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経営人材を育成する上で、知識や経験をインプットする以上に大事なこと。

皆さん、こんにちは。今回は「経営人材育成」について書かせていただきます。

経営人材をどのように育てていくかは、各社共通の経営課題だと思います。現経営陣に、知識や経験、ナレッジ、実績、信頼、あらゆるステークホルダーからの評価、経営に必要な勘や感性などが蓄積されればされるほど、それを受け継いで同じように(またはそれ以上に)経営をすることの難易度が上がっていきます。

中には、社内で育成することはやめて(諦めて)、社外の優秀な経営人材を獲得することに集中したり、外部の会社に社内の経営人材育成を丸投げしてしまうケースも少なくありません。

経営人材を育成していくために、どのようなポイントを抑えておくべきか、具体的に考えていきます。

新年度に入り、フレッシュな人材がちまたにあふれている。彼ら彼女らの育成も昨今では様相が変わってきた。終身雇用に象徴された日本型人事制度も、人的資本経営という旗印のもと見直されつつある。だが、いったい何から手を付けるべきか思案に暮れる企業も多い。ことコーポレートガバナンスの観点からみると、最優先課題はただひとつ、経営人材の育成である。

■経営人材に必要な能力とは

そもそも経営人材とは、経営に対して全責任を持つ取締役や執行役員のことを指すことが多いですが、役職は各企業によって異なるため、「CEOなど“社長”」のことを指すこともあれば、「副社長や専務、常務」までを指すこともあり、場合によっては「子会社社長などを含む“事業責任者”」を指すこともあります。

経営人材に必要な能力は多岐にわたりますが、

  • 組織の向かう方向を示し、存在意義や社会に対して果たすべき役割を見出すことができる。

  • 中長期的な視点を持って会社が進むべき未来を構想し、戦略的に意思決定できる。

  • 外部環境(市場動向や顧客ニーズなど)の動きを洞察し、市場構造の変化を捉えられる。

  • 直接経験のない領域においても、自社のアセットを活用して、経営戦略上必要なことや新しいことを創造することができる。

  • 大きな環境の変化がある時にはリーダーシップを発揮し、全社変革を牽引することができる。

  • 人や組織の状態を俯瞰しながら、チームの熱量を上げて個々の能力を最大限引き出すことができる。

  • 人材や予算、プロジェクト管理など、優れた組織運営能力を持ち、リソース配分や組織の効率化を推進することができる。

  • 複雑な問題や課題に対して、迅速かつ効果的な解決策を模索できる。

  • 部分最適ではなく、全体最適で物事を思考できる。

  • 世の中の流れに興味を持ち、高い感度で受け止め、吸収することができる。

  • 高い自律性を持ち、組織に良い影響を波及させられる。

  • 決めたことをやりきる力(胆力)や、確固たる強い信念・意志がある。

  • 変化の激しいビジネス環境において、新しいアイディアやアプローチを生み出し続けられる。

  • 会社全体の大きな成長のために、適切なリスクテイクを行った上で、組織を進化・変革させられる。

  • 先見性を持ち、広く深く情報収集しながら分析・整理し、創造的かつ論理的に思考できる。

  • リスクサイドの洞察を欠かさず、適切なリスク・リターンを計算できる。

  • 複数のシナリオを想像し、柔軟性を持って高いレベルで対処できる。

  • 他者とのコンフリクトも辞さない強いコミットメントや、プレッシャーなどに潰されないタフさを持っている。

などが挙げられます。企業の将来を担う経営人材には、当然のことながら高い能力が求められ、しかもそれは一つの分野に秀でているだけではなく、多元的な要素が必要です。

これら全ての能力を兼ね備えた人材が最初から存在するわけではないため、自社でどのような人材に経営を担っていってほしいか、まずは人材要件を定義するところからスタートする必要があります。

1、経営人材に求める要件を定義する
2、要件を満たす(または満たす可能性のある)人材を選定する
3、候補者に対する育成計画を立てる
4、育成計画を実行する(成長機会を作る)

という、基本的にはシンプルな育成プロセスになりますが、このステップ一つ一つこそが難しく、一度フレームができたとしても市場環境の変化や自社の経営方針に応じてブラッシュアップし続けていかなければなりません。既存事業だけでなく、将来を見据えて仕込んでいく新規事業の内容が変われば、その事業を伸ばしていくために求められる人材の要件そのものが変化してしまうからです。

少子高齢化による労働人口減少や人手不足問題、転職が一般化したことによる優秀な人材の流出問題、テクノロジーの進化による企業を取り巻く環境の急速な変化など、あらゆる変化に迅速に、かつ的確に対応していくことが企業の明暗を分けることにもなります。その上で、企業の生き残りや成長に大きな影響を与える経営人材を発掘し、継続的に育成していくことは、決して容易ではありません。だからこそ、自社内での経営人材育成に、今からでも早急にコミットすべきなのです。

■経営人材の育成がうまくいかない理由

こちらの記事には、

日本の上場企業で経営者の後継を選別・育成する「サクセッションプラン」の導入が遅れている。デロイトトーマツグループと三井住友信託銀行の調査では、対応している企業が全体の26%にとどまった。「指名委員会」などトップ人事を監督する体制づくりは進んだが、企業価値向上を担える経営者選びなど機能面ではなお課題がある。

とありますが、社長候補となる人材の育成方法や評価について、取締役会や指名委員会などで定期的に議論をしている企業は少数にとどまっています。そのため、内部昇進の社長就任の場合、中間管理職としての期間が長くなる一方で、役員としての経営経験を積む期間は短くなってしまうのです。

他にも経営人材の育成がうまくいかない理由を挙げてみます。

●横並びを尊重する風土があるから。
→早いうちに経営人材を育成しようとしても、若手人材を早期に選抜することに抵抗を持つ企業は少なくありません。一部の社員にだけ特別な育成プログラムを受けてもらうことで、選ばれなかった社員のモチベーションに配慮しなければならなかったり、逆に選ばれた社員が過度なプライドを持ってしまうことを危惧しているケースもあります。

●育成の理由が不明瞭になってしまうから。
→通常は、経営人材候補となる人材を多めに選出し、その中から時間をかけて徐々に絞っていくやり方が一般的ですが、研修などの育成プログラムに、どのような理由でその場に集まってもらったのか、なぜ研修を受講してもらうのか、明確な理由や目的を意図的に伝えないケースもあります。それは、最終的に何かに選ばれなかった場合を想定してのこと(全員が昇進できるわけではない)なので、一概に悪いというわけではありません。ですが、目的や期待が不明瞭な分、モチベーションが上がらず、期待通りの成果が得られないこともあります。

●狙った「異動」ができないから。
→経営人材候補として選抜される人材は、各部門で責任者クラスになっているか、替えがきかない人材であることが多いです。そのような人材を異動させるとなると既存事業でのロスが大きく、一時的な戦力ダウンになることもあります。そのため、結局は「動かさない方がいい(動かせない)」となり、“異動”という手段がとれずに育成計画がストップしてしまうことも多々起こります。

●経営者の「ポジション」が報酬になってしまうから。
→経営人材候補となった社員にとって、経営者になることや役職・肩書きがつくことがゴールとなってしまうと、会社のためではなく自分の私利私欲のために行動することが増えたり、組織に派閥が作られやすくなりがちです。優秀な人材同士がお互いの足を引っ張りだしてしまうと、組織にとって良いことは少しもありません。

●組織の縦割りによって、単一事業での経験しかしていない人が多いから。
→大企業では特に、機能別に組織が分かれていたり、横軸での連携・共有が少なく、社内での人材流動性が担保されていないこともあります。その場合、単一事業での経験のみに留まり、視野の狭さや経験の浅さがネックとなり、経営人材へと成長する上で大きな壁となってしまいます。その場合は、小さくても一つの事業を丸ごと任せたり、PLを持ちながら経営の決断経験を積む機会を作っていくしかありません。経営人材は、一つの事業の責任者としての視点だけでなく、他事業も含めた、全社視点を持った人材でなければならないのです。

●登用フェーズになった時に躊躇してしまうから。
→育成がうまくいったとしても、いざ重要なポストに経営人材候補を登用していくとなったら、「まだ若いのではないか」「この事業には向いていないのではないか」などと躊躇してしまうことがあります。年功序列の企業ほど、若い人材の重要ポスト登用はハードルが高いことが多いです。その場合、どんどん登用が先送りとなり、その間にせっかく育てた優秀な人材の離職につながってしまうこともあります。

●今の育成の延長線上で、自然と経営人材が生まれると期待してしまっているから。
→各企業に存在している、既存のOJTやOFF-JTの育成の座組みによって、ある程度の年数が経てば自然と経営人材候補が育っていくはずだと信じて疑わない企業も予想以上に多いのではないかと思います。実際に現経営陣がそのような形で今の役職に就任している場合、実践以外で「研修」のような場が本当に必要なのかと懐疑的な企業も少なくないはずです。
 

このように、うまくいかない理由を挙げるときりがないほど、経営人材育成の壁はいくつも存在するのです。

■どのように経営人材を育成していくか

一般的な企業の研修といえば、マネジメントに携わる人を対象にした「管理職研修」が主流です。階層や職種、役割別に、管理職に必要な知識をインプットするような研修を実施したり、最近はハラスメントやセキュリティなどのリスクマネジメント研修を従来のものに加えて実施する企業も増えています。企業として当然実施すべきものですが、残念ながらこのような研修だけでは、マネジメント層の育成にはつながっても、「経営」を学ぶことはできません。

こちらの記事に、

ソニーグループが役員候補の育成に新手の研修を導入している。2022年度開始の「ソニークロスメンタリング プログラム」では直接の上司ではない他事業のトップが指導役となり、役員に必要なリーダーシップのあり方を教える。多様な経営視点の醸成やグループ間連携を深める狙いもある。

とあるように、多様な「経験」や「視点」を持った人材を育成していくことは、将来の経営人材を創出する上で必要不可欠なのです。

ではどのように、そのような人材を育成していけば良いのでしょうか。いくつかポイントを挙げてみます。

●20代のうちから素養がある人をピックアップし、プールしておく(可視化しておく)
→多くの企業では、既存事業で営業成績などを分かりやすく出してきた人や、新規事業を立ち上げてグロースさせた人など、若いうちから大きな成果を出した人が経営人材にまで昇進することが多いです。ですが、必ずしも高い実績を出したから経営ができる人材になるとは限らず、それぞれの企業が定義する経営人材を20代のうちから発掘し、ピックアップし、然るべき育成計画通りに育成し続けていかなければなりません。業績や成果に偏った人材の選出・抜擢だけに終始してしまうと、ある程度の年齢や経験を積んだ人にしか幹部登用のチャンスが巡ってこずに、本来、経営人材候補となる素養のある自律的な人材の離職につながってしまうこともあります。

●大胆な配置転換により、新しい領域への挑戦を次々と経験させる
→多角化に伴うそれまでの担当事業とは別の領域での事業経験を積む機会や新規事業経験を積む機会、グローバル進出に伴う海外支社での経験を積む機会、子会社の社長や取締役経験を積む機会など、大きな配置転換やジョブサイズの大きな新たな役割を促すことで、経営能力の研鑽の場を作ることが重要です。時には、社内では培えない経験を積んでもらうために他企業への出向など、外部との接点を作ることによって成長機会を提供することも有効です。前例踏襲や縦割りの弊害を乗り越え、現在の仕事よりもストレッチした、かつタフな役割をアサインし、良質な経験を積んでもらうことが大事なのです。

●「選抜型」の幹部育成だけでなく、ポジションに対して自ら手を挙げるなど、新しい取り組みを試す
→会社が全社員を正確に把握し、優秀な人材を発掘し、選抜していくのにも限界があります。社員数が増えれば増えるほど、経営陣が若手社員の個性や強み、能力やポテンシャルまで、網羅的に理解しておくことは難しく、優秀な人材の「ピックアップ漏れ」が発生してしまいます。それを解決するために、社内の重要ポジションをオープンにして、社員自ら応募できるようにするなど、やる気や能力のある人にチャンスを提供する形も有効ではないか思います。

●現在の経営トップが、経営人材育成に本気でコミットする
→経営人材の育成には、人事だけでなく、社内の様々な部署との連携や協力、支援が必要になってきます。何より、経営トップがどれだけ本気で育成にコミットできるかが、成否を分けると言っても過言ではありません。人事部門だけが育成に関わるのではなく、「誰にどのような機会を提供することが会社の未来につながるか」を真剣に考え、先頭に立って実践していくことが、候補者となる人材の本気度を引き出すことにもなります。また、経営者自らが経営人材育成に時間も労力も費やすことで、その重要性が社内全体にも伝播していきます。

●現経営陣によるバックアップ体制を構築する
→経営人材候補は、「選んで終わり」「育成して終わり」では当然ありません。現経営陣が、それまでの経営経験で学んだことや得たことを、しっかりと次の候補者に継承していかなければなりません。後継者が確定した後も、一定の並走期間を設けながら実践で経営視点を身に着けられるようにバックアップしていく必要もあります。さらに、企業が持続的に成長し続けていくためには、候補となる人材の層を厚くしながら、“仕組み”として経営人材が次々と生まれるようなフレームを構築していくことも重要です。

●内部だけで「選抜・育成・評価」のループをまわすのではなく、外部の目も入れる
→一緒に働く上司や経営陣から見て、経営人材候補となる人材を選抜・評価する際、どうしてもバイアスが発生し、客観性が失われてしまうこともあります。早期に人材を選抜するにしても、候補者に対して360度評価を適用したり、外部の専門会社からのコーチングやアセスメントの機会を定期的に持つことが重要です。その上で、「選抜・育成・評価」のループを適切にまわしていく必要があります。外部の目を入れることで、見過ごしていた能力や適性に気づくこともありますし、逆に、「やはりこの人は経営に向いている」というような再確認や経営チームとのコンセンサスを取る場にもなります。

冒頭で引用した記事の中には、

経営人材の育成は、既に先進企業ではしばらく前から取り組まれているが、全体としてはいまだ不足だ。取り組んでいる企業でも、経営人材育成プールに入れるのがようやく50代からだったり、トップや外部の目を入れた育成がなされていなかったりする。

とありましたが、40代50代になってから次の経営者候補としていくのではなく、それより前から人材を“発掘”し、“選抜”し、あらゆる手を駆使してそれぞれの企業に必要だと定義した“経験”を積ませていくことでしか、経営人材は育成できません。人から教わった知識や情報だけで経営ができるわけではなく、自分で苦労した体験や乗り越えた経験から、自ら経営に必要なことを紡ぎ出していくしかないのです。

それが40代50代からスタートするのでは遅いという点を企業が十分認識しながら、遅きに失する前に、20代30代のうちから経営人材候補を見つけ、十分な経験を積んでもらう努力をし続けていかなければならないのではないでしょうか。

サイバーエージェントの事例を少しだけ付け加えると、社長が2026年に会長となり、新社長が就任すると発表されてから、候補者を選定し、これまで約2年にわたって「社長研修」というものを実施してきました。その内容は、いわゆる経営に必要な知識をインプットするものから、自分がトップだったらどうするかというようなケーススタディ、さらに、当社における経営の意思決定基準の明文化を軸とした研修など、多岐にわたります。

一連の研修を通して、経営人材を育成していく上で大事なことは、「経営に必要な知識や経験をインプットする」こと以上に、「経営人材になるためのマインドセットをする」ことだと、個人的には痛感しています。

つまり、研修で「誰かが何かを教えること」以上に、候補者が「自ら課題を認識すること」であって、さらに、その課題を克服するプロセスで「自ら成長を実感すること」ではないかと思います。そしてその“課題”とは、経営者として会社をリードすることを前提として、市場の中で十分競争力となるレベルの難易度で設定されるべきだと思います。これまでのミドルマネジメント層の育成の延長線上では、経営人材は絶対に育っていかないのです。
 
経営者は企業の浮沈を左右する存在であり、経営の不確実性が増す中で、その重要性は増していく一方です。

後継者の選定・育成において、「経営トップを誰にするか」は当然重要な要素ではありますが、「誰を選ぶか」よりも「どのように選ぶか」、そして「どのように育てるか」こそが重要です。さらにその先に、誰がトップになったとしても一枚岩の強い経営チームを作り、チームで経営戦略を断行し、企業価値を向上し続けることが肝要であることは言うまでもありません。


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