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人手不足なのに求人倍率が下がる、その意味を考える
厚生労働省が発表した2024年の有効求人倍率は1.25倍と、前年から0.06ポイント低下した。これは3年ぶりの低下であり、依然としてコロナ禍前の2019年水準(1.60倍)を回復できていない。一方で、同年の完全失業率は2.5%と、前年より0.1ポイント下がった。失業率の低下は社会的には喜ばしいことだが、求人倍率の低下が同時に起きている現状を考えると、手放しで喜ぶわけにはいかない。
人手不足でも求人が減る理由
通常、人手不足が深刻であれば、企業は積極的に求人を増やし、労働市場の需給バランスが調整される。しかし、今回の求人倍率の低下は「新たに人を雇う余裕がない企業が増えている」ことが一因となっている。特に、建設業や介護業界など、もともと人手不足が深刻な業界では、光熱費や原材料価格の高騰が企業のコスト負担を押し上げ、雇用の拡大にまで手が回らない状況が続いている。
また、2023年に宿泊業や飲食業で求人が大きく増えた反動もあり、全体の求人数が減少傾向にある。これにより、求職者1人あたりの求人件数を示す有効求人倍率が下がる結果となった。
「人的資本経営」が進まない現実
近年、メディアでは「人的資本経営」が注目されている。これは、企業が人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、長期的な成長戦略として投資することの重要性を指摘するものだ。しかし、実際の現場では、目の前のコスト増に直面し、人材投資を後回しにせざるを得ない企業が多い。
「人的資本経営」の理念が浸透しないまま、ギリギリの人員で業務を回し、人材育成に十分なリソースを割けない状況が続くと、企業は近視眼的な経営に陥る。結果として、既存のビジネスモデルの枠組みから抜け出せず、変化への適応力が低下する。つまり、目先のコスト削減が長期的な競争力の低下につながる危険性をはらんでいる。
人手不足なのに求人倍率が下がる、この現象の本質
求人倍率の低下が示すのは、単なる景気の影響ではなく、日本企業が抱える構造的な課題だ。特に、
コスト増により雇用拡大が困難になっている
人的資本投資が後回しにされ、労働市場の活性化が進まない
短期的な対応ばかりが優先され、長期的な成長戦略が描けない
という問題が浮き彫りになっている。こうした課題に向き合い、企業が人材を「投資対象」として再認識することが不可欠だ。
「人への投資」を軽視することは、企業の存続リスクにもつながる。企業が持続的に成長するためには、短期的なコスト削減に囚われるのではなく、長期的な視点で「人的資本経営」に取り組む必要がある。
求人倍率の低下を単なる統計数値として捉えるのではなく、その背景にある問題を深掘りし、解決策を講じることが、日本経済の持続的な発展につながるだろう。