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ポスト・コロナ時代の地方創生

3年に及ぶパンデミックにより、私たちの価値観は強制的に一斉の変化を強いられた。一度変わったライフスタイルは、コロナ禍が明けても100%元通りとはならないだろう。

この変化を追い風にできるのは、高齢化と東京への人口流出に長年悩んできた地方だ。リモートワークの定着と人間らしい暮らしへの回帰志向を弾みにして、土地それぞれの魅力的な価値提案を磨き、地方へ人口を呼び寄せる好機が訪れている。

これまで、地縁のない地方暮らしと言えば、引退・移住組のイメージが強かった。しかし、ポスト・コロナ時代における地方の魅力は、若年や壮年層へ確実に届いている。なぜだろうか?

まず、地方暮らしにまつわる負の要素が減っている。キラキラした文化は東京にしかあり得ないという文化格差や知識格差は、既にインターネットによってだいぶ平準化されている。そのうえ、リモートワークの主流化で、都会の仕事を持ったまま職・住を切り離すことが可能になった。

一方で、地方の良さが再認識されつつある。死に至る感染症は人混みの怖さを再認識させ、自然に近く人口密度の低い場所の株が上がった。重なるロックダウンを経て、人と人との素朴なつながりを求める機運も高まっている。名前と顔が一致するようなコミュニティの親密性が再評価される時代となったと言える。

では、地方移住への流れを決定的なものにするために、まだ欠けているピースとは何だろうか?パンデミック前に長野県小川村(人口2000人)へ移住した元・港区在住シティ・ガールの友人によると、仕事と住む場所だという。

いくらリモートが可能でも、まだ完全に「持って来れる」仕事は少ない。小川村は既に人気の移住先だが、村内で生活が完結するケースは少なく、近隣の長野市や白馬村へ出稼ぎに出る人が多いという。

また、意外なことに、地方移住希望者にとって「住む家がない」という悩みがある。空き家は多くあっても、維持コストが低いため放置され、空き家バンクに載る物件はごく少数。小川村の村営住宅は満室だそうだ。

もしこれらの弱点をクリアできれば、地方暮らしはもっと魅力のあるオプションとなるだろう。例えば、飲食店のような小さなサービス業の起業を住居も併せて応援し、集積することで新しい村の魅力を作ることはできないだろうか?

本来、大都市の魅力は、いろいろな個人商店が混ざり合い、住んで楽しいことにあったはずだ。しかし、賃金格差が拍車をかける家賃高騰のあおりで、高級マンションと全国チェーン店舗ばかりが幅を利かせ、雑多さが生んだ下町の魅力が消えてしまう残念な例は日本に限らない。地方に「住んで楽しい」村を作ることは、仕事を作り、雇用を生むことでもある。

小川村の友人によれば、地方の暮らしは、自分の取り分を最大にすることよりも分かち合うことの大切さを教えてくれるという。ポスト・コロナの価値観転換は、地方暮らしとの相性が良い。負け戦が続いた地方創生を、ポジティブに再定義する好機である。

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