記録と記憶の境界線 スマホのカメラのトレンドに見る「リアル」の意味
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
日々の思い出を残すために写真を撮影する。今ではほとんどの方がスマホのカメラで撮影しています。デジタル世代にとって黒電話がわからないように、「現像・プリント」の意味が通じない時代です。以前ユーザーリサーチをしているときに「スマホの電話アプリのアイコンの意味がよくわからない」と言われて絶句した記憶が残っています。固定電話を見たことがないのであれば、受話器を模したアイコンはわからないですよね(笑)。
MMD研究所と日本フォトイメージング協会による共同調査によると、「スマートフォンで写真撮影したデータの保存、「スマートフォン本体」が88.8%、保存平均枚数は1411.8枚」という実態が明らかになりました。
初期の携帯電話のヒット機能が「写メール」(携帯電話のカメラで保存した写真をメールで共有する機能)だったように、現代ではスマホのカメラとSNSと形を変えながらも、根源的な強いニーズがあるのでしょう。
最新のスマホの発表会においても、カメラ機能のアピールは欠かせないものとなっています。中国シャオミは独高級カメラメーカーのライカと共同開発した4つのレンズを搭載した高級スマホを発売しており、光学で5倍、デジタルズームで最大120倍という性能を売りにしています。韓国サムスン電子のGalaxy S24は撮影後の背景をカンタンに加工できる機能を搭載していますし、米GoogleのPixel9も人気の機能「消しゴムマジック」により撮影後の写真を加工できたり、「一緒に写る」機能で集合写真に撮影者を合成できる機能を搭載しています。
フィルムカメラの時代には、写真はその瞬間の事実を記録するもので、後で編集ができないという認識がありました。よって、報道写真や事件の証拠としての「事実の記録」という価値があり、それが社会に広く受け入れられてきました。
撮影後の加工機能が誰でもカンタンに行えるようになってくると、利便性の向上と共に負の側面も目立つようになります。高解像度で加工したかどうかの判別も難しくなってきており、いわゆる「ディープフェイク」と呼ばれる偽画像・動画がSNSを通じて拡散されることで社会に影響を与えようとする動きもあります。米大統領選挙を控え、様々な議論が噴出しています。
一方で政府による規制には「表現の自由」をどう守るのかという課題もあります。つまり、誰が「偽情報だ」と判断するのかということです。上記の記事でも規制についてイーロン・マスクが反対を表明していますが、パロディはどう扱われるのか、違法・適法の線引きがどこになり、それは誰が決めるのかという点です。
高度な技術が手軽になるにつれ、写真はなにを記録しているのかという本質的な部分に思いを馳せます。観光地にいって写真をとったが、あいにくの曇り空だった。そのようなときにもいまはその場で「晴天」に加工することができます。数年経って見返したときに、果たして正確にその日の天気を記憶しているでしょうか。人の記憶は曖昧なものですから、ひょっとすると「あのときは良い天気だったな」と、現実の記憶が上書き保存されてしまうかもしれません。さて、この写真は記録なのか記憶なのか。はたまた、所詮現世は夢うつつなのか。写真のもつ意味合いは人によって変化する、そんな時代をわたしたちは生きているのかもしれません。
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タイトル画像提供:Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)