情報過多の時代に注目が集まるメールニュースレター〜設立4年で売上5,800万ドルを見込むAXIOS(アクシオス)
10月2日にトランプ大統領が新型コロナウィルスに感染したことで多くのメディア、SNS上で一刻を争うニュースの洪水のような状況が顕著になってます。朝起きてどのような形でニュースに触れるか、という「ニュース消費」のスタイルに関して以前から興味を持っている中で感じるのが、早くて、正確で、読みやすい情報源を自分の中で持つことの大切さです。
ワシントン発の政治ニュースに強いとして定評のあるAXIOS(アクシオス)というニュースサイトをここ最近目にする機会が増えていると感じていた時に、同社の業績に関する詳細なデータが記載されているWSJの記事があったのでご紹介したいと思います。
アクシオスとは2017年1月にスタートした政治、経済、テック、メディアなどに強み持ち、「Smart Brevity(スマートな簡潔さ)」を売りにしたニュースサイトです。政治系ニュースサイトで既に高く評価されていた「Politico(ポリティコ)」の設立メンバー3人が、SNS経由でニュースが溢れ、情報過多な時代にふさわしいニュースメディアの必要性を感じる中で設立された、という経緯を持っています(AXIOSはギリシア語源で「worthy〜価値がある」という意味です)。一つのニュースは概ね300文字くらいで書かれていて深く知りたい際にはクリックすることで詳細も知れます。一つのニュースが伝えられる際には「What's News(ニュース性)」「Why it matters(なぜそれが大事か)」の視点がコンパクトにまとめられている点も特徴です。
WSJの記事によると、設立から現在3年半の段階で2020年度の売上は約5,800万ドル(約61億円)の売上、前年比30%以上の増加を見込んでいるとのことです。その売上の半分以上は同社が力を入れているニュースレターのスポンサーシップ広告から構成されています(広告主にはコムキャスト社、フェイスブック、ウェルズ・ファーゴ社などの大手企業が名を連ね、広告収益は全体の85%で残りはイベント、プロダクト・サービスのライセンス料、HBOとの契約と記事の中で紹介されています)。
アクシオスの(無料)ニュースレター購読者数は現在140万人で、1年前の75万人から倍増し、1日のニュースレター配信数は400万人以上にも登ります。共同創業者の一人であるマイク・アレン氏が毎朝、晩に配信しているAXIOS AM/PMが一番人気ですが、メディア関連のニュースレター「Axios Media Trends」も先日登録者が10万人を越えた、と伝えられています。
ウェブサイトへのユニークビジターは1,980万人(2020年8月:コムスコア社によるデータ)で、こちらも1年前の700万人から倍増していることが分かります。
ここで注目しているのが2021年にスタートを予定している「アクシオス・ローカル」という地方都市での今までのアクシオスの成功モデルの展開です。まずはミネアポリス(ミネソタ州)、デンバー(コロラド州)タンパ(フロリダ州)、デモイン(アイオワ州)の4都市でスタートを予定しているこのニュースレターでは、政治ではなく、地元のビジネス、技術、教育に焦点を当てたものになるといわれていて、地域で起きている重要な情報を必ずしも自分たちで独自記事を書かずとも、地域の信頼に足るニュースを集約し、分かりやすい形でメールを軸に届けるとのことです。基本各地域2人が配属され、同社求人情報サイトで募集が行われているところです(アクシオス社の社員は現在約200名、求人は現在約30件掲載されています)。もしこうした地方ニュースレターの試みが成功すれば、他の地域にも同じモデルで横展開していくのでは、ということが推測されます。スポンサーにフェイスブック社が掲載されている点も、地方のニュース砂漠救済に力をいれたい同社の狙いとも一致しそうです。
国内でも9月24日にメルマガ配信サービスの老舗として知られる「まぐまぐ」社がジャスダック市場に上場したことが報じられ、米国でも有料課金を可能にするSubstack社などが注目を集めています。ジャーナリストやライターが有料課金を以前より簡単にできるようになり、持続可能な創作活動が可能になる点は素晴らしいと思う一方で、一人の個人が有料課金を支払う際に限度があることも容易に想像されます。
アクシオス社が取り組んでいる「Smart Brevity」を売りにした無料のニュースレター革命、そしてその「地方のニュース」を救うための取り組みに大きな期待をしています。