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息子や娘のかわりに、AIが高齢者を見守る時代がやってくる

IoT(モノのインターネット)というと、家電や自動車などがインターネットに接続されるというイメージで語られることがほとんどです。もちろんこれらの大事な接続先なのですが、わたしはその先にはアナログな物体がネットに接続される未来が重要だと考えています。たとえば森の樹木の一本一本、山あいに住むクマ・シカ・イノシシなどの獣、湖や川のようなものがネットにつながり、IoTを構成するようになる。

生物のようなアナログな物体が、直接にネットにつながるわけではありません。少なくとも近未来においては。

あいだを取り持つのは、各種のセンサです。樹木の様子や獣の行動などをセンサが把握し、それがワイヤレス通信を介してネットにつながるのです。湖や川は水位・水量や水質などがセンサで計測され、それらがクラウドに送られる。

ヒトもIoTの一部になっていく

このアナログなIoTの世界では、人間の身体もIoTとなります。リアル空間のあらゆるアナログな物体までもがネットに接続されていくのがIoTの未来の姿だとすれば、人間もネットに接続されなければならない。そのときにハブとなるデバイスが、手首型のウェアラブルであり、さらにその先に期待されている肉体への電子デバイスのインプラント(埋め込み)テクノロジだということなのです。

遠い未来には、イーロン・マスクが開発しているような脳に直接プラグが挿入されて脳波を測るような世界がやってくるでしょう。心臓の表面に直接電子シールのようなものを貼って、心臓の状況を無線でクラウドに送信するような技術も開発が進んでいます。

しかしこのようなインプラント(埋め込み)の技術がやってくるのはまだ先の話で、当分はもう少し現実的なセンサやそれを実装したウェアラブル・デバイスを介することになりそうです。

Apple Watchの身体センサは何をもたらしているか

代表的なデバイスであるApple Watchは第7世代にまで進んで、かなりセンサが充実してきています。わたしが使っているのは昨年発売された第6世代ですが、血中酸素濃度や心電図、心拍などが実装されており、コロナ禍のあいだもみずからの健康状態を維持し安心を得るのに非常に役に立ちました。

さらに「転倒検知」という効果的な機能もあります。これは不意の病気や事故などで身体が急に倒れたときに、自動検出して緊急通報してくれるというものです。同時に、AppleWatchに登録しておいた家族などの緊急連絡先にもメッセージも送ってくれます。

この転倒検知をわたしは二度ほど経験しました。一度は、厳冬の軽井沢の凍った歩道で足を滑らせ、うっかり転んでしまったとき。もう一度は、登山中に木の根に足を取られて尻餅をついてしまったときです。

いずれのときも、Apple Watchからバイブレーションとともにアラームが鳴り響き、「ひどく転倒されたようです。」という表示が。そして「緊急SOS」「大丈夫です」という選択肢が現れました。ここで緊急SOSボタンを押すか、何もしないまま1分間放置すると、実際に緊急通報してくれるようです。

Apple Watchは見守りデバイスである

Apple Watchでは心拍数も自動計測されています。つまり転倒や心拍の異常については、ユーザーの側がとくだん意識しなくても、自動的に異常を発見し、クラウドに送信してくれるということ。

これはまさに見守り機能で、この方向性を支援するサードパーティのアプリも出てきています。

iPhoneとApple Watchで安全を確認。家族見守りアプリ「Hachi」を試してみた
https://www.lifehacker.jp/2021/01/hachi-review-apple-watch.html

このアプリの紹介記事でもわかるとおり、現在の「見守り機能」はおもに「家族がおじいちゃん・おばあちゃんを見守る」というところに主眼が置かれています。

しかし現在の日本では、高齢化とともに単身化が急速に進んでいます。全世帯に占める単身世帯のわりあいは、すでに3割を突破。2040年ごろには4割に達するという推計も出ています。かつては「サラリーマンの夫と専業主婦、子ども2人の4人家族」が「標準世帯」と呼ばれ、新聞やテレビなどで「今回の増税で標準世帯では○○円の負担増になります」と説明されていたものですが、もはや4人家族は標準ではありません。日本社会の標準は単身世帯なのです。

家族ではなく、システムが「見守る」未来

だから今後の日本においてのスタンダードな見守り機能は、「息子・娘がおじいちゃん・おばあちゃんを見守る」ではあり得ません。単身の人をだれが見守るのかと言えば、それはもはや家族ではなく、われわれの社会全体であり、社会全体が維持するシステムの任務となっていかざるをえないでしょう。

高齢者に限らず、単身の人が自宅で倒れたり、けがをすれば、Apple Watchのようなウェアラブルデバイス(あるいはその先のインプラントデバイス)を介してクラウドに状況が瞬時に送信され、それをもとに自治体や医療機関などが対応する。そういうシステムがこれから求められていくのだと思います。


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