水素・アンモニアの活用は拡がるのかー第3回水素政策小委員会での議論ー
4月27日、水曜の午前中には水素・アンモニアの委員会。こちらの正式名称は何と「総合資源エネルギー調査会 第3回 省エネルギー・新エネルギー分科会 水素政策小委員会/資源・燃料分科会 アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会 合同会議」。もはや寿限無寿限無など目ではない長さです。
これまで水素関連技術の普及促進・活用については「水素・燃料電池戦略協議会」で検討されてきたのですが、審議会に格上げされました。私は協議会のときから委員を拝命していた経緯もあって、今回もこの委員会に参加させていただいています。
今回経産省から提示された資料はこちら
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/003.html
脱炭素化に向けてのセオリーと水素関連の役割
大幅な脱炭素化に向けてのセオリーは「需要の電化」(例:ガソリン車・ディーゼル車→電動車)と「電源の脱炭素化」(例:火力発電→再エネ・原子力等)を同時、かつ徹底的に進めることですが、電気があまり得意ではない分野もあるので、カーボンニュートラル社会に転換する上で、水素・アンモニアにも早めに取り組む必要があるとされています。
日本における水素ブームはもはや第3次、第4次の波、とも言われており、政府も長年支援してきています。
技術の開発から実証、実装までは数十年単位の時間がかかるんです。
特にインフラを担う技術は、最先端のものではありません。使い込まれ、コストも安定性も徹底的に高まった技術だけが、社会基盤としてのインフラになり得ると私は考えています。
そういう意味で、私は関西万博のエネルギー分野の委員なども拝命していましたが、「カーボンニュートラル実現に向けた最先端技術を実装する会場にしたい」と言われると、ちょっと違和感を覚えていたところ。
今回の議論のテーマは大きく2つで、「まだ高い水素・アンモニアの利用に関する支援制度はどうあるべきか」と「インフラをどう構築していくか」です。もちろんこの2つのテーマの間には強い関係性があります。
新技術の導入政策と「費用対効果」
実は前回、多くの委員から出たのが「費用対効果を考慮した政策を」という意見でした。CO2の1トン当たりの削減コストを安くすればするほど、同じコストで多くのCO2を削減できます。国民の税金を使う政策遂行には、費用対効果を考慮すべきというのは当たり前に過ぎる話ですが、個別技術に対して政府が補助を講じていく状況では、費用対効果が悪い状況に陥りがちで、この点を強調してもし過ぎることはない、という意識が委員の皆さんの頭にあったのではないかと思います。私自身も費用対効果の観点が重要である点は前回の委員会で言及しました。そうした意見を受けて、経産省の資料にも費用対効果に留意するということをが書きこまれていました。
ただ、こうした新しい技術のチャレンジについては、費用がどれくらいに膨らむかはわかりません。産業史の専門家として委員会に出席しておられる先生からは、東海道新幹線の導入にあたっては、費用はどれくらい膨らむか不確実性も相当高かったが、「これは日本にとって絶対に必要だ」ということで、当時の国鉄の経営トップが安い見積もりを示して計画を通したこと、その責任を取って事後辞任することになったそうですが、「そうした胆力が必要」というコメントもありました。多分原子力も同じようなところがあったのでしょうが、それは胆力とは言われないんだよな・・と余計なことを考えたりしましたが、それはさておき、こうした新技術の導入時期には費用の見通しは不確実なものですし、効果も同様に不確実です。乱暴に聞こえるかもしれませんが、ある程度割り切りで政策判断をするしかありません。
私からは、長期的には市場で効率の良い低炭素・脱炭素技術が選択されるようにカーボンプライシングの制度を導入するといった取り組みを見据えつつ、先んじて始める制度については、適宜見直しをできることができる制度を導入することが必要であることをコメントしました。再エネ導入支援政策であるFIT[のように、制度導入当初3年以内に認定された事業が賦課金の6割を持っていく、それが既得権としてどうにもならないというようなことにはしないことをお願いしたというところです。
費用対効果という言葉に込めた意義を共有する必要があると思いました。
水素利用の「意義」は? ーCO2削減だけなのか
もう一つ私が気になったのは、水素・アンモニアの利用拡大をする意義です。
我々は何のために高い費用を投じて、まだコストの高い水素・アンモニアの技術利用を進めるのか。一つにはもちろんCO2削減のためです。ただ、それだけではないでしょう。化石燃料は中東あるいはロシアなどへの依存が高い状況にあります。これを改善するため、すなわちエネルギー安全保障にも資する意義があったはずです。こうした水素利用の目的の定義が重要だと考えるのは、「どんな水素に支援するか」に関わってくるからです。
どうかかわってくるのか少し解説したいと思います。
水素は、電気と同じく「2次エネルギー」です。何かから作るエネルギーであり、作り方によっては、CO2を出してしまいます。
再生可能エネルギーの電気で水を電気分解して作る水素は究極のグリーンですが、基本的には再生可能エネルギーの電気は電気のまま使った方が良いので(水素に形を変えるために、効率が落ちてしまいます)、「グリーン水素」が大量に得られるまでにはまだ相当の時間がかかります。
化石燃料から作る水素について、支援の対象にするのかどうかというところが委員会での議論のテーマの一つでした。
気候変動に熱心な方からは怒られるでしょうが、結論から言えば私は、CO2の排出量に一定の制約は設ける必要があるものの、水素への支援は広く考えるべきではないかという意見を申しあげました。
一つの理由は、水素を利用するためのインフラ構築がこれから必要となる中で、そこで流通・利用する水素を理想的なもの(グリーン水素)だけに限ってしまえば、インフラ構築のコストを補助金頼みにしてしまうことです。もう一つの理由は、水素・アンモニア利用の意義はCO2だけではなく日本のエネルギー安全保障上の意義もあるからだと考えるからです。
エネルギー安全保障というのは市場で評価することが難しい価値であり、そうした価値を提供する技術は国が積極的な評価を与えなければなりません。原子力発電も、突き詰めればエネルギー安全保障の価値だと私は思っていますが、コストが安いという説明しやすいことばかりが繰り返されてきました。いまエネルギー安全保障の価値が注目されていることもあり、水素・アンモニアに期待する役割の再定義が必要だと思いました。
新しい技術利用を拡大する意義はもう一つ。雇用です。わが国での産業化により、2050年に「食べていける日本」を遺さねばなりません。どの程度の産業化、雇用創出が期待できるのかの試算を国民に示すことも、水素利用に関する補助に理解を得るために必要でしょう。
ただ念のため申し上げれば、エネルギー転換に伴う雇用の問題は、しばしば数で語られる(化石燃料関連の雇用は〇万人減るが、再エネ関連で△万人増えるので、□万人増加or減少)のですが、数合わせではなく、仕事の質や内容も大きく異なることに留意して、教育や人材育成に対する支援なども検討する必要がありますし、持続的な雇用なのかも注意する必要があります。(例えば太陽光パネルの製造業が育てば持続的な雇用になりますが、太陽光発電の設置・施工だけだと一時的な雇用に留まりがちです。メンテナンスに必要な人員が少ないところは太陽光のメリットですが、それは裏返せば持続的な雇用規模は大きくないということです )
我々はなぜ水素関連技術の利用に政策支援を行うのか。その意義をエネルギー基本計画や水素基本戦略を見直すことも含めて対応をお願いしました。
折角委員会での議論を紹介していただいている記事ですが、相変わらず「日本が遅れる」で締めくくられているのは残念。
貯蔵インフラ整備支援へ 水素・アンモニアで経産省検討: 日本経済新聞 (nikkei.com)