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猛暑の夏に考えるクライメートテック:2021年上半期の投資額は600億ドル(約9兆円)以上、ユニコーンは世界78社に
コンサルティング大手のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が6月下旬に『2021年版気候テックの現状〜脱炭素ブレイクスルーの拡大に向けて』と題したレポートを公開しました。
連日の猛暑により日本国内、そして世界中で電力逼迫や地球温暖化が身近な話題として取り上げられる中、解決策の一つとして世界的にも注目されているクライメートテック(気候テック:climate tech)に関するレポートはとてもタイムリーかつ重要なものと感じます。
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気候テック投資の規模と成長スピード
驚かされるのはその規模と成長スピードです。以下のグラフから伺える通り、2021年上半期には6ヶ月間で600億ドル(約9兆円)の資金調達が行われ、急速にその注目が集まっていることが伺えます。ベンチャーキャピタルが投資する金額のうち、気候変動関連技術は14%を占めるに至っているとのことです。
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気候テックとは
そもそもまだ国内では呼び方も定義もそこまで馴染みのない気候テック(クライメートテック)ですが、PwCのレポートでは『気候テック』という名称を用い、以下のようにその定義が紹介されてます。
気候テックとは
気候テックは、温室効果ガスの排出量削減や地球温暖化対策を明確な目的とするテクノロジーと定義されています。気候テックの応用例は、セクターに関係なく全体を大きく分けると、次の3グループに分類されます。
①温室効果ガスの排出を直接的に削減あるいは解消するもの
②気候変動の影響への適応を推進するもの
③気候への理解を深めるためのもの
気候テックという言葉は、温室効果ガス削減策に適用されるさまざまなテクノロジーやイノベーション、またそれらを活用する各種産業を幅広く網羅するため、あえて幅広く定義しています。本報告書で示した分析には、100万米ドル以上の資金を調達したスタートアップに対するベンチャーキャピタル投資とプライベートエクイティ投資のデータを使用しました。調達ラウンドの種類については、グラント、エンジェル、シード、シリーズA~H、IPO(SPACを含む)を対象としています。時価総額のデータはDealroom.coおよび報道から取得したものです。
気候テック分野のユニコーンは78社
「気候テック」の今後の成長に関しては例えばビル・ゲイツ氏は「(気候テック分野で)Tesla級の企業で名が知られているのは今のところTeslaだけだが、これから8社、10社と登場してくるだろう」と述べています。また、世界最大の資産運用会社ブラックロックCEOであるラリー・フィンク氏は「これから誕生するユニコーン1,000社は、(中略)グリーン水素、グリーン農業、グリーンスチール、グリーンセメントなどを開発する企業だろう」と述べています。
今回のレポートでは気候テック分野のユニコーンは78社存在すると分析されていて、そのうち43社がモビリティ・輸送分野企業、次いで食品・農業・土地利用(13社)、工業・製造業・資源管理(10社)、エネルギー(9社)であると報告されてます。
*通常ユニコーンとは時価総額が10億ドル以上で上場してないスタートアップを指しますが、市場で統一された定義はなく、本レポートでは2021年上半期時点のデータに基づいて分析されてます。
*教育・医療・気候変動などのインパクトエコノミーに関するインテリジェンスサービスを提供するHolonIQが2022年1月に公開した気候テックのユニコーン企業リストによると、47社と算出されてます。
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気候テックの投資ハブ、上位は米欧
また今回のレポートの中では2020年下半期~2021年上半期の期間中に多額の投資を集めたトップの都市が10挙げられていますが、米国と欧州からそれぞれ5都市が挙げられています。
サンフランシスコ・ベイエリア(米国)
ロンドン(英国)
ベルリン(ドイツ)
ニューヨーク(米国)
ボストン(米国)
残念ながら東京、日本はランク外ですが、今後国内でもこうした機運が高まっていくことを期待しています。
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温室効果ガス排出量削減ポテンシャルが大きい分野に十分な投資がされてない現状
今回のレポートで特に注目した点は、各課題・分野別に見た削減可能とされている温室効果ガス排出量と、投資総額の比較についてのインパクト分析です。2050年までに世界で削減されるCO2排出量のほぼ半分は、現在まだ実証段階あるいは試作段階の技術がもたらすものと考えられていると分析がなされている一方で、現在の投資トレンドが重要な分野に十分に振り分けられてない点が指摘されてます。顕著な傾向としてはモビリティ・輸送分野が投資額全体の61%を受け取っているにも関わらず排出量は全体のわずか16%でしかないことが挙げられてます。また、建築環境分野では投資額は4%しか受けてないにも関わらず排出量は21%となっていて、投資額のギャップが最も大きい領域となっています。
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全部で66ページの今回のレポートにはその他主要8項目の課題分野ごとの詳細な分析が記されてます(①モビリティ・輸送、②エネルギー、③食品・農業・土地利用、④興行・製造業・資源管理、⑤建築環境、⑥金融サービス、⑦温室効果ガスの回収・除去・貯蓄、⑧気候変動管理と報告)。今後の気候テック分野の動向を伺う上で注目企業も紹介されていて、とても参考になる内容でした。
国内でも投資規模は欧米よりは少ないものの大企業や官民によるファンドを通じた出資等、今後に向けた兆しが感じられます。
三菱商事、ゲイツ氏の脱炭素ファンドに1億ドル出資(2022/4/22 日本経済新聞)
ヤマハ発動機が脱炭素ファンド スタートアップに投資(2022/4/22 日本経済新聞)
脱炭素ファンド200億円創設 改正温対法が成立 (2022/5/25 日本経済新聞)
英語圏での気候テックのトレンドに関してはClimate Tech VCという約2.5万人以上の購読者に対して無料で週2回配信されているニュースレターが人気です。こうしたメディアを通じて今後も是非継続的に動向を注視していきたいと思います。
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