドイツの友人は中国くらい」という皮肉もあるくらいです。その中国とて、欧州圏の港湾を積極的に買収するシルクロード構想がドイツ高官の警戒を買い、最近ではギクシャクする面もあると見受けられますが。

もちろん、上記の記事では「働き方」というつとめて身近な問題ですから外交の論点まで気にする必要はないのかもしれませんが。

ドイツにあって日本にない永遠のギミック
また、マクロ経済の視点で語らせて頂ければ、ドイツには共通通貨ユーロや東欧移民というコストを下げるギミックがあります。ユーロはドイツにとって「永遠の割安通貨」であり、最高の武器の一つです。また、東欧移民の存在は教育水準が高くコストの安い労働力の確保を可能にしました。これらは構造的なものであり日本には絶対真似できないものです。ドイツに学ぶべきところを学びつつ、このような国・地域としての差異もしっかり認識したいものです。

なお、余談ではありますが、ドイツを日本と比べる論者を見ていると「ドイツに住んでいる」ないし「ドイツに住んでいた」ことを強みのように示して議論をする人が多いように感じます。それが悪いとは言いませんし、むしろ貴重な情報もあるなと勉強することもあります。しかし、「そこに長く住んでいる」ということは「日本に長く住んでいない」ということですから、比較論を展開するにあたっては虚心坦懐に議論を進めれば良いのにな・・・と思うケースが凄く多いように感じます。とりわけ経済・金融の議論をする際、驚くほど数字の議論がないことが多いと思います。そういう意味でも上で紹介したイエンス・ベルガーの著作は非常に緻密な分析を展開しており、大変勉強になります。「海外の空気を吸ったら高く跳べるような気がする」という心持ちになる日本人は特に多いと思いますので、分析上は冷静さを失わないようにしたいものです。

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