【日経COMEMOテーマ企画】地域産業とテクノロジーのコラボ
日経COMEMOのテーマ企画で、「夢のコラボ」と題して企業間のコラボレーションのアイデアを募集していたので、(かなり)出遅れてしまったがせっかくなので便乗してみたい。
お題提示の記事でも触れられているが、M&Aや経営統合は当たり前の世の中になり、ビックロなどの事業単位でのコラボも増えてきた。しかし、ビジネスのコラボレーションは何も大企業だけのものではないだろう。そこで、中小企業や地方企業でのコラボレーションについて、本稿では考えてみたい。
コラボレーションがなぜ必要か?
そもそも、コラボレーションはどのような目的があってなされるのか。個別のケースを見ていくと、自社にはないリソースを使うことや単独では難しい大規模プロジェクトを実行するためなどの理由が見られるだろう。しかし、その本質は、異なる性格を持つ企業やビジネスが結びついて、新しい何か(something new)を生み出すことにあるのではないか。その結果、社会や市場に変化をもたらし、イノベーションを生み出すことが期待される。
コラボレーションの結果としてイノベーションが期待されるのは、これまで多くの研究者や実務家から語られてきた古典的な理論だ。シュンペーターの新結合を始めとして、アレックス・オズボーンのブレインストーミング、スタンフォード大学のティナ・シーリグ教授の起業家育成プログラムなど、コラボレーションを基軸として新しいビジネスを生み出そうというテクニックは数多くある。
これらの既存理論に共通することは、コラボレーションの組み合わせはできるだけ「あり得ない」と思われるものが望ましいということだ。心理学では、既存の物を組み合わせ、これまでにない新しい物を考え出すことを「馴染みあるものから、馴染みのないものを (Familiar to Unfamiliar)」と呼称する。
例えば、スタンフォード大学のティナ・シーリグのプログラムでは、「南極でビキニを売る方法」という一見不可能だと思えるようなテーマが出されている。このテーマに対して、スタンフォード大学の学生は「南極への航海中にダイエットを行い、成果として南極でビキニを着て記念撮影をする旅行ツアー」というユニークなアイデアを出している。常識では考えられないような状況を想定することで、常識に捉われない柔軟な発想をするための舞台装置としている。
「一見不可能だ」と思えるところが起点となってイノベーションが生まれた事例は多い。今や当たり前になったクール宅急便は「生ものは運べない」という当時の常識をヤマト運輸が打ち壊し、不可能を可能にすることで成功を掴んだ。同様に、カルビーのポテトチップスやカッパエビセンにも二律背反が存在する。美味しさを追求するためには、原材料の鮮度や品質、保存状態が大きな影響を与える。そのため、生産者の技術を向上し、肥料や農薬散布履歴も含めたトレイサビリティで不可能を可能にしてきた。
中小企業や地方企業でのコラボレーションにおいても、その目的をイノベーションと定めることに。そして、そのためには一見、結びつかないようなものとの組み合わせが重要になってくる。不可能だと思われるようなものと結びつけることで、それまでなかった発想が下りてくる。
それでは、どのような要素と組み合わせが考えられるだろうか。筆者がオススメしたいのは、直接的には事業と関連を持たない、最新技術との結合だ。
テクノロジーと既存産業のコラボレーション
歴史を振り返ってみると、最新技術と既存ビジネスを組み合わせることで本社のある都市の規模や立地とは関係なく、社会に大きな変革をもたらした事例に事欠かない。
地方発イノベーションの歴史を紐解くときに、そのスタートとするべきは産業革命だろう。イギリスの地方都市から起きた紡績業を中心とした製造業の変化は、大量生産という概念を生み出した。その中でも、特に大きな意義を持つのはマンチェスターから生まれた、リチャード・ロバーツの自動紡績機だ。リチャード・ロバーツは紡績機の生産性を向上させるために、蒸気機関という新技術に目を付け、世界で初めて産業用機械の自働化に成功した。
時代を下ると、ウォルマートも事例として取り上げることができる。ウォルマートの名前は知らない人はいないだろうが、その創業の地であり本社がどこにあるのか答えられる人は少ないのではないか。ウォルマートの本社は、アーカンソー州にある人口約3万人のベントンビルにある。
ウォルマートを支えたのは、最新テクノロジーを積極導入することでサプライチェーンの効率化を徹底したところにあると言えるだろう。1980年代初頭に、バーコードによる商品管理にいち早く着目し、在庫管理とレジ作業に画期的な変化をもたらした。そして、同時期に独自の衛星システムによるトラック配送システムの構築やクレジットカード決済など、当時の先端技術の導入を積極的に行った。同社のテクノロジー活用に対する姿勢は企業文化となっており、現在も最もテクノロジー活用に積極的な小売り企業として強みを発揮している。
世界最大の小売業であるウォルマートは、伝統的な小売店ビジネスとテクノロジーを活用し、今やAmazonキラーとして北米では猛威を振るっている。アプリで事前に注文と決済をして、車で来店すると駐車場で荷物を受け取れるピックアップサービスやオンライン注文での迅速配達など、次々と打ち出される新サービスが強みの源泉だ。
ウォルマートの事例からは、伝統的なビジネスがテクノロジーの活用によって、強い競争力を得ることができることを示している。既存の事業形態ではこれ以上の成長が望めない企業こそ、テクノロジーとのコラボレーションに活路を見出すべきだろう。
地域産業をテクノロジーでアップデートする
現在、地方経済がなぜ苦境に立たされているのかというと、その理由はシンプルで地場企業が儲ける仕組みを作ることができていないためだ。人口が増加し、国内市場が広がっていた時代は、東京などの大都市圏で成功したビジネスのコピーや下請けでも十分に稼ぐことができた。しかし、人口が減少し、国内市場が縮小している現代では、地元を市場に据えた地域密着ビジネスでは儲けることが難しい。稼ぐ力を身に着けるためには、Tree Islands Singapore Pte. Ltd. 代表取締役社長の木島洋嗣氏が主張するように、外需グローバルを基本に据えたビジネスが肝要となる。
外需で稼ぐというと、多くの人が京都のように外国人観光客でごった返した街の様子を思い浮かべるだろう。しかし、外需グローバルのビジネスでは、なにも外国人を直接日本に呼び込み、消費を促す必要はない。先に引用した木島氏の記事では、シンガポールの景気の良しあしは停泊する貨物船の賑わい具合で判断すると述べているが、要は海外市場から稼ぐことのできる仕組みを作り、取引が潤沢であることが要諦となる。
この海外市場から稼ぐ仕組みを作るために、テクノロジーの持つ潜在能力は計り知れない。人口135万人しかいないエストニアから Skype が生まれたように、テクノロジーは都市の規模や地理的な要因を超えることができる。
例えば、私の教え子がゲームプレーヤーが自分に合ったコミュニティを探せるプラットフォーム「Clitch」をリリースしようと起業準備している。彼のビジネスの主要な市場は、北米や韓国、台湾といった eスポーツの盛んな国々だ。海外市場を想定したビジネス開発をしているため、彼のチームメンバーは韓国人のメンバーを含むなど多国籍だ。また、大分は観光やエンターテイメント産業に開かれた風土があり、別府市は人口の約6%が大学生と若者が多いために、若者文化であるゲーム・ビジネスとの相性も良い。土地代が安く、どこにでも温泉があり、遊ぶように働く環境を作ることも容易で、従業員の創造性を刺激する環境作りに適している。
令和時代のコラボレーションは、テクノロジーとのコラボが鍵となる。来年は、米国や韓国などの他の先進諸国に遅れたが、いよいよ5Gもスタートする。地場産業とテクノロジーを掛け合わせ、外需グローバル型のビジネスを生み出した地方都市が、未来を創ることができるだろう。