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伝統と革新の交わり。伝統芸能を育む

昨年、徳島で阿波文化の一つである人形浄瑠璃に出会った。今年は、京都の街中で文楽のポスターがふと目に止まった。起業して2年経つが、経営コンサルタントとして駆けずり回っていた時には考えられなかった日常が当たり前になってきた。文化を無意識に感じている自分がいるのに気づいた。とても嬉しい変化だ。

一方で、職業病もある。人形浄瑠璃のような伝統芸能に触れると、直ぐに気になることがある。人形のカラクリだ。製造業に多くのクライアントがいたからだ。内部の構造はどうなっていて、どう操っているのかが無性に気になる。すぐさま衣装を着ていない「素の人形」をネットで検索する自分がいた。「胴体がない」というなかなか興味深い仕組みが隠されていた。

もう一つの気になることは、コラボレーションなどの新たな取り組みだ。コンサルタントの仕事においても、常に既存事業を大事にしつつも、新たな事業をいかにして生み出すかに力を注いできた。クライアントの持つ本質的な強みやアイディアも活かして、素早く新たな価値を生み出していくために、異業種とのコラボレーションを積極的に進めていた。異なる職人の凄技が複数組み合わさった時の凄まじさは今でも鮮明に覚えている。

人形浄瑠璃や文楽の世界でも様々なコラボレーションが進んでいる。初心者が親しみを覚えるきっかけにしたり、新たな世界を切り拓いたり、目的は様々だが、少し探しただけでも、興味深いものがたくさん出てきた。例えば、2006年から開催している「初心者のための上方伝統芸能ナイト」だ。198回目の公演では「デパ地下」をコンセプトに、能や狂言、文楽、上方歌舞伎、上方舞、落語、講談、浪曲などから数種の芸能を20分程度、見どころを凝縮して上演したという。伝統芸能初心者につまみ食い感覚で魅力を伝えている。

この日は、歌舞伎俳優の中村鴈治郎が文楽の人形と共に、「義経千本桜 道行」を舞う特別なコラボレーションもあったという。「もともと義経千本桜は人形浄瑠璃の人気演目を歌舞伎が取り入れた。歌舞伎では時代とともに独自の演出が加わり「役者たちが勝手につくってきたもの」(鴈治郎)が今に伝わる」という歴史がある。「原型である人形浄瑠璃と独自の発展を遂げた歌舞伎。二手に分かれた道が再び合流し、一つの舞台に同居する」、こんなストーリーを知ってしまうと、「観てみたい!」という衝動に駆られる。

人間浄瑠璃!なんか凄いものも見つけた。「美術家の森村泰昌が文楽人形になりきり、桐竹勘十郎が遣う」という作品だ。台座に乗った森村氏は、文楽と同じ3人遣いで四肢を操られ、「体に添えられた勘十郎の手から指示を感じて動く」という。ただし、体と足は本人のもの。でも両手は人形の手に置き換えられ、本物の両手は衣装の中に隠して人形に成りきっていたのだ。勘十郎氏は「人形にとっての手の表現の重要性を再認識した」という。なんとも奥が深い。

桐竹勘十郎氏は、チェロ奏者の宮田大氏との共演もされていた。驚くべきことに、チェロの独奏曲に「BUNRAKU」という題名のものがあるという。「チェロのゆったりとした変化やぎゅっとした変化のある演奏と、(勘十郎の)つま先まで神経の通った人形の表現とで即応しあう、一期一会の演技になる」と越境コラボレーションを楽しまれたようだ。チェロをかじったことのある自分としては、これにもかなりの興味を持った。

人形浄瑠璃は淡路島にもある。というか人形浄瑠璃のルーツは淡路にあるようだ。そして、その淡路島で、500年の歴史に新風を吹き込む取り組みが、アーティストの清川あさみ氏といとうせいこう氏らとのコラボで実現された。清川氏は「伝統を革新の要素が上回ると、いっときのイベントに堕して、後世につながらない。そのバランスに最も注意した」と語っているが、どう注意したのかがとても気になる。「舞台装置や大道具、小道具を変えるのは、芸を崩さず作品を新しくするのに効果的」とのことだが、伝統をしっかりと体験した後に、革新の混ざり方をぜひ感じてみたいと思う。

最後は、かなり伝統の枠を超えた取り組みだ。世界遺産である富岡製糸場の特設ステージで、文楽イベント「恋娘紬(こいむすめつむぎの)迷宮(ラビリンス)」が行われた。10~30代も多く、400席がほぼ満席になったという。文楽人形と初音ミクとの共演は、ビートの効いた「古書屋敷殺人事件」という楽曲だ。ラストは、「千本桜」で、人形は「伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)」の「お七」ならぬミク同様に髪を染めた「お三九」が一緒にダンスしたようだ。人形遣いの吉田玉助氏は「大きく速く動かすことを意識した。可動域が広がり、体の動かし方で新たな発見もあった」とコラボを楽しんだようだ。

来月、文楽を始めて国立文楽劇場で観にいく。恐らく1回観ても伝統の1割も感じることはできないと思う。でも、まずは伝統の本家本元を体験して、文楽がこれまで伝えてきたことを少しでも多く掴んでみたいと思う。ものづくりが好きなので、人形の内部構造などに興味がいってしまうかもしれないが、それでもいい。どこの入り口からでも良いので、深く触れながら本質に迫ってみたい。楽しみだ。

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