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内定辞退を直接伝えてもらうのは企業として断るべき3つの理由 ~内定辞退は悪なのか?~

日経産業新聞に掲載された「就活探偵団」のコラムが物議をかもしている。

内定辞退を伝えるには、直接会うことを推奨しているのだが、ネットでの反応の多勢は「そんなことしなくて良い」という論調だ。まず初めに、筆者の意見もネットの反応と同じで、「そんなことしなくて良い」派だ。内定辞退の都市伝説として「某証券会社に内定辞退を直接伝えたら、罵声と共にコーヒーをかけられた」という話があるが、トラブルの基にもなりかねない。あまり大きな声でいえないが、筆者もこれまで2桁以上の企業に内定辞退を伝えてきたが、すべて電話かメールである。

そして、企業としても直接内定辞退を伝えられることは断った方が良い。その主な3つの理由を述べたい。


1.「直接会う」ことの生産性の低さを軽視してはいけない

労働生産性の低さは、日本にとって大きな問題の1つである。その原因はいくつもあるが、主要な原因の1つとして、コミュニケーションにかけるコストに無頓着であるという点があげられる。例えば、会議の多さと長さ、アウトプットがはっきりしない視察や面談など、「直接会うこと」は優れたコミュニケーションだと信じ、直接会うことによる効果とコストのバランスが意識の外にあることが多い。ある意味、「直接会うことは良いことだ」という信仰があるかのようだ。

そして、「直接会う」信仰は大学新卒の採用活動にもある。例えば、大学で就職委員をしていると、驚くほど多くの企業が挨拶に来る。筆者も、少しだけ採用業務に携わったことがあるが、キャリアセンターや学部の就職支援窓口には通った。そして、内定辞退を防ぐためにも、この信仰は適用される。学生と直接会う機会を増やせば内定辞退の確率を減らせるかもしれないし、辞退したい学生を引き留めるチャンスにもなると期待される。

しかし、「直接会うことで引き留められる確率」「引き留めたとして、モチベーションが低下している学生のリテンションにかかるコスト」「入社後にすぐ離職するリスク」「対応する採用担当者のリソース」「対応する採用担当者のストレス」を総合判断したときに、合理的なアクションと言えるのだろうか。諸葛孔明のような稀有な人材ならともかく、育成を前提とした新卒採用で1人を採用するためにそこまでのコストをかける必要性があるのかは検討すべきだろう。新卒採用のプロセスを生産性という観点から見直す必要性は大きい。

そもそも、採用業務はギリギリの少人数でこなしている企業が多くを占める中で、内定辞退の連絡に直接会う時間と労力を割ける余裕のある企業はどれだけあるのだろうか。


2.「内定辞退」の対策は、ゲームを変えること

そもそも、「オンライン求人をベースにした新卒一括採用」というシステムは大量の不採用者と内定辞退者を輩出する制度である。そのため、内定辞退に抗うよりは受け入れてしまった方が合理的だ。オンライン求人は大量の応募者を集めることを可能にしたが、そのために大量の不合格者も出してしまう。そして、学生としても大量の不採用通知が来ることが前提なので、多くの企業に応募を行う。加えて、企業が同じタイミングで求人を出すため、どうしても内定者のバッティングが起きてしまう。結果として、学生は多数の不採用通知を受け取る代わりに、複数の企業に内定辞退を伝えるという構造が成り立つ。

面接でのドタキャンやすっぽかし、突然の内定辞退など、社会人からすると考えられないようなことを学生がするのは、そこに至るまでの過程で企業側から誠意のある対応をされていないことも一因だ。大量の不採用通知を受け取り、時には人格否定のようなネガティブなフィードバックを受けることもある学生の立場で考えて欲しい。企業が学生に誠意のある対応をして欲しいと思うのであれば、学生に対しても誠意のある対応をしなくてはならない。

しかし、世の中の流れは逆の方向に進んでいるように見える。内定辞退を恐れるがあまり、脅迫まがいの内々定通知、就職活動を打ち切る誓約書へのサインなど、学生に圧力をかける方向に進んでいる。「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、この場合は「事実は小説より悲なり」と言えるだろう。やっていることを客観視すると、完全に漫画や小説の悪役だ。

内定辞退が問題だと思うのであれば、ゲームを変えるしかない。立命館大学の高橋教授が指摘するように、母集団形成を前提とした採用を辞め、まったく異なる採用方法を模索する必要がある。とはいっても、そこまで難しい話でもない。採用人数が5人以下の中小企業であれば、地元大学で学生教育に力を入れている大学教員を探し、そのゼミから2~3名を採用すれば良く、理工系の大学推薦のシステムを応用するだけだ。学生団体のスポンサーとなって、そこから採用することもできる。大企業ではないのでルールに縛られる必要もなく、インターンシップから直接採用したとしても文句を言われることはないだろう。

「新卒一括採用」という固定概念に捉われなければ、採用活動で行うことのできるオプションは無数にある。


3.内定辞退よりも、「採用活動時のコミュニケーションの質」に留意すべき

また、内定辞退に対して企業が過剰反応すべきではない理由の1つとして、入社後のパフォーマンスや採用活動との関係性を考えて欲しいと言うものがある。

日本でも、この1~2年で採用にデータ分析を取り入れる動きが本格化してきているが、欧米では、00年代以降、採用活動と入社後のパフォーマンスの関係性について研究が行われている。アメリカ産業組織心理学会(Society for Industrial and Organizational Psychology)での採用に関するセッションを見てみると、大学だけではなく、様々な企業でも研究が行われていることがわかる。これらの研究の結果、入社後のパフォーマンスに対して、採用活動時に求職者がどのような経験をしたのかが重要な要素であることがわかっている。

例えば、内々定や内定を伝えるときに、多数の応募者の中から、なぜ選ばれたのか、入社後にどのような仕事や働きぶりをして欲しいのか、入社後の期待についてフィードバックするだけでも大きく異なる。現状、多くの採用現場において、求職者が多数いる応募者の中でなぜ自分が選ばれたのか、理由を知らされる機会はほとんどない。そして、特に大企業で見られる傾向だが、新卒一括採用の場合には、入社後にどのような仕事をするのかがわからないまま入社することになる。しかし、採用時に入社後の働きぶりが具体的にイメージできること、採用プロセスの透明度が高いことは、入社後のパフォーマンスを上昇させることがわかっており、軽視して良い事案ではない。

また、求職者が学生の視点で考えたとき、複数社から内定をもらう際に「なぜ自分が選ばれたのか」がわからなければ、入社先を選ぶのは企業の知名度や給与などの待遇面でしか判断できる材料がない。つまり、内定辞退を防ぐために、「一緒に働きたい」と思わせる情報提供ができていない可能性を考慮すべきである。

しかし、残念ながら、採用現場の現実は逆の方向に進んでいるようにも見える。オワハラ問題や就職活動打ち切りの誓約書など、一緒に働きたいと思わせない、どちらかというとモチベーションを下げるような施策ばかりが行われている。内定辞退に対する基本的な対策は、「圧力をかける」ことではなく、「一緒に働きたい」と思わせ、ファンを作ることだということを忘れないで欲しい。


内定辞退を伝えられたということは、それまでの採用活動のプロセスで、十分な情報や適切なコミュニケーションをとることができなかったということだ。内定辞退は、採用担当者にとって大きな痛手であるが、反面、改善点を洗い出す良い機会ともいえる。それに、内定辞退を受け入れるときも適切な対応をして、自社のファンのままでいてもらうことで、第2新卒や中途採用で帰ってきてもらえる可能性もある。内定辞退を必要以上に怖がらず、「一緒に働く仲間探し」という姿勢で、企業は採用活動に取り組んでもらいたい。

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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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