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優れた経営者の共通点とは何か。長期視点の有無が会社の未来を左右する?

皆さん、こんにちは。今回は「経営者」について書かせていただきます。

少し前に、「名経営者はいつから名経営者なのか」という非常に興味深い記事がありました。

名経営者は昔から名経営者だったわけではない。多くの名経営者は当初、非常識の権化のように評価されていたのである。周囲の非難に遭っても自らの信念を曲げず、長期視点の経営を構築してきた人たちなのである。

優れた経営者と言われる人たちに共通する要素は何なのか。

既に経営者になっている人だけでなく、経営者をこれから目指す人、または企業の経営に将来的に深く関わることを目標に掲げる人は、どのような視点や考え方を大事にしていけばいいのか。

さらに、新型コロナウイルスによる地球規模の混乱やロシアのウクライナ侵攻など、世界経済が不透明感に包まれている中、先が見えない今の時代だからこそ、どのような経営戦略が求められているのか。

いくつかの記事や事例を参考にしながら、詳しく考えていきます。

■名経営者の筆頭“稲盛経営”

稲盛経営の代名詞「アメーバ経営」からインスピレーションを受けた会社は少なくないと思います。自社のビジネスを細分化して、それぞれに責任を持ってもらう人を責任者に立てていくことで、「経営経験」を積ませ、「経営マインド」を育てていく。つまり、「独立採算制の組織がたくさんあるイメージで経営しよう」という発想で、採算は時間当たりで算出し、リアルタイムで開示していく経営スタイルです。

最大のメリットは、

  • 全社員を経営に参加させることができること

  • 全社員に経営者意識を持たせることができること

  • 全社員が収支や事業運営を考える組織を作ることができること

の3つです。各小集団(アメーバ)内の活動の成果が分かりやすくなり、リーダーだけでなく全社員が収支を意識して能力を最大限発揮しようと取り組む「共同経営」というスタイルが、人材育成にも、事業スピードにも、組織全体の収益体制にも、プラスの影響を与えていくのです。

改めて説明するまでもありませんが、稲盛和夫氏は京セラを一代で1兆円企業に育て上げ、第二電電(現KDDI)を創業し、日本航空の経営再建までやってのけ、「名経営者」の筆頭に挙げられる人物です。

記事には「アメーバ経営」と「フィロソフィ経営」について詳細が記載されていますが、「儲ける(利益を追求する)」ことと「道徳的価値観を持つ」こととを共存させ、どちらも経営に取り込み成功させたその経営手法が革新的だった点が、名経営者と呼ばれる所以です。

最初は評価されず、むしろ異端扱いされていた稲盛経営ですが、1990年代後半、日本経済が本格的な低成長期に突入する中でも業績を伸ばしたり、倒産した大手複合機メーカーを買収して「アメーバ経営」や「フィロソフィ経営」を導入したところ業績が劇的に回復したことで、いよいよ本格的に評価されるようになっていったそうです。

人間力に重点を置いた稲盛経営、特にフィロソフィ経営は、短期的なモチベーションを上げる経営施策とは対極に位置する。長期視点の経営ゆえ、時代からは非常識とされた

とあります。“アメーバ経営”を機能させるためには、「どんな会社にしたいか」「どのような目標を持つべきか」といった経営者の想いを社員に共有し、経営者と社員の双方が信頼関係を築くことが絶対条件です。そのために必要だったのがアメーバ経営の土台となる“フィロソフィ”だったのです。

このように「人間力に重点を置く」「人間本位の経営をする」ということは、時代によっては非難される対象になりかねません。ですが、目先の利益ばかりを追い求めていては、社員をただの労働者(レイバーやワーカー)として捉え、仮に道徳的に反することをしたとしても、「とにかく儲ければ良い」と考えてしまいがちです。これでは会社が長く健全に成長していくことはありません。

最優先すべきは、短期目線で利益を上げることではない。中長期的に会社も社員も幸せが増幅することに取り組み、その結果として短期の収益も上げるという選択をすることだ。

会社の短期的利益ではなく、中長期的に会社にとっても社員にとっても幸せが増幅することに取り組むという「社員ファースト」であることが経営理念の骨子になっている点は稲盛経営の大きな特徴の一つと言えると思います。

■長期的利益を追うことが短期的利益をもたらす

――柳井さんは当時45歳で250億円ほどの売り上げ規模でしたが、今では約2兆円(2021年8月期の連結売上収益が2兆1329億円)。なぜ約30年間で100倍にまで会社を拡大できたのですか。正直、30年前の私は、ここまで成長するとは全く思っていませんでした。

柳井氏「誰も思っていなかったでしょうね。僕も思っていなかったですもん(笑)。ただね、僕はほかの経営者と違って、根源的なところにずっと興味があった。服とは何だろう。服屋とはどうあるべきか。ビジネスをするとはどういうことなのか、といったことです」
(中略)「普通の服屋さんはそうじゃない。どうやって売り上げを伸ばすかとか、どのように次の店を出そうかとか、そういう目先のことばかり考えている。でも僕は、今の延長線上でどんなに大きくなろうとしても、それでは大きくなれないような気がしたのです」

こちらの記事のように、「服とは何か」「服屋とはどうあるべきか」「ビジネスをするとはどういうことなのか」を常に考えるということは、決して簡単なことではありません。

世の中の経営者のほとんどが、「いかに目先の利益を上げるか」「来月、来年、そして数年後にどのような戦略で戦うか」について思考を巡らせ、まずは足元の収益を上げることに全力で立ち向かっているはずです。

「服というものをどのように捉えると世界で勝負できるか」という、本質的かつ長期的な目線が、結果として大きな成長につながったのです。

短期的利益を追うことが長期的利益をもたらすのではなく、長期的利益を追うことが短期的利益をもたらすのである。

この言葉が、会社を長期で経営していくにあたって、短期的な利益だけに目を向けることがいかに意味のないことかを示しています。長期的に利益を追っていれば、結果として短期的な利益にも直結していくという点は改めて重要なポイントだと思います。

■キーワードは“クリエイティビティー”

こちらの記事には、

ソニーグループの経営におけるキーワードもクリエイティビティーである。当社のパーパス(存在意義)は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」だ。このパーパスは社員の自立やクリエイティビティーの基盤となる。

とありますが、ソニーグループ会長兼社長の吉田憲一郎氏は、ソニーにとっての存在意義の最上位の考え方に「感動やエンターテインメントがある」とし、世界の分断が進む中でも「エンタメには社会を結びつける力がある」としています。さらに、

プリンシプル(経営上の原則)として私が重要視しているのが長期的視点だ。エンターテインメントなど当社の多くの事業は20世紀に仕込まれたものである。もう一つが自立とクリエイティビティーである。それぞれの事業が自立してクリエイティビティーを発揮することが重要だ。

とあり、社員一人ひとりが自立してクリエイティビティーを発揮させることが重要であり、GAFAMなどの米国の巨大IT企業がユーザー側に軸足を置く一方、「ソニーはクリエーターに軸足を置き、感動コンテンツを届ける」としています。

ここでも“長期的視点”という言葉が出てきます。

■名経営者の共通点とは

ホンダの本田宗一郎さん、ソニーの盛田昭夫さん、パナソニックの松下幸之助さん、京セラの稲盛和夫さん、ソフトバンクの孫正義さん、日本電産の永守重信さんなど、名経営者と呼ばれる人は多いですが、最後に、優れた経営者の共通点をいくつか挙げてみます。

●オーナーシップを持っている
→会社を存続させ続けるために、ミッションを“与えられる”のではなく、“所有する”というマインドで意思決定をしています。誰よりも危機感を持ち、不確実性の高い中で今何をすべきか、10年後どういう会社にすべきかを考えているのです。

●常識に捉われない自由な発想をする
→世の中のトレンドは常に変化していくため、「少し前の常識は今の常識ではない」と捉え、新しいことや他とは違うことから目を背けず、果敢に挑戦していくことが経営者にとっては必要です。世の中に必要なことならばなおさら、自分がその先駆者になるという勇気を持ち、自由に発想しています。常に時代の変化やトレンドを敏感に察知して、新しいものに目をつけていない経営者は、会社とともに衰退していってしまいます。

●イノベーションを起こしやすい環境を作っている
→イノベーションを起こすためには、失敗に対して寛容であり、失敗から学ぶ環境を整えておかなければなりません。経営者自ら失敗を恐れず常に挑戦し、さらに社員に対しても失敗を推奨する文化を構築できているかどうかは重要なポイントです。失敗を避けていては決してイノベーションは生まれません。

●変化に対応しながら、中長期視点で意思決定している
→絶えず変化する環境の中で、短期的アプローチではなく、長期的な視点を持ち、自ら主体的に意思決定をし続けています。変化に対してどれだけ早くアジャストできるかが重要で、ほんの少しの意思決定の遅れが数年後、致命傷になりかねません。その都度判断しなければいけないような場面も、今をいかに乗り切るかではなく、数年先を見据えて判断する必要があります。

●競争力のある事業モデルを作り、リスクリターンで物事を考える
→優秀な人だけを集めたら会社が勝手に伸びていくわけではないため、事業に規律や厳しさを持たせ、競争力のある高収益モデルを作ることが何よりも重要です。新しい分野や領域にチャレンジする際、本業の全てを潰してしまう可能性があるものには細心の注意を払い、リスクとリターンを冷静に考えながら、大胆な意思決定が必要な場面が多々あります。

●社員の心の拠り所となる価値観(意思決定の軸)を作っている
→優秀な経営者ほど、「頭を使って自社にとって必要な戦略とは何かを考え抜き実行するという経営」と、「社員と徹底的に向き合い、寄り添いながら共感・信頼し合うという経営」、そのどちらもの必要性を説き、事業や組織を率いています。さらに社員たちの働き方や考え方のベクトルをそろえるために心の拠り所となるような“価値観”を策定し、目指す方向を明確に定める経営者ほど、大きな成長を実現しています。

●若い社員に早期に経営経験を積ませ、経営者マインドを持たせる
→経営に当事者意識を持ち、自分の事のように会社を成長させたいと考える人を増やすことにデメリットはほぼありません。若い社員にこそ早い段階で権限を委譲し、ある程度自由に経営経験を積んでもらいながら、経営者マインドを持ってくれる人材を育てることは、経営者に求められる能力の一つです。

●「自分が一番大事」だと思っていない
→人間は誰しも「自分が大事」ですが、「自分が何よりも一番大事」だと思っている人は組織のトップに立つべきではありません。自分の損得に敏感な人が経営をすると、組織が危険にさられます。組織のために自ら犠牲になるくらいの人物でないと、安心して組織経営を任せられないと思います。人間は誰しも“欲”がありますが、欲を適切にコントロールできる人が経営する会社の方が圧倒的に成長し続けられるはずです。

最後に挙げたポイントとも通ずる部分ですが、松下幸之助氏は「リーダーとして成功したいのなら、人間観を持たないといけない」と言っていました。自己中心的な経営者は、自分以外の人の視点に立つことができないため、部下の気持ちやお客様の気持ちが根本的に理解できないことがあります。経営者として常に自分を追い込み、組織を厳しい競争環境にさらしながら、社員に対して厳しいことを言わなければいけない場面も多々ありますが、それと同時に相手に対する人間的な優しさを持てるかどうか人間観を大事にできるかどうかは、事業、そして会社を成功に導けるかどうかの大きな分かれ目ではないでしょうか。

■優秀な経営者ほど後継者育成に難航?

優秀な経営者であればあるほど、後継者育成に難航している企業が多い印象があります。「自分ができたことは後継者もできて当然である」という願望に加え、「会社をさらに成長させるためにはそれ以上の能力や経験が必要」になってくることを考えると、なかなか容易に引継げる人材を発掘・育成することは想像以上に難しいのでしょう。

こちらの記事には、

今年4月、日本電産の永守重信会長がCEOに復帰した。関潤社長はCEO就任後わずか10カ月で最高執行責任者(COO)に降格した。過去にも、シャープ日産自動車などから後継候補を招へいしたが、いずれもお眼鏡にかなわなかったようだ。同様に、ソフトバンクグループ孫正義社長、ファーストリテイリング柳井正社長の後継者候補も短期間で退任に至った。
これらの後継候補の共通点は、外部採用で、かつその会社における社歴が短いことだ。言い換えると、日本的な社内登用でなく、米国的なスカウト人事を行ったということである。そもそも、一代で世界的な大企業を育て上げた名経営者が満足するような後継者を探すのは至難の業だ。

とありました。社長のバトンタッチが上手な米国企業と比べて、日本企業の中に後継者育成が成功している企業は少ないですが、同記事には、リクルートホールディングス、ソニーグループ、東京エレクトロン、任天堂、オリエンタルランド、第一三共、テルモ、オリックスなど優秀な経営者を連続して輩出する企業が増えてきたと記載があります。

名経営者ほど、自分と同じような高い能力を持った人材を求め、中にいなければ外から引き抜き、外から引き抜いてもうまくいかなければ、長い時間をかけて社内で育成することの重要性を改めて認識するのです。

さらに、こちらの記事には、

国内企業では後継者育成の取り組みは道半ばだ。経済産業省によると「サクセッションプランが存在している」と答えた日本企業は11%どまりで、「ない」との回答が48%を占める。

とありますが、後継者育成計画を策定し、実践する企業は国内では決して多くなく、アステラス製薬のように

  • 国内外の報酬水準や職務評価を一本化する

  • 「脱・年功序列型」の人事システムに移行する

  • 次世代リーダー候補を選抜し、将来経営を担う幹部候補の早期育成を行う

など、まずは評価システムや人事システムなどの基盤を整え、国内外で活躍するリーダー育成に注力することで、後継者計画を長期的な企業の成長にとって重要なものであると位置づける必要があるのです。

背景には、23年から人的資本情報の開示が義務付けられることも影響しています。非財務情報の開示によって、従業員や従業員が持つ能力などをはじめとした、企業の本質的な価値を見る投資家は今後も一層増えていくでしょう。
企業の人材育成方針の中に、後継者育成の取り組みを明確にする動きは、もはや避けて通れなくなっていると断言しても良いと思います。


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