政治が掲げる「家族の多様性」は、当事者の切実な悩みを、解決できているだろうか
俺たちの明石市が、また、やってくれた。
2021年1月8日から、「 明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度 」がスタート! 届出者の戸籍の性別やSOGIE(性的指向・性自認・性表現)を問わず、パートナーシップ関係にある2者を、公に証明する制度です。届け出書の提出を受けて、市が証明カードを交付します。
LGBT+のカップルを認知する制度はすでに全国で広まっていますが、明石市の制度には3つの特色があります。いずれも、日本初です。
まず、届け出書の様式。なんと、6種類もあって、当事者たちが自分で決められます。具体的には、パートナーシップ、ファミリーシップ、結婚、家族、事実婚、そして、自由記載。どれを選んでも、効力は変わりません。
次に、それぞれに未成年の子どもがいても、家族として公認すること。
最後に、この証明カードを提示することにより、市営住宅での同居が可能になったり、また、市内の全医療機関で家族として病状説明を受けたり、幼稚園や学校で子どもの送り迎えをしたり……、等々、これまで、原則として "普通" の家族にしか認められなかったことが、できるようになっちゃう。
つまり、単に行政がパートナーシップを認める、というだけでなく、具体的な効果まである制度なんです!
スッゲー 🙌
上記で書ききれなかった効果がたくさんあるから、詳細はぜひ、明石市のホームページをみてくださいね!
🌈 🌈 🌈
ところで、既に触れた通り、この制度は日本初なわけで、革新的には違いないのですが、ちょっと疑問に感じる箇所がちらほら。
例えば、効果が変わらないのだったら、なんでわざわざ書式を6種類もつくったの? とか。なんで医療機関での病状説明にそんなにこだわったの? とか。証明カードの効力の対象は「全」医療機関であり、それはつまり、市営だけでなく、民間病院も制度設計の段階から巻き込んでいったことを意味します。それって、かなり大変だったのでは……?
もちろん、やったほうがいいに違いないでしょうが、いったん後回しにして、制度をスピーディーにリリースする選択肢もあったんじゃないかと。だって、この制度を待ちに待った当事者の方々だっていたでしょうに。
というわけで、自他共に認める面の皮の厚い私は、本制度の仕掛け人、明石市の泉房穂市長に電話で突撃 📲 いったいどういうわけで、本制度がこういう形になったのか、聞いてみたよ!( 泉市長、貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます😭 )
🙋♂️ 当事者と、一緒につくった
ー というわけで、市長! さっそくですが、教えてください! この制度、本当に素晴らしいと思うのですが、どうしてこのような形になったのでしょうか。もちろん、よかれと思ってやられたのは重々承知ですが、ちょっと過剰品質気味になっている箇所もあるように感じました!
泉市長「私たちは、その『よかれと思って』が一番よくないと考えて、この制度をつくっています。それだと、往々にして、ひとりよがりな制度になってしまいますから。制度は、つくったら終わりじゃないんです。むしろ、如何に市民に使っていただくかが肝心です」
ー おおぅ……、そうとは知らず、のっけから大変失礼致しました! でも、だとすると、どうしてこんな形になったのでしょうか。
泉市長「どうしてもこうしても、これは、当事者の方々と一緒に作った制度です。当事者の気持ちに寄り添ったら、自然とこういう形になりました」
ー 「当事者の方々と一緒に作った」とおっしゃるのは、つまり、当事者の方々の声を聞いた、ということですか?
泉市長「それもそうですが、そういうことではなく、言葉の通り、一緒に作ったのです。制度設計にあたり、一緒に作ってくれる当事者の方々を、全国から公募しました。99件の応募があり、そこから2人を採用させていただき、市の職員と一体となって制度をつくっていただきました」
ー えぇ❗️
泉市長「残念ながら採用されなかった97名の方々とも連絡を取り合い、どういう制度になったら嬉しいか、お話を伺い続けていました。その中で、日常的な生活の中で、具体的にどんな悩み、不便に直面しているか、とことんお話を伺ったのです。それを、採用させていただいた2名の方を中心に取りまとめていただき、現在の法的枠組みの中で何ができるか、みんなで考えました」
ー なんという……❗️ 市民のニーズにとことん寄り添うのは明石市政の真骨頂だと思ってましたが、そのものズバリな制度設計だったわけですね。
泉市長「そうです。例えば、届け出書の様式が6種類あっても手続きが煩雑になるだけでは、なんて声もありますが、これも、当事者の方々からいただいた声を反映させた結果です。人って、言葉に強い思い入れがあるんですよ。「結婚」をしたい、という人もいます。でも、それとは別の「パートナーシップ」という形がいい、という人もいます。「家族」にこだわる人もいました。そこには、本当に色々な想いがあるわけです。じゃあ、もう全部認めたらええやないか! というわけで、こうなりました。
ー (なんてこった、典型的な何もわかってない人間代表のような質問をしてしまった)
泉市長「病院の件もそうです。おっしゃる通り、これは制度設計の段階から、民間病院にも相談をさせていただきました。もちろんそれだけ時間はかかりますが、必要だったと確信しています。実際に、パートナーが深刻な病気にかかって苦しんでいるというのに、『家族』ではない、という理由で会うことすらできなかった、という話をたくさん聞きました。こんな不条理な話はありません。断固やるべし、と思っていました。
🙋♀️ 制度は、使ってもらってなんぼ
ー なるほど、制度の細部のひとつひとつに、当事者の想いが宿っていたんですね。本当に、勉強になります。では、今回、泉市長がこだわったのはどんな点でしょうか
泉市長「それは、重複しますが、絶対に使ってもらえる制度にする、ということです」
ー それはわかりますが、5年前に渋谷区で「パートナーシップ制度」が導入されて以降、同じような制度は全国に広まってます。制度をつくれば、普通に使ってもらえるのではないですか?
泉市長「実は、そうとは限りません。例えば、関西のあるまちでは、まさに市長が『よかれと思って』、類似の制度をつくりました。でも、数年間の間、1 件の申し込みもない、なんてこともありました」
ー えぇぇぇ❗️
泉市長「思い込みは、危険です。行政が、パートナーだと認めてあげますよ、なんて言っても、人によっては『だからなんだ』ってこともあるのです。それが認められたら、自分たちのどんな悩みが具体的に解決するのかと。え? なんも解決されないの? じゃあええわ、って。もちろん、行政が認める、ということ自体に価値を感じる方々もおられます。それはそれで素晴らしいのですが、そうは考えない方々も、少なからずいるということです。行政でも、民間でも、ひとりよがりはダメなんです」
ー (なんてことだ。完全に仕事ができないタイプの人間代表のような質問をしてしまった)
泉市長「明石市では、1月8日に制度をリリースしたその日に、3組の申し込みがありました。これは、私にとって絶対になくてはならないものでした。使っていただけて、本当によかったです」
✊ まちを変えるのは、いつだって、市民です
ー では、思い切って少々不躾なことを伺います。泉市長は、これまで次々と革新的な市民をサポートする施策を矢継ぎ早に打ち出し、大きな効果をあげて来られました。でも、今回は、制度の中身は全く異なるとはいえ、渋谷区が「パートナーシップ制度」を打ち出してから5年が経過しています。もっと早くやろう、とはお考えにならなかったのでしょうか。
泉市長「正直いって、ここは悩みました。当時からこの動きには注目していましたし、やりたかったです。でも、確信が持てなかったのです」
ー 確信、と申しますと?
泉市長「市民のニーズに応えていける、という確信、また、明石市民が制度を受け入れてくれる、という確信です。繰り返しになりますが、『よかれと思って』ではダメなんです。私はそこにこだわっています。『心優しき政治家』のふりは、本当によくない。市民のニーズありき、課題ありきなのです。5年前は、それができるのか、私には自信がありませんでした。また、政治というのは、市長が決めたら後は勝手にうまくいく、なんて甘いものではありません。そこには、市民、地域が受け入れてくれる土壌が必要です。当時は、ここも準備ができていない、と感じていました」
ー では、市長が「準備」が出来た、と確信したきっかけはなんだったのですか?
泉市長「2019年頃のまちの雰囲気が、そろそろいけるかな〜……という感じになってきていて、その年の9月議会で、翌年からパートナーシップ制度導入する! と公表はしていました。でも、正直、不安でした。悩んでいましたね。それが確信に変わったのが、その年の11月にあった、明石プライドパレードです」
泉市長「そこで堂々と歩く市民の姿と、それを見つめる市民の姿、これをみて、いける、と確信しました。そして、その年の12月に、一緒にこの制度をつくる当事者の公募を開始したのです。明石市の施策は、いつだって、市民が起点です。私が思いつきで何かを始めることはありません」
🌈 LGBT+の 「救済」 じゃない
ー では、最後になりますが、これからLGBT+の問題にどのようにコミットされていくつもりか、市長のお考えを伺わせてください。
泉市長「え? いやいや、そんなのしませんよ」
ー え?😄
泉市長「私は『LGBT+の問題』にコミットしたつもりはないですし、これからもしません」
ー えぇぇぇ! そんな! 最後の最後に、そんなちゃぶ台返しのようなことを😱
泉市長「だって、そうですもん。そういえば『明石市って、子どもに優しいまちですよね!』とかもよく言われます。それは実際、他のまちよりも、圧倒的に多くの投資はしていますよ」
泉市長「でも、これも、ちょっと違うなと感じています。明石市が子どもに優しいんじゃないんです。他のまちが、冷たすぎるんですよ!」
ー な、なるほど……?
泉市長「私は行政の仕事は、『市民』にとことん寄り添うことだと思っています。子どもでも、障害者でも、高齢者でも、無戸籍者でも、そして、LGBT+でも。市民が困っていたら、それが誰であれ、寄り添うのは当たり前です。だって、それが行政の仕事なんだから」
ー そうか。「LGBT+」という特別な存在を助けよう、ということじゃないんですね。
泉市長「そうです。誰だって、ちょっとずつ特別な部分を持っています。それは、程度の問題に過ぎません。私はずっと、変わり者だと言われてきましたし、その自覚もあります。だから、 "普通" の人しか生きていけない社会になったら、私なんて、真っ先に排除されてしまいます。LGBT+だろうと、誰だろうと、ありのままの自分で生活できる社会の方が良いと思うのです。だから、今回の制度だってLGBT+の方々のためにやったんじゃありません。私自身も含めた、全市民のためにやったんです」
ー そういうことですね。では、質問を変えます。これから明石市を、どういうまちにしていきたいですか?
泉市長「それは、決まっていますよ。『ありのままが当たり前のまち』です。うちのまちは、それがコンセプトですから」