2020年と第2次世界大戦の直前には、共通項がある
アメリカ・イランの対立で世界が緊張しています。タイトルの「戦争」という言葉に背筋が寒くなりますが、特にアメリカに目を向けると否定できないのも事実。その共通項とは、関税の引き上げです。武力衝突ではありません。
当然、武力に訴えることは深刻な問題です。戦禍につながることはなんとしても歯止めをかけなければいけません。一方で、今回のように直接的な衝突が起こるずっと前から、関税の引き上げ=保護主義 という火種はくすぶっていました。
2020年1月1日から日経電子版で連載が始まった「逆境の資本主義」。第7回は保護主義をテーマにしています。世界平和に思いをはせながら、なぜ保護主義が第2次世界大戦につながったのか、なぜいまのアメリカで浸透するに至ったのか振り返りたいと思います。
1929年:世界恐慌から産業を守るため
1920年代は好景気の時代でした。大衆車「T型フォード」に代表される大量生産・大量消費の社会が、アメリカを中心にうまく機能しはじめた時期でした。そんな「狂騒の20年代」は米株式相場の暴落をきっかけに幕を閉じ、世界は大恐慌に陥りました。
世界恐慌~第2次世界大戦への経緯を簡単にまとめます。保護主義は(5)のように経済の成長を止めてしまい、戦禍へとつながっていきました。
(1) 金融がマヒ、取り付け騒ぎが起きる
(2) 企業活動が停止、失業が急増
(3) 雇用を生むため大型の公共事業を展開(ニューディール政策)
(4) 輸出拡大を狙った通貨の切り下げ競争がブロック経済圏を生む
(5) 保護主義が横行し、自由貿易網が事実上崩壊。経済的苦境に
(6) 急進的な政権の成立につながり、第2次世界大戦へ
(出所)波乱の歴史 乗り越え成長
2016年~:世界的な競争から産業を守るため
2016年、トランプ大統領が工業地帯に住む白人貧困層の支持を集めて当選しました。当時の公約はAmerica First――自国の産業に高い関税をかけて、世界的な競争環境から守る約束をしたのです。
実際、18年には鉄鋼への関税が引き上げられました。ところが鉄鋼業の街、米北東部ペンシルベニア州モネッセンでは「状況は変わらないどころか、悪くなるばかり。店は閉まり、若者は街を出ていく」ありさまだといいます。
先ほど紹介した第2次世界大戦前の流れと状況は同じです。
高関税で米国内の鉄鋼価格は一時的に大きく上昇した。だが、米中摩擦が重荷となり、19年の世界の貿易量は前年比1.2%増と10年ぶりの低い伸びになったと世界貿易機関(WTO)はみる。これが響いて世界の景気は低迷し、鉄鋼需要は急速に冷え込んだ。鉄鋼価格は足元で関税引き上げ前さえ下回り、モネッセンの苦境は深刻になった。
(出所)よみがえる保護主義の亡霊~逆境の資本主義7
第2次世界大戦前に世界を覆い、ふたたび2020年によみがえった保護主義。「保護主義は大戦の直接的な引き金ではなくて、間接的な要因だから」と一蹴できるほど、状況は楽観視できません。現に、世界の貿易量は減速しつつあります。火種は中東だけでなく、世界経済そのものにあるともいえます。
歴史から学べることはたくさんある。2020年の節目こそ、冷静に過去を振り返る目を持ちたいですね。
(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 渡部加奈子)