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幸せを求める人の心につけ込むウイルス


 コロナウイルスCOVID-19が世界に猛威を振るっている。
 このウイルスが、なぜここまでの拡散力を持っているのか、をここしばらく考えてきた。
 ある時、このウイルスが、人の究極の要求、即ち「幸せ」を求めるという特徴をうまく活用しているからではないかと思うようになった。

 私の研究グループでは、人の幸せを客観データを用いて、科学的に研究してきた。幸せは、文化や個性や時代によって異なるものである。しかし、幸せになったときに我々の身体に生じる変化は、生理的な生化学反応であり、極めて普遍的である。
 そして、この生化学反応は、全身に生じる。例えば、血管の弛緩や収縮であり、筋肉の弛緩や収縮であり、血液中のホルモンや免疫物質の変化であり、血圧の変化であり、内臓や神経活動の変化である。
 しかし、なぜこのような生化学反応が体中で生じるのだろうか。理由は一つしかない。それは、そのような生化学反応を使ったフィードバックがあったほうが、我々が生物として生き残り、繁栄したからである。
 この状態はもっと増やした方がよいという時には「もっとこの状態が続くように、またこの状態が起きるようにしなさい」ということを示す、心地よいフィードバックが全身に生まれる。
 反対に避けるべき状態では「一刻も早く、この状態から脱出しなさい。再度こうならないようしなさい」ということを示す、不快なフィードバックがある。
 これが幸福感の増減の本質である。そして、このようなフィードバックを持っていた個体の方が、進化の過程で、生き残りやすく、繁栄しやすかったために、我々の中に今存在しているのである。

 進化の中で、我々人類の繁栄に決定的に重要だった特徴が、人との協力である。人類は、人との密な協力を前提とする進化の道を選んだお陰で、個体の肉体的な能力では、劣るライオンや象をも倒せるようになった。集団で高度に協力することこそが、人類の強さの源泉である。
 この人との協力を生じやすくするために、我々の身体には、人と協力することで、幸福感が増え、逆に、協力できなかったり、孤独になると幸福感が下がる生化学的な仕組みが埋め込まれている。

 我々は、テクノロジーを使った大量のデータで、これを研究してきた。質問紙による人の主観的な幸福感の増減と、ウエアラブルセンサを使った、人と人とのコミュニケーションの大規模データとの関係を詳しく調べることで、人の幸せは、人と人とがつながり合うことと関係していることを見出したのである。
 コミュニケーションの有無によって、人と人とを線でつなぐことができる。このような人と人とのつながりを表すグラフはソーシャルグラフと呼ばれる。集団における人間関係が濃厚だと、このグラフ(あるいはネットワーク)において三角形ができやすい。ここで、三角形とは、あなたの知り合いを二人選んだ時に、その二人同士も知り合いであるということを示している。逆にこのような三角形が少ない時に、必然的に集団の人間関係は疎となる。
 そして、あなたの周りに、このような三角形の構造があるかが、あなたが幸福感を感じるかに強い影響があることが大量データから見出されているのである。
 この三角形の関係を創るのはどうしたらいいか。それこそが、この季節に我々がよく見る光景である。あなたが、発起人になり、知り合いを複数人呼んで、花見を行うのである。その中には、この花見に参加するまでは、互いにあまり話すこともなかった関係も含まれる。しかし、このようインフォーマルな会合によって、直接的な仕事の依存関係などを越えて、人と人が繋がっていく。これによって三角形が増えるのである。これは花見にかかわらず、様々な会食や同窓会や卒業パーティーとはこういう特徴を持っている。
 この繋がりに関する三角形ができることをネットワーク科学では「クラスター」(かたまり)と呼ぶ。そして、三角形のクラスターが、どれほどできているか数えた指標を「クラスター係数」と呼ぶ。
 その人の周りにクラスターができているほど(クラスター係数が高いほど)、実は、人は幸せになりやすいのである。逆に、クラスターがなくなると、人は孤独感やうつ傾向を示し、全般に幸せ度が下がるのである。このような生理的なフィードバックを持つことで、人と一体感をもって協力しあうように促される進化してきたわけである。
 
 ところが、幸せのための本能に導かれて、自分のまわりにクラスターを発生させことこそが、ウイルスが拡散するメカニズムなのである。
 三角形の構造は、人のネットワークの離れたところに、架け橋を作る作用がある。元々は何ステップもの人のつながりを介さないと繋がらなかった人間関係に、ショートカットを作って一気につなげてしまうのである。だから、ウイルスが拡散するのである。
 ウイルスの拡散を防ぐために、今我々は、このクラスター化を防ぐ対策を実施しているわけである(感染対策で使われているクラスターという言葉が、ネットワーク科学のクラスターという言葉とどこまで意味が重なっているかは未確認です)。ニュースでもクラスター対策という言葉が盛んに使われている。

 しかし、それは、我々が幸せになるための本能的な要求と対立する。だから厄介なのである。
 逆にいうと、このウイルスは、人の幸せを求める本能につけ込んで、拡散するという大変いやらしい性格をもっているといえるのである。
 これまでのインフルエンザも、クラスター化すれば拡散する点ではかわらない。しかし、従来のインフルでは、本人の体調が悪くなり、その後は体調の回復が優先され、幸せな人間関係をつくることはその裏に隠れて見えなかった。しかし今回は元気な期間が2週間と長く、その間に、我々が本能に従って、幸せを求める行動(花見や会食など)を起こしやすく、それによりウイルスの拡散をもたらしてしまうのである。
 これこそが、このウイルスが進化により獲得した巧妙な戦略なのである。

 これから、もう一つ心配しなければならない点がある。
 それは、今行っているクラスター化を防ぐ対策は、人の幸福感を必然的に下げるということである。クラスターを作ることこそ、人が幸せになる源泉なのである。しかも、これは進化の中で培われた、我々の本能の中に深く埋め込まれた特性である。心がけや訓練では変えにくい特性である。
 従って、クラスター化を防ぐことが長期化すると、必然的に社会に、ストレスが増え、うつ病などのメンタルヘルスのリスクが高まるということである。

 以上は、この闘いの難しさの一面を捉えた論考である。
 残念ながら現場で毎日生死と闘っている人には、全く役には立たない。
 しかし、我々はこの闘いに勝たねばならない。そして、戦いにおいて、相手の戦略と狙いを正しく知ることは、常に重要である。その意味で何かの意味があるかもと思って綴ったものである。


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AIと人間社会行動や幸せについて研究しています。これがAIと合わさって大きなな変化をもたらすと考えています。著書『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』http://amzn.to/1mgfZHF http://bit.ly/Unmhs6

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