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地銀であっても「学生が応募してこない」、地方企業の採用の厳しさ

地銀の初任給引き上げ

世界的な物価上昇に伴い、数年前から日本企業でも賃上げに積極姿勢を見せる企業が増えてきた。賃上げの動機は大きく2つあげられる。
1つは、物価高で従業員の生活が厳しくなるため、生活支援とモチベーション低下を防ぐための賃上げだ。もう1つは、人材獲得競争が激しくなる中で、条件を良いものとしなくては応募者が集まらない問題だ。
後者の理由からくる賃上げは、特に新卒採用でみられることが多い。初任給の引き上げは、採用競争が激しくなる中で、競合と同水準以上にしなくては応募が集まらない現実が背景としてある。
リクルートワークス研究所によると、2024年卒の大卒求人倍率は1.71倍であり、コロナ禍前の水準に戻った。そして、シニア世代のリタイアが相次ぐ中で、これからも上昇傾向は続くとみられている。売り手市場が激しくなる中で、労働条件の競り合いが生まれるのは当然の市場原理だ。

金融業界の大卒求人倍率は0.22倍で狭き門だが

新卒採用の戦略は大別すると2種類に分けられる。1つは、求人活動によって大量の応募者を集めて母集団を作り、そこから数度の選抜工程を踏まえて、内定者を決める「母集団構築型」の戦略だ。もう1種類は、ターゲットを絞り、狙った学生をスカウトする「ダイレクト・リクルーティグ型」の戦略だ。
どちらの戦略をとったとしても、労働条件、特に報酬面での充実度合は重要な要素だ。しかし、前者の「母集団構築型」の戦略では、報酬面での充実がより重視される。そうというのも、「母集団構築型」の戦略では、応募者が多数の求人を比較検討して応募先や内定受諾先を決めることになる。そのため、少しでも条件の良い企業が選ばれやすい。
加えて、「母集団構築型」の戦略では選抜手法や選抜基準が業界内で似通う傾向にある。そのため、1社が良いと判断した応募者は競合他社からも高評価を受け、競争が発生しやすい。ここでも応募者は自分を高評価してくれた企業から1社を選ぶことになるため、条件面の優劣が大きな影響力を持つ。
このため、求人倍率が低い業界でも初任給を引き上げて、格差をなくさなくては求職者の応募が集まらない現象が起きてしまう。リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、24年卒の金融業の倍率は0.22倍で各業界の中で最も倍率が低い。つまり、売り手市場ではなく買い手市場であるはずだ。しかし、現実にはそうなっていない。金融業界の採用担当者も他の業界同様に「応募者が思うように集まらない」と頭を悩ませている。特に、地方の金融機関は悩みもひときわだ。

地方で働くことは魅力か?障害か?

日本は良くも悪くも首都圏一極集中の国である。産・学・官と農水産以外のほとんどの重要な資源が、東京を中心とした首都圏に集まっている。そのため、仕事と生活の場として、首都圏を志望する人の割合が多い。特に、20代の若者にとって、首都圏で勤務できるかどうかは意思決定の大きな要因だ。
このことは、地方に本社を持つ企業にとってハンディキャップとなる。たとえ、世界のトヨタであっても「最終的には豊田市で勤務」という点が、学生にとって逆風になる。また、大企業本社が東京に集中していることもあり、大企業を志望する学生にとっては自然と東京の企業が第1選択肢になる。
都心の大学に通っている学生にとっては、就職のために引っ越しをするコストが必要ないことも大きい。もし地方の企業に就職して引っ越したものの、相性が合わずに早期退職となった場合、失うものも大きい。
つまり、順当に考えると学生にとっては「東京勤務」が賢い選択になる。「就職では地元に帰りたい」や「特定の企業に入社したい」という特別な事情がなければ、東京で勤務ができる企業を選ぶ。
そうなると、地方の企業で東京の大企業と競合する場合には、特別な誘因がなくては採用が難しい。
東京の大企業と競合する地方企業の代表例が地方銀行だ。倍率が1を割り込んでいても、「地方勤務」という点がネックとなって思うように応募が集まらない。学生のとっても、できるだけ「金融」×「都心勤務」という掛け算で就職先を選びたい気持ちがある。
これを崩すための方法は2つしかない。1つは、求人活動のPRを首都圏の1年生から繰り返し、地方銀行で働くことの魅力を啓蒙することだ。加えて、選んでもらうために「地方だから流行に後れていても仕方がない」などと言わず、積極的に時代に合わせた組織変革も取り組まなくては選ばれることはない。もう1つは、母集団形成をあきらめることだ。採用戦略のポートフォリオを見直し、「地方」で働くことに興味がある学生をピンポイントで釣り上げる。そうなると、採用担当のコンピテンシーは大きく変わる。プロスポーツにおけるスカウトのように候補者がいそうな場を「スカウティング(偵察)」し、オンラインツールを用いて候補者とコミュニケーションをとり続ける「ソーサー」となる。
なんにせよ、このままでは地方企業にとって採用が厳しくなる一方なのは目に見えている。しかし、この逆境を生かし、組織改革と採用変革に取り組むことができれば、企業としてレベルアップし、一皮むけることができる好機でもある。是非、地方企業には攻めの姿勢で改革に取り組んでほしい。伸びしろは大きいのだ。

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