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ビジネス書作家、顧客から必要とされるコンテンツの作り方を解説する

コロナで大人の学び直し市場は盛り上がった。改めて自身の存在理由を問い直す人が増えたからだろう。作家の井上ひさし氏の名言のごとく「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく……」はコンテンツマーケティングの極意だろう。


「コンテンツ」って何だろう?

私だけかもしれませんが、コンテンツと聞くとSEO対策がバッチリ効いた「いかがでしたか?」系記事を真っ先に思い浮かべます

しかし、本来の意味合いはもっと広い。ロングマン現代英英辞典でContentについて調べると、以下のような意味があると分かりました。

①何かに含まれる物質の量、特に食べ物や飲み物に含まれる量
②スピーチ、文章、映画、映像など情報に含まれるアイデア、事実、または意見
③ウェブサイトに含まれる情報(そのウェブサイトを機能させるソフトウェアから切り離して考えること)

ロングマン現代英英辞典

「いかがでしたか?」系記事は③の一部を指しているとして、コンテンツには総じて「含まれている」すなわち「中身」「内容」という意味があるようです。

ちなみに、①は姿・形がありますが、②は姿・形がありません。すなわち、具体から抽象まで「コンテンツ」の対象は幅広いのです。chatGPTの出力結果も、藤原竜也の「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」な神演技も、マツケンサンバⅡの松平健と腰元ダンサーズも、みんなコンテンツと表現出来てしまう。

オウンドメディアやホワイトペーパーを「コンテンツマーケティング」と表現すると、先輩のマーケターに苦虫を嚙み潰したような顔をされるのは「そうなんですけど、それだけじゃないよ」ということなのでしょう。例えば某テーマパークはコンテンツを活かして来場者数を増やしていますが、これもマーケティングの手段の1つと言えます。

そこで、コンテンツマーケティングを「消費者が価値を感じるコンテンツを制作・配信することで購買、再購買に繋げる活動」と解釈してみます。

このように表現すると、いくつかの疑問が浮かびます。

①消費者って具体的にはどんな人たち?(WHO?)
②その人たちにとっての価値って何?(WHAT?)
③価値を感じるコンテンツをどのように届ける?(HOW?)

それぞれが密接に絡んだ難解なパズルに見えますが、言語化して解像度を高めることが重要です。私の場合、言語化してからビジネス書を執筆したおかげで最近執筆した「人は悪魔に熱狂する」は5刷、「データ分析力を育てる教室」は2刷に成功しました。やっほい。

つまり、ベストセラーにはコンテンツマーケティングに応用できるフレームワークがあるのです。

そこで、私はどのようなフレームワークを用いて、消費者が価値を感じるコンテンツを制作し、増刷に至ったのかを解説します。


読者のハードルを表す階段理論

どんな書籍にも、所属する「業界」があります(カテゴリではなく)。その業界ならではのコンテンツが詰まっているのが「書籍」なのです。

例えば「人は悪魔に熱狂する」ならマーケティング業界と行動経済学業界、「データ分析力を育てる教室」ならデータ分析業界です。

そして、書籍は「業界向け」か否かで売れ行きは大きく変わります。私はこれを「ベストセラーの階段理論」と名付けました。

階段理論

業界のコンテンツに興味がある業界外の人向けに、業界内の人が解説する。これは0段目に該当します。業界の知識が無くても読めるので、ハードルも感じないでしょう。

「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」「嫌われる勇気」「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」…桁外れのベストセラーはたいてい0段目です。

業界のコンテンツを学びたい業界初心者向けに、業界内の人が解説する。これは1段目に該当します。業界の知識を求めて読むので、多少のハードルを感じさせます。

「○○入門」「はじめての○○」といった、初心者向けであることが伝わるタイトルはたいてい1段目です。

階段の最高峰は、業界の神髄まで理解した人向けに、業界の発展を目的に書かれた学説を披露しています。これは4段目に該当します。業界の新たな学説を求めて読むので、大半の人が最後まで読めないでしょう。

このクラスになると難易度も高く、ベストセラーは偶然でも無い限り生まれません。記憶の限りで言えば2013年「21世紀の資本」が最後でしょうか。

2022年に「物価とは何か」がベストセラーとなりましたが、著者の渡辺努さんは0段目の感覚で執筆されていることを記されています。

ちなみに、「ベストセラーの階段理論」を意識して執筆したのが「人は悪魔に熱狂する」です。0段目を意識して執筆しました。

例えば、冒頭にサラダマックの話を書いたのですが、マーケティング業界からしたら「またこの話?」だったはずです。しかし「業界内の内輪しか思っていないから、書いた方がいいですよ」と編集者からアドバイスを頂いて、「ほんまに?」と思いつつ書いたところ、イントロダクションとして最高のエピソードとなりました。


階段理論で考える「誰に」「何を」

「業界人口」は常に「非業界人口」を下回ります。つまり、ベストセラーを生みたいなら、階段を上らせてはダメなのです。「業界人口」のみを対象にした時点で、書籍を手に取る人が一気に減るので。

ベストセラーを狙うのであれば、業界の人が何と言おうと、業界が保有するコンテンツに興味を持っている何千万人もの非業界人口をターゲットにするべきです。

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ただし、勘違いされ易いのですが、非業界の人たちの大半は、業界自体に興味があるのではなく、業界が保有するコンテンツから得られる知見や効果に興味があるだけなのです。

例えば、人間関係に悩んでいる人に「アドラー心理学が有効!」と説明しても大半は無視されるだけでしょうが、「勇気をもって人から好かれるのは止めよう!アドラーは…」と説明すると振り向いてくれそうですよね。業界の商品を語るか、商品から得られるベネフィットを語るかの違いでしょうか。

どちらの言い方が有効?

森岡毅さんの処女作のタイトルが「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」なのも、マーケティング業界以外の非業界人を意識していると分かります。今も昔も「なぜ……なのか?」というタイトルは多い。

つまり、非業界の人たちにとって興味がある内容を、業界のコンテンツで読み解く書籍はベストセラーになる確率が相対的に高いと言えます。

冒頭の「WHO」「WHAT」に言い換えると、業界のコンテンツで解説ができる悩みや課題を抱えている人が「WHO」で、そのコンテンツが「WHAT」と言えます。ベストセラーは「WHO」「WHAT」が明確です。

例えば、「データ分析力を育てる教室」は情報の授業を受けているけど、教科書の内容をつまらないと感じている中学生・高校生が「WHO」でした。したがって業界は「データ分析業界」であり「教科書業界」でもありました。


語れるコンテンツを誰もが持っている

これまでの話で、消費者が価値を感じるコンテンツを制作するために「ベストセラーの階段理論」を使って「WHO」「WHAT」を言語化するロジックはなんとなくでも理解できたかと思います。

主語が大きかった「業界」を「自社」に置き換えて考えてみます。「自社」の抱えるコンテンツで、どんな「WHO」に対して解説できるでしょう?

「自社にそんなコンテンツなんて無い」と評価される方も多いのですが、それは玉ねぎを見て「カレー粉が無いから無用」と言っているようなもの。エビチリにも、肉じゃがにも、スープにも使える食材です。

例えば、YouTubeで「モーニングルーティン」と検索して下さい。朝の活動を見るだけの動画が、数年前からバズっています。「これは私の悩みや課題を解決してくれる!」と決めるのはコンテンツを見る人です。提供する側ではありません。

つまり、コンテンツから始めるのではなく、悩みや課題から始めた方が良いのです。「こんなコンテンツに興味ある人いるのかな?」と聞かれても「そりゃあ、1人はいるでしょう」となってしまうので。

どちらかと言えば「私たちの顧客の50%が見たいと興味をそそられるコンテンツは何か?」という疑問を持つべきだと思います。この質問は、「WHO」と「WHAT」が明瞭で無ければ回答できないので。

ベン図で表現してみましょう。

「これは私の悩みや課題を解決してくれる!」と興味を持つコンテンツと、自社で提供できるコンテンツがマッチすることが望ましいのですが、加えて競合が提供できないコンテンツだと最高です。

例えば、あるBtoB商材を購買するにあたり「実物を触らないと意思決定を下せないよ」と考えている人が多いなら、自社商品の「試乗体験会」「テスト体験会」は良いコンテンツになるはずです。

あるいは「商品性質上、長い付き合いが求められるから、私たちは商品を買いたいのではなく、会社との付き合いを買いたいんだ」と考えている人が多いなら、信頼性を担保する意味で社内の日常風景や社長ブログ、エンジニアブログなんか良いコンテンツになるかもしれません。

いずれにせよ、コンテンツを見る人に「これは私の悩みや課題を解決してくれる!」と感じて貰うために、いわゆる「消費者理解」は欠かせません。どんな悩みや課題があるのかが分からなければ、コンテンツも作れません。

言い換えると、悩みや課題が分かったならば、オウンドメディアやホワイトペーパーに限らず、さまざまな自社のコンテンツを活かすと良いと考えています。工場見学も、試乗会も、リアルもオフラインも、中身が詰まっている限りは「コンテンツ」です。

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松本健太郎
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