年収の壁解消に雇用保険を使うのは妥当なのか?
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
収入が一定以上になると税金がかかったり、社会保険に加入することになる水準があります。いわゆる「年収の壁」と呼ばれるもので、前者が103万円(所得税および配偶者控除)で後者が130万円です。そのため手取りが減らないように就業調整をするケースが多く見られ、働く意欲のある人の就業機会を奪っているという指摘がありました。
また、配偶者控除がなくなるラインでは、企業が支給している「家族手当」や「配偶者手当」もなくなることが多く、さらに就業調整を意識する原因となっています。統計を見ると、家族手当制度がある事業所は77.9%。そのうち配偶者に手当を支給する事業所83.9%。配偶者の収入制限がある事業所は84.5%。その内訳は配偶者控除対象の103万円が54.6%、社会保険加入要件の130万円が30.3%となっています(人事院「平成30年度職種別民間給与実態調査」)。税制以外でも「103万円の壁」は存在しているということです。
家族手当は企業によりますが、月1~2万円程度。年間12~24万円というのは決して小さい金額ではありません。
労働人口が減少していく未来が確定している日本においては、就業調整を行っている労働者という人的資源を有効活用できていないということです。しかもそれが女性に著しく偏っているというのは、政府が推し進めるダイバーシティ・女性活躍の文脈からも逆行しています。
さらに、今回の案では雇用保険を財源としてサラリーマン家庭の専業主婦のみを優遇するというものです。すでに3号保険制度などで優遇を受けていることへの不公平さが指摘されていますが、これを増長するものです。自営業や一次産業の主婦はこの恩恵に預かれないわけですから、批判が出ることは必至です。
そもそも雇用保険制度というのは、働く人たちの互助制度に近いものです。よく知られている失業保険や教育訓練給付金などは、雇用保険により運営されています。
想像するに「雇用機会の増大」という理由で今回の案が出てきたのでしょうが、場合によっては正社員が時短制度を活用して補助金を受けようとする動きも出てくるでしょう。まさに本末転倒でありますし、働き損を回避しようと社会保険料の負担をしたくない方々のために、その他の真面目に働いている方々の貴重な保険料を充てることは妥当なのでしょうか?
小手先の対応をする前に、根本的なところから手をつけるべきでしょう。それは、配偶者控除の廃止です。女性活躍に力を入れていた安倍首相は一時期「女性が就業調整をすることを意識せずに働くことができるようにする」と述べ、配偶者控除の見直しを指示しました。
歴史を紐解けば、配偶者控除ができたのは1961年度の税制改正。当時多くを占めていた専業主婦世帯を念頭においたもので、大黒柱を陰で支える内助の功に報いるためにできたものです。時代は過ぎ、共働き世帯は2000年ごろに50%を超えたのち、最新の調査結果である2021年時点では、共働き世帯は68.8%を占めるに至っています。
結局のところ、今にいたるまで抜本的な改革ができないのは、自民党内にある「伝統的家族観」が根強いのではと勘ぐりたくなります。ぜひこのタイミングで、可及的速やかに根本的な制度のリフォームを実施していただきたいと思います。
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タイトル画像提供:花咲かずなり / PIXTA(ピクスタ)