見出し画像

インドネシアから学ぶ、地方のためのギグエコノミー

Uber、Airbnb、Upwork、Doordashなど、数年前は驚きと共に市場に迎え入れられたギグエコノミー(インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方で成り立つ経済形態)のサービス群も、関連法案や業界規制などのルールが定められ、日本では落ち着いてきた感がある。

日本では欧米などの諸外国と比べて、そこまで大きな盛り上がりを見せなかったギグエコノミーだが、世界的には大きく花開き、社会に欠かせないインフラとして成長した国も多い。そのような世界情勢の中、インドネシアはギグエコノミーが大成功をおさめた国の1つだ。

近年、急速に経済成長を遂げているインドネシアだが、スタートアップエコシステムが最も活況な国としても注目を集めている。10年程前までは、先進国のグローバル企業と華僑系企業が経済成長を牽引していたが、最近は若者によるスタートアップ企業の存在感が増している。

日本で苦戦している時価総額1000億円を超えるユニコーン企業も、インドネシアでは既に5社がリスト入りしている。このうち、インドネシア版Uberと言える Gojek は、時価総額が100億ドルを超える未公開企業にまで成長している。時価総額が100億ドルを超える未公開企業は、ユニコーン企業401社のうち、TOP20しかおらず「デカコーン企業(Decacorn)」と呼ばれる。Gojek は、米国のUber やシンガポールのGrabとは異なり、グローバル展開は発展途上であり、市場のほとんどをインドネシア国内に依存している。つまり、デカコーン企業が国内市場ニーズのみで生まれるくらい、インドネシアのギグエコノミーは浸透していると言える。

AdobeStock_287016445-[更新済み]

インドネシアは緑のヘルメットとジャケットばかり

インドネシアに初めて訪れた人は、緑のヘルメットとジャケットを着た人の多さに驚くことだろう。彼ら・彼女らは、GojekとGrabに登録している人々だ。インドネシアで浸透しているギグエコノミーの2大巨頭と言えば Gojek と Grab であり、配車サービスだけではなく、出前や買い物の配送サービスなど幅広いサービス提供を行っている。

GojekとGrabが登場してから凡そ5年程度しか経っていないが、「ちょっと、どこかに出かけよう」「お腹が減ったから、何か買ってきてもらおう」「来客用のコーヒーとドーナツを届けてもらおう」など、人々の生活になくてはならないものになっている。


地方都市で感じる Gojek のありがたさ

日本でも、Uber eats などのサービスは提供されているが、ほとんどが東京や関西などの大都市圏のみにサービス提供にとどまっている。筆者の住む大分県に、Uber eats が来る気配はまったくない。しかし、インドネシアの Gojek や Grab は地方都市であっても、優れたサービスを提供している。島国のインドネシアは、日本と同じように首都圏一極集中の構造を持っており、基本的にジャカルタに資源が集中している。それでも、地方都市だからと Gojek や Grab が使えないということは基本的にない。

9月上旬の半月ほど、東ジャワ州にあるマラン市に滞在していたが、GojekとGrab の便利さに驚かされた。マラン市は人口約75万人の学園都市であり、インドネシアで17番目の人口規模という中程度の地方都市だ。

元々、インドネシアは新興国であるがゆえに公共交通機関が貧弱だ。筆者は、2011年からほぼ毎年インドネシアに訪れているが、ジャカルタでもスラバヤやマランなどの地方都市でも渋滞のひどさには辟易させられてきた。それでも、ジャカルタは高速道路の整備、トランスジャカルタ(バス高速輸送システム)の開通、地下鉄の開通など、この数年で劇的に変わってきた。しかし、地方都市ではやっと高速道路が通るかどうかといった具合で、地下鉄やバスなどの短距離公共交通機関はまだまだ整備されていない。

Gojek や Grab は、この地方都市における公共交通機関の不便さを見事に解決している。特に、Grabはクレジットカード決済が使えるため、外国人旅行者にとっても使い勝手が良い。

もちろん、 Gojek や Grab にもデメリットはある。特に大きいのは、既存ビジネスとの競合だろう。それまで庶民の足として活用されてきた乗り合いバス(アンコット、angkot)やタクシーの乗客は激減している。低運賃が売りだった乗り合いバスだが、利用者があまりにも減ってしまったために従来の数倍の運賃まで値上げすることもあるという話もあった。しかし、時代の変化によって、古いビジネスが新しいビジネスに取って代わられることは、ある意味で仕方のない変化だろう。この変化を嫌い、変に規制してしまうと経済成長も鈍化させることになってしまう。また、インドネシアの公共交通機関の便が悪いという課題は、いつまでたっても解決されずに放置されていただろう。

画像2

写真:スラバヤのショッピングモールにて、奥に青色のタクシーが並んでいるが、配車サービスの車を待って誰も利用していない。


インドネシアから、日本の地方都市が学ぶべきこと

インドネシアのギグエコノミーから、日本が学ぶことは多い。特に、日本の地方都市では公共交通機関の機能不全が致命的だ。2016年の熊本の震災によって、大分と熊本を結ぶ鉄道である豊肥本線は断絶している状態だが、修復される兆しはまったくない(復興という言葉を使いたくないほど、問題が放置されている)。また、バスや電車の本数は年々減らされている。高齢化社会が益々浸透する中で、公共交通機関がない状態で、高齢者の生活の足をどのようにサポートしていくのか、解決策は見えていない。また、地方における貧困問題も深刻だ。最低賃金の引上げや派遣法の改正で格差をなくそうとしているが、地方における所得の低さは解決の見通しが経っていない。

これらの地方都市の抱える課題の解決策として、ギグエコノミーを活用するという目もあるだろう。地方都市で働く人や主婦層の副業として、自宅の車を使って配車サービスや買い物代行サービスをしても良いはずだ。そもそも、ギグエコノミーが日本で注目された時、Uber や Airbnb のような米国からの黒船ばかりが取り上げられ、インドネシアのように自前のスタートアップが出てこなかった。そして、大騒ぎしている間に様々な規制が作られてしまった。また、日本のスタートアップのよくあるパターンとして、まずは市場の大きな東京で成功してからと考えてしまい、地方の抱える社会課題の解決にいまいち繋がらない。法規制で客車には第2種免許が必要だというのであれば、法規制にかからないように、乗客から運賃をとらずに別の収益源を確保するなど配車サービスの事業形態を工夫すれば良い。

SGDsが注目されているように、市場規模や資金調達の容易さといった資本主義的な要素を重視するのではなく、社会の持続可能な発展を重視して新たなビジネスを生み出していくことが重視されるようになってきている。SDGs型の起業やスタートアップを志すのであれば、日本の地方都市は課題の宝庫だ。解決すべきだが、放置されている課題が山積している。

ギグエコノミーだけではない。キャッシュレスサービスなどの新しい形態のビジネスが、新興国から次々に生まれている。その源泉は、不便や不満といった地元の人々の抱える課題である。そして、同様の課題を抱え、困っている市場を探したとき、世界規模では広大な市場が眠っているというケースを数多く目にする。地方都市が抱える課題を解決するためにも、新興国でみられるような、社会課題を上手く解決し、成功をおさめている企業から学ぶことは多い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?