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なかなか減らない新型コロナ感染の背景にある問題と課題へ・いま掲げる3つの提言

 首都圏1都3県に出されていた2度目の緊急事態宣言が解除されました。発出された段階では1か月で解除する方針を示していましたが、大方の予想通り約1か月の延長となり、首都圏1都3件では2週間の再延長の末の結論となります。発出直後は一定の効果があったように見受けられましたが、2月下旬頃からはその効果も薄れたような状況になり、3月に入るとむしろ微増傾向になりました。再延長は感染者を抑えるというよりも「様々な対策を講じる準備期間としての2週間」という判断で感染者が増加している状況での解除になったわけです。さらに解除されて1週間が経過するところですが、人出の増加によるリバウンドや変異株の拡散など問題や課題は山積しています。

 新型コロナは8割の方が軽症で経過し、その一部は無症状のままであることから、限定された地域でなければ感染者をゼロにすることはほぼ不可能であると考えられます。そうなるとワクチン接種が確実に浸透するまでは、地域による増加傾向をいち早く察知し、拡大を最小限に抑えることの繰り返しをしていくしかありません。東京都のように人口が多く、多種多様な生活スタイルがあり、人の出入りが激しい地域での対策はきわめて困難であると言わざるを得ません。増加傾向になるたびに政府や自治体は都度メッセージを発信してきましたが、多くの国民にとっては既に理解している内容の繰り返しであり、本来しっかりと対策を取って欲しい方々へのインパクトは弱く、しっかりとした対策を取っている方々からすれば「これ以上何をすれば良いんだ」と思われてしまい、1年経過しても対策に進歩があったようには思えません。私は1年以上、新型コロナの患者さんや社会的背景と臨床現場で向き合ってきましたが、今考えられる問題に対する3つの提言をしたいと思います。

① 変異株が疑われる症例の積極的な遺伝子検査

 報道でも伝えられていますが、神戸市は可能かなぎり陽性検体の遺伝子検査を行い、積極的に変異株を検出しています。その一方で感染者が最も多い東京都では陽性検体の一部しか遺伝子検査を行っていません。私のこれまでの経験では、保健所からの依頼により濃厚接触者の検査を行った場合、概ね1割程度しか陽性にはなりませんが、時に家族全員が陽性など、一人から複数に感染させている事例も経験します。特に年末年始は濃厚接触者の検査を行うたびに陽性者が複数確認され、まさに「異常な陽性率」と感じていました。最近では本来は感染しにくいとされる子ども同士の陽性事例があったので、変異株を強く疑い保健所に遺伝子解析の必要性を再三訴えましたが、すぐには受け入れてもらえませんでした(結果的には東京都の判断で実施して従来株でした)。年末年始の事例に関しても、これも再三提言しましたが、今でも遺伝子検査をする予定はないそうです。東京都は感染者が多く業務も逼迫していること、コストやマンパワー等の問題は十分承知していますが、現場(しかも感染症専門医)の提言が反映されないのは残念なことです。政府は年末年始の東京都の感染者の「異常な増加」の原因に変異株の影響はないという見解のようですが、解析をしていない以上、その因果関係は証明されていません。私見ですが、その頃に報道された英国変異株のクラスター事例にかかわったこともあり、異常な増加の一因に少なからず英国変異株の影響はあったと考えています。その理由の一つとして、1月に確認された静岡県内の渡航歴のない陽性者で確認された変異株の存在があり、これは都内での感染が年末の人の動きによって運ばれたのではないかと考えています。変異株を早期に確認し、濃厚接触者を割り出し拡大を最小限に抑えることは、これまで以上に求められる対策であると考えます。同時に海外から帰国する日本人渡航者の徹底した水際対策と入国後の健康監視も言うまでもないことですが、このあたりも私のところを受診する日本人渡航者の方からお話を伺うと、検疫体制の一部に落ち度もあるようです。

② 民間検査体制の把握と管理体制の強化

 昨年末頃から東京都では医療機関ではないPCR検査施設が相次いでオープンしました。また検体を郵送し結果をメールを知らせる医療機関も散見されるようになり、全国どこにいても検査が可能になったわけで、受検のハードルが高かった時期からすれば、国民にとっては安心につながったかもしれません。その反面、正確な検査数や陽性率、さらには検査の精度など、国がしっかりと把握できていない実情もみえてきたように思います。実際に簡易キットを受けた患者さんからのお話しでは「陽性であっても医療機関から連絡が来ない」とか「医療機関受診の説明がない」など、他の人にうつす可能性がある人が医療の管理下におかれていない可能性が少なからずあると思われ、このようなごく一部の人たちがその都度会食などの場面で拡げていればば周囲でいくらしっかりとした対策を取っていても新たな感染者は発生し続けます。また郵送の場合は医師が直接患者さんと話をするわけではないので、無症状者という条件はあるものの、本人確認をしないことから少しくらい発熱があっても検体を送ることは可能であると思われます。私も試しに郵送による検査キットを購入してみましたが、あまりにも簡素であり「本当に大丈夫なのか?」というのが率直な実感です。また検体が到着してから数時間でメールでの結果照会とうたっていますが、1週間くらいしてから結果がメールで到着しました。結果は「低リスク」で「報告をみて感染の有無等の判断を行うことはできません」と書かれてありました。さらに抗原検査キットは日本で未承認のものであっても気軽に薬局や通信販売で購入することができるようですので、極端なところ検査体制がある程度整ったにもかかわらず、感染者が正確に把握できていない状況であると考えられます。

 指定された医療機関でしか検査ができなかった時期はしっかりと感染者の管理と接触者の追跡もできたと思われますが、検査が自由に受けられることになったことがくすぶった拡がりを常時作り出している可能性もあります。すべての陽性者を抽出することは現実的に不可能と思われますが、蔓延を防ぐためには少なくとも医療者のもとでの検査体制を義務付ける必要があり、それが困難なのであればその管理を国が徹底すべきであると考えます。そもそも検査体制が整備されていなかったことから民間検査のニーズが高まった訳ですから。(注:性感染症のように行為がなければ直ちに拡がる可能性が低いものであれば現状行われているような郵送検査も支障はないと考えます)

③市区町村レベルの効果的な感染対策

 常時感染の中心となっている東京都は人口や繁華街また他道府県からの人の流入も圧倒的に多い地域です。都知事は言葉やキャッチフレーズを変えながらメッセージを発信していますが、切り込んだ対策が取られているかというと不明確な印象です。その中で港区の取り組みは地域に根差した区民目線の対策であると称讃します。

 感染症対策に詳しい「感染症アドバイザー」を任命して飲食店など感染リスクが高い場所に赴き、直接的な指導を行っており、その模様はDVDなどでホームページ上に公開しています。政府や東京都は飲食店などに対して一律の協力金やガイドラインなどを供与していますが、当然ながら店舗の規模や従業員数、サービス内容等によって千差万別ですので、いつまでも足並みが揃いません。配布するチェックリスクも自身で確認するだけですので、間違っていてもその理由が不明確であることもあり、また間違った対策や必要な対策が取られないまま継続していることもあるかもしれません。そこでアドバイザーが直接現場に足を運び、その事業所に応じたオーダーメイドのアドバイスをすることで、確かな感染対策を身に着けることができます。このようなきめ細やかな取り組みは、東京都のような大きな自治体レベルでは容易にできることではなく、市区町村レベルで行うべき対応であると考えます。また専門家も肩書や知名度だけではなく経歴を重視し、地元の医療機関に従事する人材を有効活用すべきであり、住民がいつでも近隣の医療機関にアクセスできるような体制を整えることに意義があります。僭越ながら私のところにも都内の他区からのご依頼、飲食店や医療機関からの個別のご依頼をいただいており、時間のある限り現場に赴きアドバイスを行っておりますが、地元区からのご依頼は未だありません。

 今後ワクチン接種が浸透してくれば感染者の爆発的な増加が起こる可能性は徐々に低くなってくるでしょう。しかし当初の予定よりスケジュールははるかに遅れており、医療者でも患者さんの診療を行っている私ですらまだ順番は回ってきていません。今年いっぱいは感染者の増加と減少を繰り返しながらの日常生活を送ることになりますが、できることは無理に自粛することなく、リスクのあることは避けながらストレスをためない日常生活を送っていきましょう。

#日経COMEMO #NIKKEI

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