行動規制の完全解除に不可欠な医療提供体制の拡充
とはいえ、緊急事態宣言慣れにより、緊急事態宣言発出に伴う経済への悪影響が縮小している可能性が高いでしょう。
しかしながら、一方で新規陽性者数の抑制効果が限定的になっていることには注意が必要です。というのも、東京都に4回目の緊急事態宣言が発出されたのが7月12日ですが、その効果は1~2週間後に現れるとされていました。しかし、7月末に差し掛かっても、東京都の新規陽性者数は増加の一途を辿っていますから。
一方、英国ではワクチンの部分接種率が7割近くまで到達しているにもかかわらず、新規陽性者数は増加に転じました。そして、7月下旬からは減少に転じているものの、依然として人口当たりの新規陽性者数は日本の10倍以上の水準にあります。また、米当局の分析結果によれば、7月にマサチューセッツ州で発生したクラスターの感染者数のうち4分の3がワクチン接種者だったとのことです。
つまりこれらの事例は、日本で今後ワクチン接種率が上昇したとしても、経済活動の規制を緩和すれば新規陽性者数が増えることを示唆しているといえるでしょう。
しかし、英国ではそれでもワクチン効果で重症者数や死者数が抑制されているとして、7月下旬から大部分の行動規制を解除しています。こうしたことからすれば、日本でも大部分の行動規制を解除するためには、ワクチン接種率が欧米並みにキャッチアップした暁には、行動規制の条件を徐々に新規陽性者数から重症者数や死者数にシフトしていくことが求められるでしょう。
ただ、ワクチン接種率が欧米並みに進んだとしても、日本では行動規制の条件を緩和できない可能性があることには注意が必要です。というのも、これまでの経験則では、日本では欧米に比べて新規陽性者数の数が少ないにもかかわらず、医療現場がひっ迫しやすいからです。欧米と異なり、日本では民営病院の比率が高いこと等から当局の制御が効きにくいこと等が指摘されていますが、こうした医療提供体制を放置して、新規陽性者数の増加に伴い行動規制を繰り返せば、日本経済は今後も正常化に向かうチャンスを失うことにもなりかねないでしょう。
そもそも、日本経済は他国と異なり、景気後退下の消費増税などにより、コロナショック前から経済は正常化していませんでした。このため、日本経済における行動規制を完全に解除するには、ワクチン接種率を一刻も早く欧米並みに進捗させるとともに、欧米並みに人口当たりの新規陽性者数が増えても医療提供体制がひっ迫しない環境を構築することが条件といえるでしょう。