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「これって労働時間ですか?」と訊かれたら、会社をよくするチャンスかもしれない

先日、厚生労働省からテレワーク時の労働時間管理をシンプルにする指針が示された。新型コロナの影響から企業のテレワーク導入が加速する中、労働時間管理のハードルを下げることが狙いのようだ。

厚生労働省は23日、テレワークに関する企業向けガイドライン(指針)の見直しに向けた報告書案を示した。労働者の自己申告だけで労働時間を管理しても原則として問題ないとの旨を指針で明確にする。

時間管理の考え方が明確に示されることで、労務管理上の誤解も減り、テレワークに踏み出す企業も増えていくことだろう。

ところで、「労働時間を自己申告してもらう」ということは、当然のことながら、社員自身が「労働時間とは何か」を認識しておく必要がある。

しかし、働き方が多様化するなかでは、これが意外と難しかったりする。

働く時間や場所の選択肢が少なかった頃は、おおむね会社にいる時間をタイムカードに登録していれば良かったのだが、そもそも会社にいない、あるいは、プライベートと仕事が溶け合うような柔軟な時間の使い方ができるようになると、ちょっと話は違ってくる。

ぼくが所属するサイボウズでも、働く場所や時間が柔軟であるがゆえに、「これって労働時間ですか?」という質問が来ることは少なくない。

たとえば、通勤中や朝ごはんを食べている最中にグループウェアの書き込みをチェックしている時間、あるいは、業務に直接関係のない勉強会に就業時間中に参加する場合など、その内容は多岐にわたる。

旧来の「会社にいる時間」=「労働時間」という図式が崩れている中、労務担当者はこうした質問にどのように向き合っていけばいいのだろうか。

労働時間とは何か

そもそも「労働時間」とはどのように定義されたものなのか。

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を読んでみると、以下のような記載がある。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とはまた難しい表現だが、たとえば、商談用のプレゼンテーション資料をつくるなど、業務遂行していることが明確な時間、つまり、会社(使用者)のために労務提供していることが明らかな時間は、分かりやすく「労働時間」といえる。

一方で、「業務遂行している」と言えるか微妙なラインでも、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と判断される場合がある。たとえば、以下のようなケースだ。

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

つまり、業務遂行に付随して発生する作業の時間や、業務遂行していないが有事に対応が求められる時間、業務遂行に必須な学習時間なども、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と解されることがあるのだ。

こうなってくると、最早、「○○は労働時間です!○○は労働時間ではありません!」と、会社で一律のルールを定めてしまう方が楽に思えてくるのだが、

労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。

……どうやら、そんな簡単な話でもないらしい。

会社として「○○は労働時間ではありません!」と定めていたとしても、最後は実態に基づいて判断されますよ、ということだ。

また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

要するに結局のところ、すべては個別の事例に応じて、「業務性」「待機性(指揮監督性)」「義務性」等、さまざまな要素を考慮しつつ、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」かどうか判断していくしかないようだ。

なぜ労働時間を把握する必要があるのか

労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことであり、もしも社員から「これって労働時間ですか?」と聞かれた時は、さまざまな事情を加味しながら、個別具体的に判断していくしかないことは理解できた。

しかし、どうしてそこまでして、労働時間を適正に把握する必要があるのだろうか?

そもそも、労働時間を把握することは手段であり、そこには達成したい目的が存在するはずだ。

というわけで、労働時間を把握する目的を大きく3つの観点で分けてみた。

(1)チームワーク

大前提として、雇用契約を結ぶというのは、チームと個人で、どのくらいの期間、どの曜日の、どの時間帯に、どれだけの時間労務提供するかを決め、その対価として賃金の支払いを約束することだ。この時間にコミュニケーションがとれる状態にあるという前提で、チーム内の役割分担も行われる。

よって、実際にどんな働き方で労務提供しているのかを把握しておくことは、チームワークよく、そして生産性高く働くために、とても重要なことである。

もし何らかの事情で、約束した時間に労務提供できなくなっていることが分かれば、チームとしての役割分担を見直す必要があるかもしれない。

(2)健康

2つめの目的は、過重労働による健康被害を防ぐことである。

もちろん、労働時間が多いからといって、必ずしも心身の健康が損なわれるとは限らない。それでもやはり、会社の指揮命令下に置かれている時間を増やし過ぎないことが、健康的な働き方につながるケースは多い。

法律でも、長時間労働を防ぐために様々なルールが設けられている。

たとえば、原則として「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて働かせることはできないし、36協定(特別条項)を結んだとしても、法定外労働時間について、月45時間を超えられるのは年6回、2~6か月平均は80時間以下、単月では100時間未満、といったルールが定められている。

また、法定外労働時間や休日・深夜時間帯の勤務に割増賃金が発生するのも、企業側に社員の健康を守らせるためのしくみである。

(3)報酬

3つめの目的は、貢献(労務提供)にふさわしい報酬を支払うことである。

先述したとおり、雇用契約とは「一定の労務提供に対して、一定の賃金を支払う」契約である。

時給勤務の人であれば働いた時間分、月給勤務の人でも、予定外の労務提供に対しては、追加で報酬を支払う必要がある。

もちろん、過重労働防止の目的で設定された「割増賃金」についても、労働時間の多寡や時間帯に応じて、適切な金額を支給しなければならない。

大切なのは理想を見失わないこと

ここまで見てきたとおり、労働時間を適正に把握することは、とても重要なことである。

しかし、労働時間の把握は手段の1つでしかない。

あくまで理想の状態は、社員1人ひとりが健康に、チームワークよく働き、そして、その貢献にふさわしい報酬が支払われていることだ。

「その時間が労働時間かどうか」の議論に拘るあまり、本質的な問題解決に時間が割けなくなってしまっては本末転倒である。

一方で、「これって労働時間ですか?」という質問は、さらにチームを良くするためのチャンスと捉えることもできる。

その質問の背景には、もしかすると「チームワークよく働けていない」「健康に働けていない」「貢献に対して適切な報酬が支払われていない」といった、より本質的な問題が隠れている可能性だってある。

理想や目的を見失わなず、社員の質問の裏にある本当の困りごとを解決していくこと。当たり前のことにも思えるが、結局はそれが一番大切なことなのかもしれない。

社内のグループウェア環境に設置された労働時間に関する質問箱アプリには、これまで登録された沢山の質問が並んでいる。

「プライベートでスーパーに行ったついでに、業務のイベントで必要なモノの買い出しも済ませちゃったんですけど、これって労働時間ですか?」

……常に理想を見失わず、オープンに議論していきたいと思う。

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