IT開発現場におけるフリーランスNGの増/SES・フリーランスエージェント界隈の再編シナリオ
6月に下記のような記事を投稿しました。3ヶ月が経過し、IT開発現場の商流においてフリーランスNGや、再委託禁止の案件が増加しています。
「再委託先がフリーランス」という開発体制が制限されることから、SESやフリーランスエージェント業界が大きな転機を迎えています。今回はこの背景について整理していきます。
背景
北朝鮮ショックが発端
現在、一部の現場では業務委託人材が入場する際に、次のような動きが見られるようになっています。
入場時の身分確認(保険証、マイナンバーカード)
出社の強制
業務委託契約者に保険証の提出を求め、所属企業を確認することで、SESの再委託の有無をチェックしているのではないかと言う話があります。
保険証がマイナンバーカードに統合された場合どうなるか、という議論もX(旧Twitter)で見られましたが、既にマイナンバーカードを使用して身分確認を行う現場も出現していることから、再委託禁止というより、北朝鮮のエンジニアが日本の開発現場に入り込んでいないか確認する意味合いが強いと考えられます。
北朝鮮エンジニアが日本の開発現場に関与しているケースとして、以下のようなパターンが確認されています。
認証済みユーザーからの再委託による案件マッチングサービスの利用
日本人ユーザーに身分証を提出させ、それを使って別サイトにユーザー登録・認証
本人確認が緩いサービスに登録し、正社員応募(途中で業務委託を交渉することも)
こうした背景から、個人認証の徹底がなされています。また、本人が働いているかどうか確かめにくいリモートワークではなく、出社を求めることで本人の稼働を目視したいという企業の事情が強まっています。
フルリモートワーク下でサボっているのがバレた
リモートワークから出社に戻った大手SES企業の方々と話をすると、その背景で出てくるのが「サボっている人が多かった」というものです。
資産管理システムなどで勤務状態をモニタリングをしている現場であっても、「大半の時間をただただ漠然とマウスを動かして机の前に居ることをアピールしているだけの人が複数居た」というような話もありました。確保工数ベースでの契約で、客先で多くの時間をマウスをグリグリして過ごされるだけだと出社の上で要観察対象にされるのもやむなしかと思います。
未経験・微経験フリーランスに対する案件の減少
北朝鮮の問題が最も深刻な影響を与えている一方、他にも要因があります。
SES界隈では、「未経験や微経験のフリーランスに割り振れる仕事がない」という声が増えています。正社員であれば育成を見越して簡単なタスクから始めさせることができますが、フリーランスに育成の義務はなく、「業務」を「委託」しているのに、なぜ育成しなければならないのかという議論が起こりがちです。
かつては、正社員が採用できないためにフリーランスを育てて戦力化するという奇特な現場も存在しました。1から10まで指示しないと手を動かしてくれない人材であっても契約を継続している企業もありました。現在では予算の制約や生成AIによる業務効率化などが進み、未経験・微経験の業務委託人材を求める企業は見られなくなっています。
スタートアップバブルで高騰した一部フリーランスの単価
2022年までのスタートアップ投資ブームにより、人月単価がスキルに対して相場の2~3倍に膨れ上がったフリーランスが見受けられます。おそらく外資IT企業を参考にして「言ってみたら通っちゃった」という感じではないかと思われます。
フリーランスなので価格設定は自由ですが、バブルが終わった現在、期待される価値に見合わず、受注できても短期で終了する状況が多発しています。
北朝鮮問題を契機に契約整理が進む
エンジニアバブルの影響でSESやフリーランスエージェントに参入する人が増加しましたが、最近話題になったニュースでは、悪質なSES企業の事例も浮き彫りになりました。以下の記事では「派遣」と表現されていますが、免許のないSES企業について言及しています。
詳細な解説が弁護士のブログに掲載されていますので、ぜひご一読ください。
以下はそのSES企業の問題点です。
「未経験でもSEになれる」「給料30万円以上」という広告で登録させ、自社のプログラミングスクールの受講を求める
スクール代金は48~60万円
教える内容はプログラミングではなく、経歴詐称や営業の仕方
受講後、無給で営業活動をさせられ、入場先でスキル不足により精神的に追い込まれる
社会保険料の控除は行われるが、実際の加入手続きはされていない
スクール代金返還の要求に対して、虚偽の事実をもとに脅迫
ここまで悪行をコンプリートしたSES企業は珍しいですが、社会保険料や経歴詐称をする企業の話は耳にします。北朝鮮ほどではないにせよ、契約先にすることによって厄介事に巻き込まれるリスクがあります。発注元企業はSES企業に確からしさを求める傾向が強まっており、不透明さの強い再委託禁止の動きもまた広がっています。
トラブル時の損害賠償期待の難しさ
フリーランスとの業務委託契約では、あまり請求金額を期待できないことから訴訟コストの方が高くつくことがあり、泣き寝入りするケースが見られます。
フリーランスがトラブル発生時に「飛ぶ」(連絡が取れなくなる)ケースも頻あります。悪質な場合、申告していた住所に内容証明郵便が届かない(虚偽の住所)という話もありました。
こうしたことを踏まえると、フリーランスではなく少しでも確からしさのある法人の方が好まれるでしょう。
業界再編シナリオ
トラブル時を想定すると損害賠償が期待できる上場企業や、取引が長い企業のように信頼がある場合以外は今後厳しい状況に直面するでしょう。
SESの正社員はM&Aにより他社に移籍する可能性もあります。フリーランスエージェントの場合、契約終了後に案件が見つからず、苦労することが予想されます。
フリーランスであれば、別の大手フリーランスエージェントを探し直す場合もあるでしょう。ただし過去にフリーランスエージェントとトラブルがあったために契約がなくなったようなことがあれば、案件が見つからずに苦労することになるでしょう。