通貨安戦争は勝負にならない。

今年に入ってからの米国の通貨・通商政策の在り方(ムニューシン発言、洗濯機・ソーラーパネルへのセーフガード、そして今回のアルミ関税etc)を踏まえれば、当然、もう1つの巨大な商圏であるEUが黙っているはずもなく、比較的早くこうした報道が出てきた感があります。ロス長官のTVインタビューを見る限り、全ての国が対象になりそうですからある種当然の流れと言えます。というよりも、EUはリベラル・グローバル・多文化許容の権化のように目されがちな面がありますが、そもそも「域外に対して域内を保護する」という緩衝材としての機能が本来期待されていたはずで、こうしたリアクションがやはり本質的なものだと思います(裏を返せばブレグジットとして結実する反EUの流れはそうした緩衝材としての機能をしっかり果たせなくなったことに対する”苦情”的な色合いがあると考えます)。

さて、こうなってくると必ず飛び出すフレーズが通貨安戦争です。しかし、変動為替相場制において米国の意向は残念ながら絶対的なものであり、「戦争」になった時点で非ドル通貨にはペインな展開しか待っていないと考えた方がいいでしょう。予想が難しい為替の世界において唯一確実なことは「米国の通貨政策の意向は概ね叶う」ということであり、だからこそ基軸通貨とも呼ばれ得るわけです。

今後生じるであろう円高圧力に対し日銀が切れるカードは殆どない(あったとしてもあまり効かない)と思われますが、それは日銀だけではなくECBもBOEもBOCも皆、程度の差こそあれ同じような立場に置かれているということが重要です。日本社会は殊更、為替に対する執着が強いゆえ耳目を集めやすいでしょうが、本気でドル安誘導された場合、ECBもユーロ高に悩むことになるはずです。白川総裁時代の日銀は円高に苦しめられ、時の体制に厳しい(時には心無いとも言える)批判が寄せられましたが、誰が総裁であったとしてもあの流れを逆転させるのは難しかったでしょう。麻生財務大臣がかつて仰ったように、金融危機後の米国のドル安誘導はあからさまであり、そのせいで日本が割を食ったという事実はやはりあると思います。

通貨安戦争になった場合、待ち受けている結末は一方的な展開であり、そうであるからこそ米国にそのような挙動を取らせないような国際的な枠組みが必要なのだと思います。今のトランプ政権に対し、そのような効果的な一手があるのかは正直分からないところではあるのですが・・・

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27667690T00C18A3MM0000/

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