自動化の勝者は、顧客と雇用主
シンガポールで、コーヒーバリスタのロボットベンチャー創業者に出会った。2016年創業の若い会社で、同じ顧客の好みを覚え、データ解析を使って再現できる。自家製バリスタロボットは、一日2000杯を淹れられるそうだ。
国際会議などで、本物のバリスタを見かけて喜ぶものの、すぐに長蛇の列ができ、結局休憩に間に合わず、諦めることがある。しかも、主催者側はこの日のためだけにバリスタ人材を調達し、場合によってはにわか仕込みする必要もあり、大変だ。
バリスタロボットならば、狭い場所も厭わずフル回転してくれる。大きな国際イベントの多いシンガポールでは重宝されそうだ。
創業者はRetail Techと呼ぶこの種のアイディアは二つの大きな問題を同時に解決している。一つは、シンガポールも日本も同じ、人手不足である。単純作業にひとが集まらず、特にミレニアル世代は、「つまらない仕事」をさっさと見切る。
雇用側にとって、人件費は時給だけではない。採用、訓練、福利厚生など全部含めると、ひとを雇うことには大変なコストがかかる。ロボットならば、これがかからない。
次に、顧客体験だ。もちろん、落ち着いたカフェでバリスタと冗談を交わしながらコーヒーを注文したいときもあるだろう。その一方で、通勤中、高品質のコーヒーを早く、手頃な価格で欲しいだけという場合も多い。
日本のコンビニコーヒーもこの価値を掘り出して成功した例だが、ロボットとIoTを組み合わせると、よりパーソナライゼーションが可能になる。大手コーヒーチェーンで6ドルするコーヒーが、同じ品質で3ドルというのが、このベンチャーの売り文句だ。
バリスタロボット誕生の経緯を振り返ると、「顧客」の期待値と「労働者」の期待値が両方釣りあがった結果、「自動化」という答えに行き着いたと言える。
オーストラリア人同僚によると、30年前には職場でお茶の手押し車を押して回る専門の”tea lady”がいたそうだ。日本では兼業Office Ladiesがその役割を担っていたのだろう。近い将来、ロボットが個人を顔認証しながら、好みのコーヒーを淹れて回るのかもしれない。
自動化は製造業が先駆けてきた。これからは、Retail Techなど消費者にじかに触れるところで、自動化がより進むと予想される。
目の肥えた顧客と、単純労働をいやがる労働者が重なる分野が、自動化の舞台となる。この方程式を応用すれば、飲食などのホスピタリティのみならず、介護や教育でも自動化ポテンシャルは大きい。
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