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Computexに見る米中デカップリングないしデリスキングの現状と、今後の日本が取るべき方策を考える

5月末から6月初頭にかけて開催された台北でのComputex2023に参加してきた。コロナ前の2019年以来実に4年ぶりとなる参加で、来場者もコロナ前を上回る規模に復活したようで大変活況であった。

 ホールを一巡りして感じたのは、ずいぶんスッキリとし、洗練された印象になったな、ということであった。その原因を考えてみると、実は今年は中国からの出展がほぼゼロであったことがその理由の一つであったと思う。

コロナ前までであれば、ホールの壁際に両岸経済交流を掲げて中国の中小企業がたくさんの小さなブースを出していた記憶がある。今回はそうしたブースが全くなかった。

 また、コロナ直前の時期には ゲーミング PC を除いて出展から撤退していた Acerが再び大規模なブースを復活させているなど、台湾企業の動向にも変化が見受けられた。

 こうした変化の要因がどこにあるのかについては、各社それぞれの事情もあると思われるので一概には語れないものとは思うが、1つにはいわゆる米中のデカップリングないしデリスキングが大きく関係しているのではないか、と私は思っている。

 今回、中国で製造する製品が欧米で販売できなくなるリスクを回避するために、台湾企業での生産を目指して、パートナー探しにComputexに来ている日本企業の話も見聞きした。そのせいかどうかは分からないが、今回のComputexの来場者数はコロナ前より12%増加し、日本人来場者数は国別で1位だったらしい。

これまでであれば、日本企業は深センに代表される中国で生産して、中国国内にも全世界にもその製品を輸出することが最も効率的で、あるしコスト的にも見合うものだった、ということだと思う。このため、台湾での生産を志向している日本企業はさほど多くはなかった印象がある。

それがここに来て、製品のジャンルによっては中国で製造されたものの購入を忌避する欧米の企業や政府・自治体などの方針を受けて、台湾企業を通じた製造を目指す会社が出てきているようだ。

実際に台湾の製造受託企業の多くは、中国に生産拠点を持っているが、ベトナムやインドを中心とした東南アジアに生産拠点を増やし、中国での製造を望まない顧客に対してはこうした国での生産を提供する体制を整えつつあるという。

 アメリカとも中国とも関係の深い日本にとって、この問題は大変に悩ましいが、広く世界でビジネスをする観点では、当面、中国のマーケットと西側のマーケットを分けて考える必要があるだろう。新興国を中心に中国に対して中立的なスタンスを取る国も少なくないので、こうした市場については中国で生産するということが引き続き有効なのかもしれないが、そうではない国々に向けては別な対応をしなければならない。

 もちろん下記のFTの記事にある通り、万が一、中国と台湾 ないし中国と米国が軍事的に対立し戦争になるようなことになれば、日本も当事国と言っていい状態に置かれるであろうから、その際の経済的なインパクトは、この記事の最後にある通り個別の産業の経済状況云々と言ったレベルではないものになってしまうことはほぼ確実だろう。

日本企業でも中小企業やスタートアップなど、企業体力が十分ではない企業の場合には、今後こうした世界情勢の動向を見極め、それに対応した行動を取れるかどうかが企業の存続に関わる大きな問題となる可能性がある。

スタートアップへの投資でも、米中を分離もの動きがアメリカ側で出てきている。日本のスタートアップであれば、将来の事業展開地も考慮に入れた上で、どこから資金調達するのかを考えていく必要が出て来ているということだろう。

 そして、大企業も含めて、これまでは中国の安価な生産力に頼ることで、日本が得意とするコスト削減を実現してきた部分があると思うが、こうしたものづくりの手法は、中国生産のオルタナティブとなるベトナムやインドでは通用しなくなる可能性も考えておかなければならない。少し前までは、日本のIT人材不足を補ってくれていた大きな戦力であるベトナムの人たちが、日本で働くことに関心を薄れさせている。これは円安だけでなく日本企業が人にコストをかけない、ないしは人件費をコストとしか捉えてこなかったことの代償として生じているものだ。

この、米中デカップリングないしデリスキングを契機に、日本企業は今後、どのようなコスト構造でどこでどのようにものを作っていくか、という根本的な事業構造の再検討を迫られているのだと感じたComputexであった。


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