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地方の雇用創出をめぐる違和感

改めて言うまでもなく、日本は少子高齢化が進み、昨今では人手不足によって様々なものやサービスの提供に要する時間が長くなったり、あるいはバス路線の縮小をはじめとしたサービスの「間引き」が常態化し始めている。

これはつまり日本では、雇用の問題、端的には失業が問題にならなくなってきているということだろう。

もちろん、希望する仕事と求人のある仕事とのギャップ、あるいは求人のある仕事の給与・報酬が希望する水準に満たないといった問題は存在する。また、中長期的にはAIが人間の仕事を奪うとも言われている。

しかし、こうした問題は労働条件の改善やAI時代の新たな仕事の誕生などにより、中長期にはギャップを何らかの形で埋めていく方向に向かうだろう。さらに、サービスに対する対価も現実に上がってきており、給与・報酬の問題は最終的には値上げによって働き手を確保する方向に向かっていくと考えられる。

一方で、特に地方では、未だに企業の誘致によって雇用を生み出そうとする発想が続いている。具体的には、高卒者を意識した製造業の誘致に力を入れている地域がある。また、サービス業などの企業を外部から誘致しようとしている地方もあるが、いずれにしても難しい面があると感じる。

製造業の誘致に関して言えば、そもそも人手不足という現状があり、仮にその地方に仕事がなくても、都会に出ればいくらでも仕事が見つかるという状況だ。いくら製造業を誘致しても、地元に留まらざるを得ない人を除けば、より良い条件の仕事を求めて都会に移動していく方向に向かうだろうことは容易に想像がつく。これが都市への人口集中の一因だろう。

確かに円安も相まって、日本は安い労働力の供給源になるかもしれない。しかし、それでもアジア諸国と比べて日本に優位性があるかどうか、さらに円安に加えてインフレが進む中で、低賃金で働き続けることの持続可能性には疑問を抱かざるを得ない。

一方、都会にある第三次産業を誘致しようとする地方自治体から案内メールをもらったことがあるが、その場所は交通の便が非常に悪く、オンライン会議なら問題はないかもしれないが、実際に人が行き来するには非常に時間とお金がかかる場所だった。地方でも比較的交通の便が良いところは多くあるが、そうした地域と比べた時に、交通の便が悪い場所がどのように優位性を確保するのかがその案内メールには一切触れられておらず、オフィス賃料が安いことはアピールされていたが、人が行き来するコストで帳消しになってしまいかねず、この点にも厳しさを感じた。

また、誘致の理由が地元の若者が望むオフィスワークの仕事がないから、ということであったが、地元の若者がイメージしているオフィスワークと、都会のオフィスワーカーが現実にこなしている仕事内容にギャップが生じていないかも気になるところだ。単純な事務職にはほとんど求人がない、というのは都会のハローワークに行っても言われることであり、一定以上のITリテラシーや新しい働き方への適応がなければ、現代のオフィスワークはこなせない。まして、遠隔地で働くのであればなおさらだが、果たしてそうしたニーズに応えられるスキルを地方の若者が与えられているか、獲得出来ているか、ということである。

地方の企業誘致でいうと、熊本のTSMC工場が最近の成功事例として語られているが、地元ではTSMCの要求水準に見合う十分な人材を集められず、日本全国で求人を行い、さらには不足した人員を台湾から予定以上に呼び寄せている状況だという。こうした現実が、第3工場は脱・熊本、という意向につながっているのではないか。

これが実態であれば、いくら企業を誘致しても、そこで働く(べき)人材とのミスマッチが大きく、地元に直接的に貢献するかどうかは疑問だ。もちろん、工場の清掃や社員食堂の運営といった周辺産業で地元の企業に下請けとして雇用されることはあるだろうが、それが本質的な地元の活性化につながるかどうか。TSMCの例でいえば、下請け企業の雇用ではTSMC水準の給与は望めない。雇用が全く生まれないよりははるかに良いが、この点でも疑問は残る。人手不足のなかで、単に地元企業との(わずかな給与差での)人材の取り合いを生み、結果としてより良い給与を提示出来ない地元企業の倒産というシナリオも考えられる。

単純に働き口や求人の数を競う時代ではなく、むしろそこで働く人と仕事のマッチングをいかにうまく行うかがポイントである。失業率を気にする時代ではないというのは、冒頭に述べた通りだ。

むしろ、新しい時代に求められる働き手をいかに育てるかが重要である。例えば、TSMCの工場で働けるような語学能力や、一定以上の技術的理解を持った人材をどのように育てるのか、あるいは山間部の交通不便な土地でもリモートで都会の企業のオフィスワークをこなせる人材をどう育てるかという、根本的な教育の問題が解決しない限り、地方の雇用の問題はいつまでもすれ違い続けるだろうし、都会への人材流失も止まらないのではないだろうか。

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