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プラットフォーム2.0試論 〜変わる企業とユーザーの関係

お疲れさまです。uni'que若宮です。

Airbnbがついに上場しましたね。コロナ禍のなかで企業価値が10兆円を超え、既存の大ホテルチェーンをごぼう抜きしました。

小さくなる企業と価値の源泉の変化

Airbnbは旅行業界のスタートアップですからコロナ禍で大きな打撃を受けましたが、その中でもしっかりと経営的転換をやりきったことが大きな評価となったと思います。

5月には大規模な人員削減をしましたが、透明性が高く誠実な解雇時の対応も話題になりました。

厳しい困難の局面で、企業が存続するために人員を削減することも必要です。とても苦しい決断ですが、固定費を維持したままで企業自体が継続できなくなってしまえば、更に多くの人が不幸になってしまいます。

Airbnbは解雇にあたっても、非常に手厚い解雇手当と再就職支援のプログラム、そして更には資本参加の権利までを用意し、「従業員はチームメイトである」ということを実行を持って示しました。とても素晴らしい経営判断だと思います。

人員削減は全社員の実に25%、社員7,500名のうち約1,900名だったと言われます。すると単純計算では足元でのAirbnbの社員はだいたい6,000人弱だということになります。

注目すべきは時価総額の大きさ以上に、それをこの少ない従業員数で実現していることです。Airbnbは今回の上場において(勿論今後これからまた人員は増えるでしょうが)10兆円/6,000人でなんと一人あたり17億円/人もの企業価値を創出していることになります。

以前、こちらの記事でも書いたのですが、

こうした傾向はこの10年で顕著になっており、時価総額トップの企業の企業価値は10年前の約4倍近く増大しているにも関わらず、従業員数はおよそ4分の1、つまり一人あたり企業価値が10年で16倍にもなっていることがわかります。

Airbnbの一人あたり企業価値17億円というのは、facebookに次ぐ数字です。

そしてこのことは、上の記事でも書いたようにこれは企業価値の源泉が変化していることを示しています。

ITの活用などで一人あたりの生産性が高まった面はもちろんありますが、それだけではこの急激な伸びは説明がつきません。一人あたり企業価値の伸びは、ある種「見かけ」の伸びなのです。というのも、Airbnbやfacebookの企業価値は従業員だけによって生み出されているものではないからです。

企業価値を担う「ユーザー」

上記の表において、アップルやアマゾン、マイクロソフトと比べ、とりわけ一人あたり企業価値が高いのが、C2C型のプラットフォームを展開する企業である、ということに注目しましょう。

こうしたプラットフォーム企業の企業価値は、実は従業員だけではなく、ユーザーが生み出しているのです。

Instagramがとても価値があるのは、そこにパワフルなインスタグラマーがいるからです。彼らの存在が他のユーザーや企業をひきつけ、高い広告料収入を生んでいます。

「ユーザーの重要性」が高まるにつれ、プラットフォーム企業は、企業の「内側」、つまり従業員のマネジメントだけではなく、「外側」つまりユーザーのサポートやマネジメントもしっかり行っていかなければならないでしょう。

Airbnbのコロナ禍での対応はここでも優れています。Airbnbではコロナ禍が始まると、いちはやくホスト支援のために大きな予算を当てることを発表しました。自社が「社員切り」をしなければならないほどの窮地にもかかわらず、ユーザーであるホストの生活をまずは支援したのです。

こうした対応はUberとは対照的なようにも思えます。Uberはドライバーや配達員を「従業員ではない」としており、責任を切り離そうとするスタンスが批判され、多くの訴訟を抱えています。

「仕事を生む」プラットフォーマー

高い企業価値や利益性だけではなく、改めて考えたいのはこうしたプラットフォーマーが「仕事を生み出す」という社会的機能を果たしているということです。

Instagramは「インスタグラマー」を、Youtubeは「ユーチューバー」という、新しい仕事を生み出しました。Airbnbもいままでは一般人だったひとが「ホスト」という形でお金を稼ぐことを可能にしました。

こうしたプラットフォームの成長は、働き方の変化ともリンクしています。これまでは「企業に従業員として雇われて仕事と稼ぎを得る」という形だったのが、プラットフォームを利用することで「企業に所属せず仕事と稼ぎが得られる」ようになってきたのです。複業の解禁とともに、こうした「脱従業員化」はますます進むでしょう。

従業員だけではなく、ユーザーがプラットフォームのなかで仕事と稼ぎを得ながら成長し、それが企業価値を生み出していく。

従業員はますます企業に縛られないようになり、ユーザーは仕事をしてお金稼ぐことができるようになる。この両面からの変化によって「従業員/ユーザー」という区別自体が徐々に溶けてきているのです。

これからのプラットフォーマーに求められる視点

プラットフォーマーはこれから、ますますユーザーを「従業員」のように自分たちの身内として考えることが求められるでしょう。

ユーザーがプラットフォーム上で仕事をしてそれが企業価値を生んでいる以上、Uber社のように「従業員ではない」ということを免罪符にして責任を切り離すことは無理になってくるからです。いかに「ユーザー」がしたこととは言え、なにかトラブルが起こった時に企業が責任逃れをしようとすれば、大きく企業価値を落とすでしょう。そのような「切り離し」により自社の中だけに利益を溜め、ユーザーに還元しない企業に対しては、「搾取」という批判も起こってくるはずです。

それ故プロットフォーマー企業は、Airbnbのように得た利益をユーザーに還元することが求められます。ユーザーに対してもあたかも自社の従業員のように「継続的な成長や利益」をもたらす姿勢を持つ企業がこれから評価されていくでしょう。企業がする役割は、ユーザーの「管理」ではなく、より積極的な育成や成長の手助けになってくるはずです。

するともう一つ重要になってくる視点として、「卒業をどうデザインするか?」という問題が出てきます。

プラットフォームはユーザーの「成長」を手助けし、「育てる」役割を果たします。しかし、そうして力をつけていったユーザーにとっては皮肉なことに、どこかでプラットフォームが不要になる時がやってくるのです。

たとえばランサーズのような仕事のプラットフォームが一番わかり易いですが、フリーランスとして仕事をもらいながら力をつけていき、実績を重ねていくことで、やがて「個人の名前で直接仕事が来る」状態になってきます。直接指名が来て、直接に契約する件数が増えていくと、(そちらのほうが仕事の金額も大きいことが多いので)徐々にプラットフォーム外でのしごとの割合が増えてくるのです。これはお仕事プラットフォームに限らず、原理的にはAirbnbやその他のプラットフォームでもありえます。たとえば今年は、フォートナイトがAppStoreというプラットフォームから締め出されるという事件もありました。

こうした「卒業」はユーザーが成長したからこそ可能になることなので、ある意味ではプラットフォームの「成功」でもあるのですが、結果ユーザーとしては離脱してしまうというジレンマがあります。こうしたジレンマに対し、企業はどう対応していくべきでしょうか。

いわゆるプラットフォーマー企業だけではなく、一般の企業でも同じです。従業員に仕事を任せ成長していくと、いつか独立したり転職したりする時がきます。これまで、企業は極力この「卒業」を極力止めようとしていました。場合によってはペナルティによっても。タレントを育てて、育ったあと独立するなら干すぞ、という事務所もいまだにあります。(アップルもまさに干そうとしたわけです)

しかしこれからは「卒業」を前提にして、卒業後にどういう関係性をもつか、というデザインが求められてくると考えます。なぜなら「囲い込み」では人はもう止められない時代になるからです。

「囲い込む」のではなく、プラットフォームが育てたユーザーと「卒業後」にどのような関係を結んでいくか?そこがデザインできていればこそ、プラットフォーマーはより積極的に、まっすぐにユーザーの成長を応援することができるのです。

そして仮にユーザーが「卒業」することでその企業単体の利益や売上はさがるとしても、彼らがプラットフォームの外でも活躍する方が、社会に生み出す価値は増えるわけですから、プラットフォームとしての価値もより大きいといえます。いまはLTV(顧客の生涯価値)というとユーザーが企業に払うお金のことですが、そうではなくその外での価値もLTVとして考えるべき時が来ているのかもしれません。

「winner takes all」と言われるように利益と(ユーザー含めた)人材を自社で独占するプラットフォーマーは、いかに業績がよくともこれからの時代には徐々に批判されていくでしょう。

こうした独占的なプラットフォーマーを「プラットフォーム1.0」と呼ぶすると、なによりもユーザーの成長や自己実現にコミットし、利益をユーザーの成長のために使い、成長したユーザーがプラットフォームの外で活躍することを喜ぶような「プラットフォーム2.0」的なあり方が求められてくるのではないでしょうか。

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