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マネジメントに必要な「モデファシ力」~コーチング力だけではない!?モデレーション&ファシリテーションで個と組織をつなげよう~

 Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。ステージモデレーターやワークショップファシリテーターとしての実績も多数です。

 「THE MODERATORS & FACILITATORS」というオンラインスクールをCOMEMO KOL仲間でもある西村創一朗さんとやっています。「モデファシ」と略して呼んでいます。主にステージ進行における「モデレーション」「ファシリテーション」の技術を余すところなく伝える講座で、開講から1年2か月、開講は9期を数え、卒業生はまもなく100名を超えます。(現在、11月11日(木)11月18日(木)11月25日(木)の19:00〜22:00に開講される第10期の受講生募集中です!CM!)

 最初はまさかこんなにニーズがあると思わず立ち上げたのですが「知見を広げ深める対話づくり」の必要性が世の中で増している証拠だと受け止めています。

 それを象徴するのが「コーチング」のちょっとしたブームです。「1on1ミーティング」が企業に普及することで、中間管理職研修にコーチング研修を取り入れる会社も増えています。オンライン主体のリモートワークが広がり、上司部下のコミュニケーションの見直しに迫られているのも、1on1ブームの背景にはあるでしょう。社内でのコミュニケーションを円滑にし、社員の動機付けにつなげていきたいという企業側の思惑が背景にはあります。

 私もコーチングを提供しているので、そのスキルの必要性を痛感しています。その一方で、組織をマネジメントする上では、「モデレーション」「ファシリテーション」のスキル「モデファシ力」とこの記事では呼んでいます)もあわせて重要だと考えています。「個人の想い」を形にしていくプロセスがコーチングだとしたら、メンバーそれぞれの想いを混ぜ合わせて、共通のゴールをつくったり、具体的なプロセスをつくったりするためのチーム対話の精度を上げるスキルが、モデレーション力であり、ファシリテーション力です。その両方を駆使した対話があってこそ、個人の目指したい方向性と、組織が目指したい方向性を、混ぜ合わせながら、お互いが納得した共同作業が生み出せるのではと考えています。

 なぜ「モデファシ力」が必要なのか。企業における1on1、そしてコーチングブームの背景を掘り下げながら、下記説明していきます。最後までお読みいただけますと幸いです。

1on1ブームが広げた「コーチング」の裾野

 「コーチング」の注目度が年々増しています。10年前くらいだと「エグゼクティブ・コーチング」という言葉に象徴されるように、バリバリのビジネスパーソンが活用するものだったコーチングですが、今は一般の方も利用されるケースが増えてきています。

 コーチングを受ける方だけではなく、コーチングを学習する方も増えています。私もコーチングを数年前から行っていたのですが、昨年からはICF(国際コーチング連盟)の認定資格を取得すべくオンラインスクールに通い始めました。知人の中にも「コーチングを勉強している」「コーチとして独立起業した!」という方の数が急速に増えています。

 コロナ禍になり、自分を見つめなおす時間の必要性が増したり、オンライン学習で新しいスキルを身に着ける人が増えた影響もあるのでしょう。コーチ人口は、やる人、受ける人、共に続々と増えてきています。

 実は企業の中でも同様の現象が起きています。キャリアについて社員に考えてもらおうという動きが企業の中にも広がってきていて、中間管理職のコーチングスキルを強化する動きが広がっているのです。 

 これまでの中間管理職と部下の面談といえば、「ノルマ会議」や「進捗確認会議」が主でした。私がかつて所属していた会社でも「キャリア面談を上司部下で年に一回やりなさい」と人事から通達がきていましたが、キャリアの面倒を見るなんて考えたこともない当時の上司がどう振る舞っていいかわからず、終始進捗確認を行う(もしくは、キャリア面談をやったことにしてスキップする)ということもよくありました。

 しかし市場環境の不確実性が増し、リモートワークも徐々に広がり「自律的に考えて働く人材」の必要性が増してくる中で、「部下の言葉を引き出し伴走する管理職」が、企業にとっての理想になってきました。上の記事より、1on1の強化に取り組むライオンの事例を引用します。

表現力、問題解決能力など、成果をあげるための行動特性・能力(コンピテンシー)を25項目設定。個々の社員は自分が重点的に伸ばす項目を決める。今年から毎月の個別面談「1on1(ワンオンワン)ミーティング」で、上司が部下にコンピテンシー強化の支援を始めた。

たとえば「まずは紙1枚で伝えられるようにしよう」「仮説を立てる力をつけよう」などと提案、「eラーニングのこの講座で学ぶといい」といった助言をする。これまでも3年先や5年先の希望を聴くキャリア面談を実施してきたが、その実現を具体的に後押しするわけだ。社員の能力向上は企業の成長力を確実に高める。「希望が全部かなうわけではないが、大事なのはそうした目標に向かって本人が行動する姿を身近にいる上司が認めてあげること」と、小池陽子・執行役員人材開発センター部長は話す。

 いわば従業員が組織で働く納得感を増やすために「上司が部下のキャリアコーチ」になるような環境が求められているのです。そのためにもちろん必要になるのが、中間管理職のコーチングスキルというわけです。今まで業績ベースで出世してきたビジネスパーソンのすべてが上手に部下とコミュニケーションをとれるタイプではないわけでして、多くの企業が中間管理職に対してコーチング研修を取り入れ、傾聴や問いかけについて学ばせているというのが現状です。あちらもこちらも「コーチングは大事」と騒いでいて、1on1ブームがきっかけになって、ちょっとしたコーチングブームが起きているともいえます。

「納得」のコーチングと「合意」のモデレーション&ファシリテーション

 コーチングを実践するものとして、マネージャーのコーチングスキルが上がると組織前提に前向きな効果があることについてはまったく異論はありません。部下は会社から「尊重されている」という意識を強くするでしょうし、組織で働くことが自分のキャリアにとってプラスになると思えれば、自律的な成長にもつながっていくでしょう。

 ただし、特に大きな組織の最適化を考えたときに「個人の動機」に焦点をあてるコーチングには、ちょっとした限界もある気がします。組織全体でみたときに、全員が全員、自分が描く通りの仕事ができるわけではないという現実があるからです。

 上手にコーチングを施すと、従業員の仕事への期待値が上がる結果になります。それは狙い通りでいいことなのですが、その期待に応えられるような環境が用意されないと、むしろギャップを生む結果になるわけです。

 1on1主体で企業が個人のキャリアと向き合ってくれるのは、優秀なビジネスパーソンにとってはいいプロセスだと言っていいでしょう。自力で環境をつかみ取る力があるからです。けれども、まだスキルが足りない、成熟に時間がかかる、客観的に見て理想と現実のギャップが大きいビジネスパーソンからすると、延々と「やりたいことをやらせてくれるかもと言われ続けながら結局やらせてもらえない」という空手形を踏ませ続けられるような結果になりかねません。

 いわば組織におけるコーチングは「自分自身が組織で働くことに納得感を持たせる」、いわば「内発的動機づけ」のプロセスです。しかし、組織を回していくためには、ある程度は、組織の思惑に沿って働いてもらうシーンもつくる必要が出てきます。新規事業をやりたいと言い続けている人に既存事業をやってもらったり、企画をやりたいと言っている人に運用をやってもらったり、と言った風に。そして自己プレゼン能力が低い人ほど、組織の思惑に延々乗り続ける結果になり、不満をためやすくなるのです。

 そこで大事なのが、「組織と個人の間に立ちながら、お互いの合意をとっていくプロセス」です。そのプロセスに必要なマネジメントにとってのスキルが「モデレーション」と「ファシリテーション」(モデレーション+ファシリテーション、略して「モデファシ力」と呼んでいます)だと私は考えています。

「調停する」モデレーションと「促進する」ファシリテーション

 イベントなどでよく聞く「モデレーター」という言葉は、もともとは「司会進行」という意味ではなく、辞書で調べると「調停する人」という意味があります。いわば「話し合いのまとめ役」が「モデレーター」です。

 モデレーターと同じように使われる単語に「ファシリテーター」があります。これももともとは「司会進行」という意味ではありません。辞書で調べると「促進する人」という意味があります。「議論をよりいいものにするために合意形成をつくっていく触媒役」が「ファシリテーター」です。

 さて、組織における仕事というものは、個人が納得しただけでは前に進みません。大事なのは、それぞれの個性を混ぜ合わせながら、組織としてのゴールに向かっていくことです。

 「モデレーション」と「ファシリテーション」のスキルは、この「組織の共通のゴールをボトムアップで産み出す」プロセスに必要なものです。

 コーチングは「個」と向き合って、内発的動機を言語化するプロセスです。この言語化された「内発的動機」は、個人を動かすエンジンとしても必要なものですが、もう1つ大事な効能があります。それは「周りに自分の気持ちを精度高く伝える」ための武器になるという効能です。

 いいチームをつくるには、メンバーのそれぞれが、自分の言葉で、精度高く内発的動機を共有しながら、チームとして一緒に向かっていく方向性を確認していく必要があります。そのためには、まずはみんながある程度好き勝手に言い合える状態をつくり、それぞれの思惑を理解しながら、抽象的な議論を展開してゴールのイメージをまとめあげていくマネージャーの「モデレーション力」が必要になります。

 ゴールのイメージが共有されたら「さて、じゃあ具体的にそれぞれのメンバーが組織のためにどう役割を分担して何をやればいいのだろうか」という、チームビルディングが必要になります。

 チームビルディングのための具体的な議論に必要なのが「ファシリテーション力」です。あるべき姿は理解できた。じゃあ具体的にどうするの?という最適解を、それぞれの利害関係を調整しながら形にしていくのです。

 チームビルディングにおけるファシリテーションで大事なのは「個人の利害を主張しているだけでは、みんなの居場所は維持できない」ことを確認しながら、それぞれが居場所を維持するためのゆるやかな分担と最低限のルールを決めていくことです。

 役割の分担についてはきっちりしすぎず、曖昧なところも残しながら「担当外のことでも、担当者間での合意がとれて、やる理由が説明できるならどんどんやっていい」くらいの感覚でやるほうが、メンバーの不満がたまりづらくなります。

 自律型の組織において、ルールは最低限であることが望ましく、ルールに抵触せずに自身の責務を遂行できるのであれば、プロセスにおいては裁量を与えていくことが大切になります。

 「プロセスや分担について最低限のラインは決めつつも、基本はメンバーの裁量で進む状態」をつくると、コーチングを通じて内発的動機が言語化されたメンバーのモチベーションが維持されやすくなります。メインの担当でなくても、副業的に自分が本来やりたいタスクにかかわれたり、自分で働き方や仕事の進め方を選択できるので、不満がたまりづらいのです。

 この対話を一度きりで終わらせないことも大事です。トライ・アンド・エラーを繰り返しながら最適解の精度を上げていく必要があるからです。チーム内で定期的に対話の場を持って、モデレーション&ファシリテーションを繰り返して定点観測することで、常に理想と現状のギャップをはかりつつ、チームのゴールに近づくために何ができるかを見直し続ける必要があるのです。

チームの調和と促進を産み出す「モデファシ力」に注目しよう

 「コーチング力」が、個人の内発的動機の言語化と行動支援のためのスキルだとしたら、複数のメンバーの動機と組織の動機を混ぜあいながら、それぞれにできることを言語化し、行動に落とし込んでいくスキルが「モデファシ力」です。

 外からファシリテーターを呼んでワークショップをするのもいいでしょう(私のお仕事はまさにそのような「雇われファシリテーター」です)。しかし、組織が中で合意形成をとりつつゴールに向かうプロセスにおいて大事なのは、社員自身が対話づくりのスキルを駆使しながら、組織の中の人たちをつないだり、精度の高い対話を日常的に生みだすことです。

 企業に長く属し、どんな人がどんな部署にいて、どんなポジションについているのかを熟知している、土地勘のあるベテラン社員にこそ、モデファシ力が必要になると私は考えています。組織をよく知る人間がこのスキルを身に着けたら、組織内の人材交流やコラボレーションはより活性化され、硬直化した業務もより流動的になっていくでしょう。

 私が講師をしているモデファシ力を伝えるスクール「THE MODERATORS & FACILITATORS」には、イベントや配信を日ごろしている人はもちろんのこと、組織開発をしている人事のマネジメントや、経営者、起業家、新規事業に取り組んでいる方、日ごろ1on1に取り組んでいる中間管理職の方も多数受講されています。そして、みなさんが「モデファシ力は、イベントやワークショップはもちろんのこと、日常業務にこそ役立つ」とおっしゃっています。非常に不確実性が高く、自律的な働き方が求められる今だからこそ、身に着ける価値のあるスキルであることの証拠ともいえるかもしれません。

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こちらの記事は、COMEMO編集部によるこちらのお題を元に執筆されました。いつも考えがいのあるお題をありがとうございます。

#日経COMEMO #ベテラン社員に学んでほしいスキル

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