包商銀行接収に見る中国のリスク管理体制

中国政府は、5月24日に内モンゴル自治区の地方商業銀行である包商銀行を接収したことを発表した。ほぼ20年ぶりの銀行破綻であり、発表直後は銀行の連鎖破綻への懸念が高まり、短期金利が上昇した上、中小金融機関は資金調達難に直面した。

だが中国人民銀行(PBoC)の対応は実に迅速だった。PBoCは、他の銀行の接収予定がないことを強調した上で、①銀行間市場に弾力的な流動性供給を実施、②地方商業銀行向け融資の預金準備率を引き下げ(これだけで1000億元の流動性拡大効果)、③小規模銀行向けの借入枠を拡大、④包商の預金者と債権者への保証などの措置を矢継ぎ早に打ち出した。これら措置が功を奏し、6月下旬には短期金利と小規模銀行の資金調達はほぼ正常化した。

このように金融システムの安全性は当局によって確保されたわけだが、この事件により「銀行は破綻しない」という幻想は崩壊し、市場はカウンターパーティ・リスクをようやく意識するようになり、市場原理主導の値動きに一歩近づいた。まだ市場が正常化過程にあった6月14日に、中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)の郭樹清主席は講演を行ったが、その内容はシャドー・バンキングと仕組み商品の復活を否定する極めてタカ派的なもので、金融規制の強化とリスクコントロールの必要性を強調した。政府は2016年終盤に金融レバレッジ削減キャンペーンを開始しており、2018年半ばに対米貿易関係の悪化を受けて政策の優先事項リストにおける順位は低下したものの、なおも金融リスク抑制を推進している。

政府の最優先事項は経済成長の安定化だが、同時に金融規制の強化体制も継続するとみられる。従って、信用伸び率は鈍化し、実体経済への信用供与も減速に向かう公算が大きく、これは短期的には成長抑制要因となり得る。それでも、中長期的には金融システムの健全性という成果を得られよう。米国との貿易摩擦にしても、対米貿易黒字縮小以外に中国がコミットしている、外需から内需への成長エンジン海外への国内市場開放、知的財産権保護、市場原理が機能する経済への移行などは、短期的には苦しみを伴うものの、中長期的に見れば中国経済にはプラス要因だと思われる。

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