「会話のポゼッション率」で見えてくる違いを活かす力~心理的安全性を測る"ある指標"についての話~
Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。ファシリテーションやチームビルディングを仕事にしています。
ぼくは、コミュニティ型組織開発と呼ばれるプログラムを提供していて、色々な個性を持つ人たちを混ぜ合わせて、コミュニティ開発のノウハウを活かしたチームコミュニケーションづくりをしたり、新しいアイデアを発想したりするお手伝いをしています。その際に大事なキーワードになるのが「心理的安全性」です。
そのような場をつくるにあたって大事にしている指標があります。それが「会話のポゼッション率」です。
ポゼッション率と言う言葉をご存知でしょうか。サッカーが好きな方なら聞いたことがあるかもしれません。試合において各チームがボールを保持している割合を示す数値で、例えば浦和レッズと鹿島アントラーズが試合するときに、浦和のポゼッション率が53%、鹿島のポゼッション率が47%といった場合には、浦和の方がより長くボールを保持したということになります。
これに対して「会話のポゼッション率」とは、チームメンバーが会話をしているときに、それぞれの人達がどれだけ発言したかの、発言量の割合をはかるものです。
以下、詳細について解説していきます。続きも読んで頂き、腹落ちしてくださるととても嬉しいです。ハートマークのいいねを押していただけるとなお嬉しいです。当原稿の下書きとなっているVoicyも聴いていただけるともっと嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。
理想の「会話のポゼッション率」とは
会話のポゼッション率の考え方について解説します。Aさん、Bさん、Cさん、Dさんと4人のメンバーが会話しているとして、よくあるシチュエーションで解説すると、このような感じになります。
では、この会話のポゼッション率、心理的安全性高い組織における理想の数値はどのようなものか分かるでしょうか。答えはこのようになります。
会話量がほぼ均等になること。これが心理的安全性ある組織における理想形なのです。
会話のポゼッション率にみる、心理的安全性高い/低い組織の特徴
心理的安全性が低い組織において特に顕著な特徴は①です。声の大きい人、例えば、年次の高い人や階層の高い人に発言が偏り、しかも発言が多い人はその事実に気がつかずに「いい話合いができている」と認識している傾向が顕著にあります。この、発言できている人とそうでない人の間にあるギャップがますますチームの一体感を削いで、ますますメンバーが本音を発信できなくなるのです。
発信しない人(例えば若手や階層が低い人)は、年長者や階層が上の人達が気持ちよさそうに一方的に発言しているときに、違う考えを持っていたとしても「めんどくさいから黙っておこう」「忖度してあわせておこう」と顔色をずっと伺って、ますます発言しなくなります。
それに対して、心理的安全性が高いチームを観察したときに何が起きているかというと、上手に会話に参加しているメンバーが、タイマーを設置しているわけでもないのに(ただし時計はちゃんと見ている傾向はあります)ほぼ均等に発言してるのです。Aさんが最初しゃべったとして「あ、ちょっと喋りすぎたな」と感じたらすぐに「Bさんはどう思います?」と振ったり、あるいは「まずは3分ずつ何を考えているかを発言してみましょうか」といったふうに、均等に発言するフォーマットを提示して、発言を促します。つまり、自然と「ファシリテーター役」が発生するのです。
ここで行うのは、お互いの見聞きしてきた情報(インプット)と、それに対してどう感じたか(価値基準)の確認とすり合わせです。Aさんはこういう根拠でこう考える、Bさんはこう、という風にお互いの判断の基準となる情報を整理して、どこをどうすり合わせるかを確認し、最終的な合意形成へと議論を導いていくのです。この際、発言量や発言の影響力は、階層や年次を問わずに、フラットに行われるのが大きな特徴です。
心理的安全性が高い組織は、お互いの共通点と違いに着目して、それぞれの違いから学習を繰り返し、組織のあり方をどんどんアップデートしていきます。例えば、チームとして新しいアウトプットを生み出したいときには最初に共通の目的(ビジョン)をすり合わせた上で、途中でメンバー間の方向性のばらつきが起きない状態をつくりながらプロジェクトを進めていきます。例えばサービスであれば「こういう人を助けたいよね」「こういうインパクトを社会に提供したいよね」といった、プロジェクトが目指すゴールの設定を、高い納得感と共に明確にするのです。
一方心理的安全性が低いチームは「こんなはずじゃなかった」ということが起きた際にモチベーションのばらつきが発生し、モチベーションのばらつきが露呈して会話がますますギクシャクしてきます。発言が大きい人のポゼッション率と圧力はますます増して、チームは機能不全に陥っていくのです。
心理的安全性高い対話は、メンバーの凸凹を知り描く絵を握るプロセス
そもそも、チームの生み出す価値は、メンバーそれぞれの違いの組合せで生まれます。パズルのピースにたとえると、違う凸凹を持って違うかたちをしたそれぞれがあわさって、1枚の絵を描いていくプロセスに似ています。同じピースでは絵は描くことができないので、違うかたちを持っていることが大事ですし、それぞれがどんなかたちをしているのか、そして、最終的にどんな絵を描きたいのかを、本音ベースの対話を通じて明らかにしていくことが重要なのです。
この凸凹は、一般的には「長所と短所」と置き換えられることもあります。しかしこれはいい悪いではなく「こういう形をしている」というひとつの特徴です。ちがう形を組合わせて走り、新しい絵を描いていくその過程でチームは結束を増し、完成へと近づきます。その結果、他のチームでは生み出せない、そのチームならではの価値を創造できるのです。
均等なポゼッション率づくりは、このチームの新しい価値創造のおいて欠くことのできないプロセスです。大事なのは、均等に本音を出せるミーティングをデザインすることであり、その結果、共通のゴールとそこに至るプロセスを設計することであり、一体感を持ってチーム全員が均等に責任を持ち合いながら実行に移していくことです。そのプロセスにおいては、メンバーのファシリテーション能力が基礎スキルとして鍵になってきます。ぼくがコミュニティ型組織開発を行う際に、自身のファシリテーションスキルを余すところなく伝えている理由はここにあります。
もちろん、発言量が均等になる対話の場をつくることは、決して簡単なことではありません。トップダウン型組織に比べて、はっきりいって「めんどくさい」アプローチだとも言えます。しかし、お互いの特性を理解しながら、共通の認識を生み出し、目指すゴールとプロセスを明確にすることは、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉が叫ばれる中で、欠くことのできないプロセスなのです。
自分たちのチームは心理的安全性にあふれていると思われている読者の方も、試しに会話のポゼッション率を計測してみてください(計測するツールも存在します)。思っているのとは違う結果が出るかもしれません。その結果に一喜一憂するのではなく、現状を客観的にとらえながら、「それぞれのメンバーが本音をいいあえる環境」をつくるためには何ができるのか、考えるきっかけにしていくと、間違いなく組織はいいコミュニティへと変化していくのです。
Potageでは対話を生み出すコミュニティ型組織開発のお手伝いをしています。ご興味ある方はぜひぜひお問合せ下さい。