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首都圏からの地方複業は人手不足の解決策となるか?-都市部の若者の貧困を地方複業で救え!-

複業の解禁が進む中、今年から地方での兼業に対して、政府が交通費の支援を始めることを決定した。3年で150万円の補助があるというこの制度は、慢性的な人手不足に悩まされている地方にとって、驚きと共に迎えられた。

しかし、この驚きにはポジティブな反応もあれば、戸惑いや懐疑、困惑といったネガティブな反応もある。筆者の住む大分県で言えば、どちらかというとネガティブな反応の方が多いようにも思われる。(もっとも、ほとんどの反応は「よくわからない」という声なのだが、今回は「よくわからない」は一旦わきに置いておく)一見、良いことのように思える交通費支援の取り組みだが、なぜもろ手を挙げて歓迎されるようなことになっていないのか。

ポジティブな反応とネガティブな反応の2つの側面から考察していきたい。


ポジティブな反応:成果が出てきた自治体の戦略パートナー制度

大都市圏の人材を複業人材として活用し、成果を出している自治体がある。広島県福山市だ。「週1日、副業、兼業限定。市の戦略顧問を募集します」という戦略推進マネージャーの求人に対して、募集定員を大きく上回る人々から応募があった。

応募者は、金銭的な目的で応募してきているのではない。週1日、月4日の勤務が前提で、報酬は1日2万5千円という条件は、年収1000万円を超えるような戦略人材にとって割に合わない。それでも応募してくるのは、本業とのシナジー効果を期待していたり、自己研鑽やキャリア開発であったり、地方活性化に貢献したいと言う社会的責任であったりという、経済的要因とは異なる内発的な動機が主だ。そして、内発的な動機を持つ人材は高いパフォーマンスを発揮する。

2018年から始まった福山市での戦略推進マネージャーは、観光や地方コミュニティの構築、地元の人材の育成などで成果を出している。その効果測定には、法政大学大学院の石山恒貴教授とゼミ生が調査し、検証しているが好ましい結果を得られそうだという声が聞こえる。

そして、福山市での取り組みは他の自治体にも伝播している。長野県長野市でも昨年から戦略マネジャーとして4名を採用し、奈良県生駒市や静岡県浜松市、福井県福井市などが同様の活動に取り組み始めている。地方自治体は、大都市圏の副業人材の活用に意欲的だ。

自治体だけではなく、民間企業でも戦略立案の顧問役や企画マネジャーで副業で賄おうという動きが見られる。転職サイトを運営するビズリーチは、副業・兼業で地域貢献に関わるビジネスプロ人材を公募し、地方企業とのマッチングをするサービスを展開している。

その他にも、大都市圏と地方の人材マッチングに特化したシェアリングビジネスを展開する企業も出てきている。JOINSは、地域企業に特化した副業・複業を紹介するだけではなく、副業をする応募者と採用する企業担当者との間でお互いの人柄や価値観を共有し、関係性を構築することで安心して地方での複業に臨めるように支援している。

このように、地方では採用することが難しい、高度なビジネススキルや希少な経験を積んだ人材をスポットで採用したいというニーズに応えるかたちで、首都圏から地方への複業が歓迎されている。


ネガティブな反応:戦略パートナーのニーズはどれだけ地方にあるのか?

しかし、地方には本当に戦略人材がそこまで不足しているのだろうか?経営者が強い意志を持ち、魅力ある商品やサービスを展開できている企業にとって、首都圏から優秀な人材を採用することは特別難しいことではない。有名な事例で言えば、GAP創業時のミッキー・ドレクスラーの採用が当てはまる。

GAPと言えば、今や知らない人はいない世界を代表するアパレル企業だ。しかし、そのサクセスストーリーは決して順調な道ではなかった。創業者のドナルド・フィッシャーは、自分ならリーバイスのデニムを誰よりも上手く売ることができると妻と二人で1969年に、カリフォルニア州のサクラメントで事業を始めた。サクラメントは、カリフォルニア州都ではあるものの、都市の規模は決して大きいとは言えない、よくある地方都市だ。当初は順調にいった事業だが、すぐに行き詰り、1983年には倒産の危機に陥っていた。その危機を救ったのが、当時、ニューヨークで小売の達人として有名だったミッキー・ドレクスラーだ。ドレクスラーの改革はギャップを根本から変えた。その後のギャップの成功は誰もが知る通りだ。ドレクスラーはフィッシャーに口説かれ、ファッションの都であるニューヨークからカリフォルニアの地方都市サクラメントへと引き抜かれている。

GAPは極端な例だが、似たような事例は数多くある。アイリスオーヤマが合併前の三洋電機のエンジニアを大量採用することで、現在のビジネスモデルを構築することができたことも類似の事例だろう。また、ベンチャー企業レベルでも大都市圏から採用を成功させている地方起業は数多くある。


決定的に足りない若い人材

地方において、多くの企業が困窮している人手不足の問題は、戦略人材のほかにもある。それは、サービス業における若手人材だ。リクルートワークス研究所の古屋星斗氏は、地方部の採用の特徴として、中途採用重視とシニア活用を上げている。

古屋氏の分析によると、地方部で中途採用とシニア活用を重視する理由は、若手人材を採用したくてもできないという人手不足が原因として挙げられている。そのため、シニアの再雇用や中途採用者が熟練のいらない、低賃金の現場仕事に駆り出されることになる。中堅社員や管理職なのに、現場仕事から抜け出せず、どんどん労働環境が悪化するという負のスパイラルに突入している企業も少なくない。そして、このような現状があっても、地元大学や高校の卒業生は労働条件の良い大都市圏の企業に就職していく。

特に、いまや日本の労働人口で最も多くの割合を占めるサービス業における若年層の人手不足は深刻だ。インバウンド観光は、地方都市にも恩恵をもたらしているが、増えるインバウンド観光客に対して受け入れ側の人員が足りていない。そのため、大都市圏に集中している若年層を複業などの仕組みで関係人口として分散させる取り組みが必要だ。

特に、いわゆる貧困女子などの若年層の貧困問題は棚上げにされっぱなしで、一向に解決する兆しがない。単身で暮らす20~64歳女性の3人に1人が貧困状態にあるという現状は長年放置されている。複業による過剰労働時間が問題視されているが、労働時間を気にして生活困難な状況を作り出してしまっていては本末転倒だ。若年労働者、とりわけ貧困にあえぐ人々を助けるために大都市圏と地方での労働力のシェアリングを健全な形でビジネスモデル化しないことには、我が国の若年層の貧困問題は解決されることがない。

例えば、地方の歴史ある温泉街で週末や繁忙期だけ働く複業を募集し、長い年月で培われてきた日本的なおもてなしや外国人観光客を相手にしたホスピタリティを学び、東京の病院や歯科医院などの医療事務員のサービス品質向上などが考えられる。

このような事例はできるわけがないと一笑に付すことは簡単だが、だからといって、貧困のために援助交際や売春、風俗に身を落とす現状に何もしないというのはもっと最悪なことだ。若者が欲しいという地方都市があるのであれば、幸せな形で大都市圏の若者と繋げ、互いの人生が幸せなものになるようにしていくべきだろう。複業は、そのための優れた解決策となるポテンシャルを秘めている。

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