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インフレの裏側で保有資産を増やす米国世帯の特性

 米国の物価上昇は、食費、水道光熱費、家賃などが前年同月比で3~10%以上も上がり続けており、月末の支払いに苦しむ家庭は増えているが、その一方では、資産額を増やしている世帯も多い。この違いは、「投資をしているか、していないか」によって分かれている。インフレ時代に強い資産の運用先としては、不動産と株式というのが昔からの定説だが、現代でもその特性は変わっていない。

米連邦準備理事会(FED)が2023年10月に実施した消費者金融調査によると、個人の資産(貯金、株式、不動産など)から負債を差し引いた純資産額は、2019年から2022年にかけて、中央値で14.1万ドルから19.3万ドルに増加して、37%もの上昇率となっている。

純資産の上昇はすべての世代にみられる傾向だが、これは、保有しているマイホームと株式の価値が上昇したことによるものだ。一方で、給与収入は3年間で3%しか伸びていない。そのため、同じ世代でも、不動産と株式を持つ者と、持たない者との資産格差は大きくなっている。

Changes in U.S. Family Financesfrom 2019 to 2022(FRB)

同調査によると、米国世帯の66%はマイホームを所有している。これは日本の持ち家率(61%)と同水準だが、物件の正味価値からローン負債を差し引いた「平均純住宅価値」は、2019年に26.3万ドルだったが、2022年には33.5万ドルとなり27%の上昇となった。これは、FED調査の中でも過去最高の上昇率である。

マイホームを所有すべきか否かについては両極の考え方があるが、上記のデータからは「住宅がインフレに強い資産」であることが裏付けられている。そのため、米国ではセカンドハウスやタイムシェア物件を所有する世帯も13%と高く、プライベートで使用しながら、遊休期間はAirbnbなどで収益化する資産運用が人気化している。

米国世帯が行う投資の優先順位を、各資産の保有率からみると、マイホーム→退職金→株式、投資信託→セカンドハウスとなっており、資金面で余裕がある世帯ほど投資先は多様化させている。これらの資産を持つか、持たないかにより、将来の資産額は大きく変わってくる。

マイホームの他には、退職金口座のある仕事に就くか否かも、資産形成の重要な要因となっている。自営業者向けにも、米国には「個人退職勘定(IRA)」という退職金制度があり、税控除の優遇を受けながら現役時代に退職金を積み立てることができる。

日本でも、中小経営者や個人事業者向けの退職金制度として「小規模企業共済」があるが、預かり資産の50%は国債で運用されているため、過去10年間の運用利回りは年率2.2%と安全志向だ。それに対して、米国のIRAは株式市場が好調であれば、個人で投資をするのと同水準の利回りを期待できる。

【生命保険は本当に必要か?】

反対に、近年は投資対象として不人気となっているものに「生命保険」がある。日本世帯の生命保険加入率は90%を超しているのに対して、米国では職場の福利厚生による加入を含めても、50%と低い。さらに、貯蓄性のある終身保険では、2019年に19%が、2022年には16%というように加入率が減少している。

その要因として挙げられているのは、「生命保険は最もコストが割高な金融商品」と捉えられて、同じ資金を他の投資に回したほうが利回りは高くなること。生命保険に加入するとしても、貯蓄型の終身保険ではなく、安価な掛け捨て型で十分と考えている。ライフスタイルの変化により、死亡時に扶養家族が居なくなる人も増えており、彼らにとっては、生命保険が無価値なものになってしまう。

住宅ローンを抱えている場合は、保険による死亡時のリスヘッジは有効だが、支払われる保険金はローン会社のものとなり、家族には渡らない。そのため、コストが割高な生命保険には加入せず、もしも自分が亡くなった時には、家を売却してローン返済に充てるほうがトータルリターンは高くなるケースもある。こうした「生命保険不要」の考え方は、資産額に余裕のある富裕層を中心に広がっている。

Life Insurance Barometer Study

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