AIと倫理:"Ethics of AI"vs"Ethics by AI"

 最近は、AIと倫理の議論、特にどんな規制が必要かの議論が世界中で盛んだ。私は、実はバランスを欠いていると思う議論が多い。なぜそう思うか。
 そもその、AIに関する倫理には、二つの議論がある。第一は「AIの開発や使用が倫理的に正しく行われているか」という議論である。多くの議論は、この前提で、いかにAIの開発や活用を規制するかがテーマになっている。第二は「世界が直面する重要な倫理的な問題は何か、そして、その解決をAIは助けるか」である。前者は、"Ethics of AI"であり、後者は"Ethics by AI"である。より人類へのインパクトが大きいのは、明らかに後者だと思う。しかるに、後者の議論は見たことがない。前者に使う時間があったら、資源を後者にもっとつかうべきだと思う。
 それでは「世界が直面する重要な倫理的な問題で、しかも、AIがその解決にインパクトがある問題」はどんなことがあるだろうか。
 最も重大な倫理的な課題は、「ルールというシステムの機能不全」である。ルールは杓子定規で硬直的なものである。従って、柔軟な対応を求められることを扱うのはもともと不得意である。例えば、あなたのお子さんが一刻を争って病院に連れて行かないと命に関わる状況を考えよう。車で病院に急ぐ途中で信号が赤信号ならば、車も歩行者も一人もいなくても、あなたは止まらなければならない。これは人の命よりも交通ルールを大事にしている、ということである。ルールには明らかな限界がある。
 しかし、今は統治や管理の手段としてあらゆることにルールが用いられ、常にルールが増え続ける状況である。そして、ルールは責任を取らない。ルールは無実の人を投獄することさえ行う。その意味でルールは無責任である。今あらゆる課題が複雑になり単純なルールはあわない状況になっている。より柔軟な対応が必要になり、杓子定規なルールは扱いきれない問題が多い。
 一言で言うと、ルールというシステムは、既に制度疲労を起こして、機能不全に陥っていると思う。今、ルールこそが、極めて重大な倫理的問題を起こし始めているのが実情である。"Ethics of AI"の議論より重大なのが"Ethics of the Rule"である。
 この倫理的な問題に、AIとデータはインパクトがある解決策を提供する。より柔軟な判断をエビデンスベースに提供できるからである。
 AIと倫理の議論は、視点を一段高める時が来たと思う。

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