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チャットツールやSNSで人材を探すコミュニティ型採用

ネットの活用が益々増える採用活動

業務プロセスにおいて、デジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されるようになって随分経つ。さまざまな業務のDXが進む中で、最もテクノロジーの活用が早かった分野の1つが採用だ。
世界的に見ても、採用はデジタル技術による変革が早く、尚且つ頻繁に起きていることで知られる。例えば、インターネットがエンドユーザー向けに広まり始めた1990年代には、求人情報のインターネット化は始まっている。日本でも、96年には『RECRUIT BOOK on the NET(現リクナビ)』がスタートして就職情報誌のオンライン化が始まっている。00年代にはインターネットが主流なメディアとなっている。
適性検査のオンライン化も00年代から本格化し、04年にはリクルート社がSPIのコンピュータ上でのテスティングサービスを始めている。
2000年代のはじめに光ファイバーによってデータ通信が大容量化し、SKYPEをはじめとしたコミュニケーション・ソフトウェアが登場すると、遠隔地の候補者の面談ツールとして活用され始めた。2010年代には、中途採用を中心として、WEB面接も普及し始める。2010年代後半には機械学習の技術革新によって、欧米を中心にAIによる候補者診断の試みもスタートを始めた。
日本では、WEB面接やAI診断が普及を始めたのはコロナ禍による影響が大きい。従来通りの対面を前提とした選抜方法をとることができず、まずはオンライン説明会やWEB面接、オンラインインターンシップが広まった。それに合わせて、SHainNのようなAIによる自動診断ツールも普及するようになった。
このように採用のデジタル化が進むのに合わせて、求職者側も適応が求められている。特に、現代の学生はデジタルネイティブ世代と呼ばれ、生まれた時からインターネットが当たり前であるためにテクノロジーとの親和性が高いと見られがちだ。残念ながら、実際に大学生と接していると、保守的な日本の学校教育で育ってきた学生たちがテクノロジー活用に高い資質を持っているとは感じることは少ない。(なかには素晴らしい資質を持った学生もいることはいるがマイノリティだ。)どちらかというと世の中からの期待と時代の変化に振り回されていることが多い。次から次へと出てくる新たなテクノロジーと情報量の多さに困惑している姿は日経新聞の記事でも取り上げられている。

専門性をデジタルが証明する

採用のデジタル化に合わせて、採用担当者は新しいツールを使いこなす以上に、採用プロセスそのものを見直す必要性も出てきている。例えば、新卒と中途を問わずに、求人の応募者が期待通りの資質や専門性を持っているのかを見抜く精度が問われるようになっている。
伝統的には、応募者の資質や専門性を評価するのに使われてきたのは面接だ。面接という選抜手法は科学的に、面接官の主観からくるバイアスが大きく、面接官個人の資質によって左右される要素が大きい。しかも、個人差もあるために信頼性にも難がある。
求人に対して、最も精度が高いとされている選抜方法は「実際に働く環境に近しい状況を再現して、実際の業務に近い仕事をやらせてみる」だ。再現度が高いほど精度は高まるが、その分、採用にかかるコストも大きくなる。
そこで代替策として期待されているのが公開されている実績のデジタル証明だ。例えば、エンジニア採用ではGitHub経由での採用が増えている。GitHubで優れたプロジェクトを公開しているエンジニアを採用担当者が探し、直接アプローチをかけて採用するというケースが世界的に増えている。
エンジニア以外だと、一緒に働いた経験のある人物からのリファレンス(推薦文)も伝統的に用いられる。LinkedInでは、一緒に仕事をした経験のある友人に対して、どのような働きぶりで貢献があったのかについてコメントを残す機能がある。

新卒でも、学生生活を通じて業務に役立つ専門性を身に着けてきたかどうかが重視されるようになってきた。大学によっては、履修履歴や特定の訓練や教育プログラムを履修したかどうかを認定するデジタル証明書の発行を導入する動きが出てきている。履修履歴面接のように、学生に履修履歴や成績証明書の提出を求め、履修科目や成績などの事実を基に面談を行う手法も増えている。大学での過ごし方と学んできた内容から、その学生のキャリアの方向性や仕事への姿勢を予測しようという動きがみられる。

Slackのコミュニティから採用する

このように採用の精度を高めようとしたとき、それまでの採用の常識でもあった「求人広告を出して、就職・転職希望者から応募を募る」という基本プロセスが見直されてきている。採用活動は、求人と求職者をマッチングさせるのではなく、仕事に対して最も適した人材を探索する方向性にシフトしている。Githubにプロジェクトを公開しているエンジニアは求職者ではない。しかし、その業績から一緒に働いて欲しいと声をかける。数年前から見られ始めたリファーラル採用も基本は同じだ。「一緒に働きたい」「この人が来ると自分の会社に良いことがある」という人を誘うのであって、誘われる人が求職中とは限らない。
ベンチャー企業を中心にみられるが、最近だとTwitterなどのSNSでの繋がりから採用するケースも増えている。ベンチャー経営者や採用担当者が仕事用のTwitterアカウントを開設するケースが増えているが、そこで知り合った人を誘うこともあれば、単発のプロジェクトに副業として参加してもらい、それを切っ掛けとして正式に転職してもらうことも多い。
つまり、採用担当者は「求人に対して如何に多くの応募者を集めるか」が重要ではなく、「自社にとって有用な人材と、どれだけ大きなコミュニティを作れるのか」へと期待されている働き方が変化している。毎年、数百名規模で新卒採用をする大企業でもない限り、ほとんどの企業規模の採用では適切な規模のコミュニティを形成できていれば、コミュニティからの一本釣りでほとんどの採用を賄うことも可能だ。
米国を中心として他の先進諸国では、このようなコミュニティの形成にコミュニケーションアプリの「Slack」と「Discord」が注目を集めている。同じような人材を求めている企業の採用担当者同士のコミュニティを作り、お互いに情報交換や人的ネットワークの共有をして採用活動の支援をしている。また、専門家のコミュニティに採用担当者が参加し、そこで得ることができた人脈から求人に声をかける。

インターネットが本格化してからの30年弱で、採用は大きな変化をいくつも経験している。そして、その変化はこれからも続くだろう。直近で間違いなく起こると言われていることは、精度だけで言うならば、人間よりもAIのほうが面接の選抜力が優れるというものだ。
それでは、採用の業務すべてがAIによる自動化ができるのかというとそうではない。採用は技術的な問題と制約によって、従来の方法には多くの問題もあった。例えば、選考時の面接偏重もその1つだ。本来であれば、求職者の選抜に多くの時間と労力を割いて、適材かを見極める精度を高めることが望ましい。AI面接で候補者の絞り込みに割くリソースを軽減できると、その分、手の込んだ選抜手法を用いることもできるようになる。
採用のデジタル化とテクノロジーの進展によって、採用業務のプロセス・採用担当者の行動・求職者の行動と変化がこれからも起きるだろう。採用する企業も仕事を探す個人も、このような変化に適応することが求められている。

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