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競争相手のIPOが自社のIPOに与える影響とは?〜得するIPOタイミングについて考察する〜



競合のIPOタイミングを意識している企業が増加中!?


 日本ではIPO件数が減りつつありますが、下記のニュースで見るようにアジア規模では増えています。最近では東京でなく海外でIPOをする起業家も増えつつあります。
 IPO(新規株式公開)を検討する企業にとって、タイミングや戦略の決定は非常に重要です。これらの意思決定には、会社の財務状態や市場状況が主に影響を与えると考えられがちですが、実は競争相手のIPOが与える影響も無視できません。最近では海外アジア全体では、

 例えば、シェアエコノミー業界では、UberがLyftが近くIPOを行うという情報を得た後、自社のIPO計画を加速させたという報告があります。同様に、サイバーセキュリティ業界では、Tenableが競争相手であるZscalerのIPOを観察し、自社のIPO計画を数四半期前倒しにしたことが知られています。このような競争相手の動向は、自社のIPOにどのような影響を与えるのでしょうか?今回は、最新の研究成果をもとに解説します。


競争相手のIPOタイミングは自社にどのような影響を与えるのか?

下記のファイナンスTOPジャーナルに掲載された研究では、競合他社のIPOは自社のIPO傾向に直接的な影響を及ぼすことが示されています。例えば、バイオ医薬品業界を対象にした分析では、競争相手が過去12か月以内にIPOを行った場合、自社がIPOを行う確率が40%増加することがわかりました。具体的には、四半期ごとのIPO確率が0.31%から0.44%に増加し、競争相手のIPOを観察しなかった企業の確率(0.20%)と比較すると、その影響は62%の増加に相当します。

一方で、競争相手がIPOを行うことが自社に与える影響は、単に確率の増減だけではありません。競争相手のIPOは、自社が資金調達を行う際の条件にも影響を与えます。研究によれば、競争相手がIPOで資金を調達することで市場に新たな情報がもたらされ、これを活用することで自社のIPOコストを削減できる可能性があります。具体的には、競争相手のIPO後に得られる情報により、マーケティングやブックビルディングプロセスでの評価コストを抑えられる場合があります。たとえば、研究では競争相手のIPOを観察した企業は、IPOプロセス全体において情報コストが低下しやすいことが示されています。

また、IPO後のパフォーマンスにおいては、競争相手のIPO後に公開した企業が新規プロジェクトの数や試験開始の頻度を増加させることで競争力を維持できていることも明らかになっています。ただし、IPOによる資金調達の恩恵は特に短期的な影響が中心であると考えられます。

Cyrus Aghamolla, Richard T. Thakor, IPO peer effects, Journal of Financial Economics, Volume 144, Issue 1, April 2022, Pages 206-226

今回紹介する論文の研究方法

この研究では、バイオ医薬品業界の詳細なプロジェクトレベルのデータを用いて、競争相手のIPOが自社に与える影響を分析しています。特に、競争相手を治療対象分野ごとに特定することで、より精密な分析が可能になっています。また、因果関係を明確にするために操作変数(IV)アプローチが採用されています。

操作変数としては、焦点企業のピア企業とは直接競争関係にないが、そのピア企業と競争関係にある企業のIPO決定を利用しました。この方法により、競争相手間の未観測の共通ショックや内因性を軽減し、競争相手のIPOが自社のIPOに与える純粋な影響を特定しています。この厳密な手法によって、競争相手のIPOが自社のIPO傾向をどの程度高めるかを高い信頼性で推定しています。


競合IPOによる恩恵:情報波及効果

では、なぜ競争相手のIPOの後に自社がIPOをすることが、有利なIPOをもたらすのでしょうか?この研究では、以下のような情報波及効果が、そうしたメリットをもたらすことを指摘しています:

  • 市場評価情報の利用 競争相手のIPOを通じて得られる評価情報(例:IPO価格設定、投資家からの反応)は、自社のIPO戦略策定に役立ちます。例えば、競争相手の成功事例を参考にすることで、自社のIPOプロセスを効率化できる可能性があります。

  • 投資家の需要動向の確認 競争相手のIPOに対する市場の反応が好意的であれば、同じ分野で事業を展開する自社もIPOを通じて資本を調達する絶好の機会と捉えることができます。

一方で、競争相手のIPOが市場で低評価を受けた場合、その反応を警告信号として活用することも可能です。つまり、自社のIPOのプレ実験として、競合IPOを観察することが重要と言うことです。


この研究結果を実務に活かすために

この研究の結果を踏まえ、IPOを検討するビジネスパーソンは以下の点に留意するべきと考えます:

  1. 競争相手の動向をモニタリングする 業界内の主要な競争相手がIPOを行うタイミングやその結果を注視し、自社のIPOに影響が出ると認識する。

  2. 競争の激しさを評価する 特に競争が激しい分野に属する企業は、競争相手のIPO後に迅速に対応する戦略を練る必要があります。一方、競争が比較的緩やかな分野では、IPOを遅らせる選択肢も検討できます。

  3. 情報波及効果を活用する 競争相手のIPOから得られる情報を最大限に活用し、マーケットの需要や評価基準を理解した上で自社のIPO計画を策定も。

  4. 資金調達の選択肢を広げる IPO以外の資金調達手段(例:ベンチャーキャピタルや買収)も含めて総合的に検討することが重要です。特に、競争相手がどのような資金調達を行ったかを分析し、それに応じた戦略を立てることが必須です。最近はIPOありきでない手法も豊富になっていますものね・・


まとめ

IPOは単なる資金調達の手段ではなく、競争優位性を確保し市場でのポジションを強化するための重要な戦略です。しかし、その成功は自社だけでなく、競争相手の動向にも大きく依存します。最新の研究が示すように、競争相手のIPOが自社のIPO計画に与える影響は無視できないものです。

経営者やCFOにとって、競争相手の動向を適切にモニタリングし、それを踏まえた戦略を立てることが成功への鍵となります。競争相手の成功や失敗を参考に、自社のIPO戦略を慎重に検討し、情報波及効果を最大限に活用することが求められます。

このブログが皆さまの参考になれば幸いです。
競争の波に乗る準備を整え、成功をつかむ一助となることを願っています!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
育児も研究も仕事も、全力投球!

*冒頭の画像は、崔真淑著「投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本」(大和書房)より抜粋。無断転載はおやめくださいね♪


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崔 真淑/エコノミスト(MBA in Finance)
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