世界共通の“他力本願”?
労働党政権は10月30日に、久方ぶりの予算案を発表する。実に14年ぶりだが、新政権は不評を買う決断が待っている、と注意を呼び掛けている。つまり、財政規律というメッセージを送ろうとする意図が見え隠れしていると言える。財政のブラックホールを埋めるためには、増税と財政余力を拡大する財政ルールの変更の組み合わせが予想される。それでも、今年度2024年4月から2025年3月の公的借入額は980億ポンドと予算責任局OBRの3月時点の予測から110億ポンド増加する見通しであり、財政再建への道筋は簡単ではない。
緊縮財政気味にやるしかないのは、厳しい財政状態を引き継いだ以上当然かもしれない。政府の財政ルールに対するいわゆる「余力」は、財務省の7月の監査で今年度の省庁別歳出額の予算超過額を約220億ポンドと特定する前でさえわずか90億ポンドと計算されており、既に過去最低水準にあったことは無視できない。ちなみにこの「余力」は財政ルールが守れなくなるまでにあとどの程度の財政余地が残っているかを表すもの、である。
現状のイギリス政府を考えると、大幅な歳出削減を選択できる状況にはない。しかも、政府支出のGDP比は44.9%と他の欧州諸国より十分低く、これ以上の削減はそれ程踏み込めない。行政、コンサルタント関連の支出など限定的な削減が発表された一方、いくつかの道路・病院建設プロジェクトの見直しなどがなされているが、全体的に見て、歳出抑制から財政再建を目指せる状況にはない。そうなると増税と財政再建圧力を和らげるための財政ルールの変更しかない。しかし、増税はどの国でも嫌われる措置であり、多くは依存できない。残るは財政ルールの変更というトリックを使うしかなくなってしまう。
翻って成長できればいい。”成長あっての財政”はどこかで聞いた話。ところが、成長率を見ると、2024年前半は米国と同程度でしっかりとした勢いを維持していた。しかし、2024年の成長率を0.8%と見込むOBRは悲観的過ぎるとしても、リーブス財務相にとって強力な追い風となるほど成長率を中期的に上方修正する力はない、と見るべきであろう。そうなると、過去数年程には税収の多い状態は期待できない。
こうした閉塞感を打破するためにも海外からの投資に期待する動きは強くなり、宣伝に拍車がかかる。どの国も自国に活路が見出せないと苦肉の策は他力本願、と言うことか。