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「褒め」が組織を強くする。称賛文化を浸透・定着させる上で外せない“感情報酬”とは。

皆さん、こんにちは。今回は「社内表彰」について書かせていただきます。

記事の中に当社の事例をご紹介いただきました。サイバーエージェントは創業以来、「頑張って成果を出した社員にスポットライトを当てる」、「褒める時は盛大に褒める」という価値観を重要視してきました。

従業員のエンゲージメントをいかにして高めるかは、日本企業の近年の課題の一つである。エンゲージメントとは従業員が活力や熱意をもって仕事に没頭している状態を指す。高いほど生産性が高い傾向にあるが、諸外国に比べて日本企業では低いといわれている。どんな施策が有効だろうか。
筆者と早稲田大学の梁取美夫教授、カナダ・ビクトリア大学の遠藤貴宏准教授は2017年、サイバーエージェントの協力のもとで同社の人事施策と、社員の職務への態度について質問票調査を行った。その分析の結果、社員の表彰制度がエンゲージメント向上に効果があることが分かった。
同社の主な表彰制度には年2回の全社表彰、月1回の部門表彰、経営企画会議メンバーへの抜てきの3種類がある。いずれも昇進・昇給とは直結しない。前年の表彰対象者のエンゲージメントは特に高く、過去5年の表彰対象者も全体と比べると高い値を示した。
「もともとエンゲージメントが高い人が活躍し、表彰された」という逆の因果関係も考えられる。しかし因果推論の手法を用いた分析でもプラスの関係が観察されており、表彰でエンゲージメントが高まると考えてよさそうである。
もっとも、表彰制度の設計には注意が必要だ。まず表彰が従業員にとって価値のあるものだと皆に認識される必要がある。同社の全社表彰は近年オンラインに切り替わったものの、対象者が赤い絨毯(じゅうたん)の上を歩く姿が中継され、上司や同僚から祝いのコメントが寄せられるという。
マイナスの側面もありえる。施策が行き過ぎれば従業員にとって心理的プレッシャーになり、働かせすぎにつながるかもしれない。昇進・昇給によって報いられるべき貢献に対し、表彰だけで報いようとすれば不満を生むだろう。
こうした弊害に目配りする必要はあるものの、日本企業におけるエンゲージメントの低さからうかがえるのは、従業員の貢献に報いるための組織的な工夫がいまだ十分ではないという実情だ。重要なのは表彰制度を形だけ整えることではなく、従業員のさまざまな貢献を上司や人事部門がつねに観察し、その価値をたたえる行動を組織に定着させることだ。

一言で「表彰制度」といっても、ただ大規模な社内イベントを企画・実施し、表彰者に対して表彰状を贈り、全社員でその栄誉を讃えるだけではありません。
表彰された社員の姿を見て、「自分もいつかあの壇上に立ちたい」「会社にインパクトを与える功績を残したい」と、誰もが奮起できるような表彰式になるように、様々な工夫をこれまで積み重ねてきました。

もちろん記事の通り、表彰制度は表彰された社員のエンゲージメントを高めることにもなるのですが、それはあくまで結果論です。

当社の表彰制度は、頑張って成果を出した人をしっかり評価し、全社員でその功績を称え、会社全体の士気を高め、個人も組織もより高みを目指していけるような風土を醸成していくための、サイバーエージェントカルチャーを体現した一つの取り組みであると言えます。

なぜこれほどまでに、「人を褒める」ことに力を入れているのか。その要素を分解してみます。

■表彰は経営メッセージ

当社の社内表彰は、年2回の全社表彰と月1回の部門表彰がありますが、私たちが大事にしている考え方は、「表彰は経営メッセージである」ということです。
簡単に言うと、表彰される人は、会社が評価している人材であるべきです。
仮に表彰される人がどんなに大きな成果を残していたとしても、人望がなく、周囲の社員から良い評判を全く聞かない人だったら、それだけでシラけてしまいますし、「あんな人(あんなやり方で成果を上げる人)を評価する会社なのね」と思われてしまいます。

全社表彰の場合は、全社員から各賞への推薦を募りますが、強制ではなく任意であるにも関わらず、毎回数多くの推薦があり、票が集まる社員の人望や、その賞を受賞するに値するだけの成果の大きさかどうか(周囲の納得度)がよく分かる結果になっています。
その結果をもとに、「表彰される人=会社が評価する人」となるように慎重に選出しているのです。

■「演出」にこだわる理由

つい先日も、全社表彰が開催されました。

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毎回手が込んでいて驚かされるのは、「演出」です。
最近のモチーフは“アカデミー賞形式”で、事前にノミネート者が発表され、当日に最優秀賞が決まります。

今は感染防止対策の観点から人数を制限していることもあり、表彰式に参加する人はノミネート者と、ノミネート者に業務上近い人(上司や同僚)が正装で参加します。

新人賞、ベストスタッフ賞、ベストクリエイター賞、ベストエンジニア賞、ベストプレイヤー賞、ベストマネージャー賞、ベストプロジェクト賞、ベストプロダクト賞、社長賞など合計14賞が発表されますが、会場の雰囲気、数々の照明、クレーンカメラ、音楽、壇上に続くレッドカーペット、トロフィー、賞を発表するまでのオリジナル映像など、とにかく細部にまでこだわった演出が盛りだくさんです。

各種賞には賞金が用意されていますが、賞金よりも、全社表彰の場で壇上に立つことが最高の誉れであると感じる社員が多く、ここにこそ、表彰制度の価値を最大化するためのヒントがあるのではないかと思います。

つまり、「金銭報酬」も大事ですが、それだけでなく「感情報酬」を社員に提供することを大事にしているのです。
表彰式に参加して実際に表彰された人も、それを見ながら自分も頑張ろうと刺激を受けた人も、ワクワクしたり、それまで以上にモチベーションが上がったりとポジティブになるような感情的な報酬は、「人材を活かす」という意味でも非常に重要だと思います。

■感情的な報酬とは

具体的に「感情報酬とは何か」ですが、例えば以下のようなものです。

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考え方も価値観も多様化している今、当然人によってモチベーションが上がる感情報酬は異なります。褒められると頑張れる人もいれば、大きな仕事を任されると頑張れる人もいます。人から感謝されると頑張れる人もいれば、仲間から尊敬されることで頑張れる人もいます。

人に寄り添い、それぞれのモチベーションを高める感情スイッチを理解し、信頼関係を作っていくことで、社員の主体性や責任感が身につき、前向きにチャレンジする環境が整いやすくなります

また、当社の場合は、内定者や新入社員にいきなり子会社の社長を任せたりすることがこれまでにもたくさんありましたが、これも一つの「感情報酬」のあり方です。「会社の未来を決める大事な会議に選出された」とか、「次世代の幹部候補育成プログラムに参加した」なども同様です。

このような、金銭報酬とは対極にある感情報酬をうまく活用できる会社は、社員のモチベーションが高まり、業績にも直結させられる可能性が高まると思います。

■褒め文化は一朝一夕では作られない

当社で作られている「褒め文化」は社内表彰だけではありません。
コロナ禍で始めた「褒めGEPPO(褒めゲッポー)」という取り組みをご紹介します。

GEPPO(ゲッポー)というのは「月次報告」の略で、月1回社員にとるアンケートシステムのことを指します。このシステムは、社員のコンディションを天気(晴れ、曇り、雨)で把握するだけでなく、「目標が明確か」「業務配分が適切か」など、毎月質問項目を変えてアンケートに答えてもらうことで、社員の声を集約し、経営に社員のリアルな声を届ける、という仕組みとして機能しています。

もともとあったその仕組みに、“褒める”ことだけを目的とした「褒めGEPPO」を開始しました。
背景にあったのは、リモートワークに伴うコミュニケーション量の低下と、お互いに面と向かって感謝の気持ちを伝え合うことが減ることによる人間関係やロイヤリティの希薄化に対して手を打ちたかったからです。

「ありがとう」「助かっています」「感謝しています」「また宜しくお願いします」「ここがすごいと思います」「この成果は素晴らしいです」など、もともと褒め文化の強い私たちのような会社でも、改めて“褒める”機会、“褒められる”機会が増えたことで、ポジティブなコミュニケーションが活発化しました。

社員からの評判も良く、褒めた人からの「リモートワークによって褒める機会が少なくなっていたことに気づいた」という声や、褒められた人からの「リモートワークでもちゃんと日頃の努力を見てくれている人がいるんだと知り、もっと頑張ろうと思った」という声を聞くと、こういった地道な取り組みこそがチームの関係性を強固なものにし、ひいては会社の文化作りに大きく寄与しているのだと改めて感じます。

■「褒め」でエンゲージメントは高まるのか

引用した記事の中には、

前年の表彰対象者のエンゲージメントは特に高く、過去5年の表彰対象者も全体と比べると高い値を示した。
「もともとエンゲージメントが高い人が活躍し、表彰された」という逆の因果関係も考えられる。しかし因果推論の手法を用いた分析でもプラスの関係が観察されており、表彰でエンゲージメントが高まると考えてよさそうである。

とありました。

適切な人事評価・報酬・表彰制度を整備・機能させることで、従業員のモチベーションが上がりエンゲージメントが向上することは事実です。ですが、それだけではありません。

たとえば、

① 企業理念/ビジョン/ミッションへの理解・支持・浸透
② 企業への帰属意識・愛着・共感
③ 企業の成功への貢献意欲・主体性・当事者意識
④ 個人の成長意欲・やりがい・心理的安全性

など、これらの要素を満たすための取り組みを推進していくことが必要です。

終身雇用や年功序列などの従来の人事制度から、成果主義型の報酬制度へと移行する企業が増え、さらには、働き方の多様化に伴って転職市場が活発化し人材流出が進む中、組織が個人の成長を後押しし、長期的な業績向上に紐づく人事施策の重要性が再認識されています。エンゲージメントの高い組織を構築できれば、人材の定着だけでなく、企業の業績や生産性の向上が期待できるのです。


これまで述べてきた通り、表彰制度をうまく活用できると、企業が社員の頑張りや功績を評価し、その事実を社内に広く認知させることができ、人が持つ承認欲求が満たされます。
そういった「承認」の積み重ねによって、社員一人ひとりが自分の仕事を前向きに捉え、自分の努力や仕事上の成果に自信を持てるようになり、さらには一緒に働く仲間もその努力を称え、一緒に喜びを分かち合うという雰囲気が醸成されていきます
そして、それを繰り返していくうちに、人を褒めることや認めることが当たり前の企業文化になっていきます

管理職一人の力で、個人の能力を開花させることはできるかもしれませんが、組織全体を一人のマネジメント力だけで強くするには限界があります。
極端な話ですが、マネジメント側が何もしなくても、個人の能力が勝手に開花し、勝手に成長してくれるという、そんな自走組織を作るには、「褒める」「認める」「承認する」という組織風土と、それを定着させる仕組みが必要不可欠です。

リモートワークによって、“褒め”の総量が減り、従業員のエンゲージメントにも影響し始めているのではないかと危機感を抱いている企業こそ、改めて「褒める」「認める」「承認する」という、人のモチベーションに大きな影響を与える風土作りに力を入れていく必要があるのではないかと思います。


#日経COMEMO #NIKKEI

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