高木聡一郎(東京大学大学院教授)
「シリコンバレーで起業家育成」 選ばれたら何をすべきか?
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「シリコンバレーで起業家育成」 選ばれたら何をすべきか?

高木聡一郎(東京大学大学院教授)

最近話題になったニュースの一つに、シリコンバレーに5年間で1000人を派遣し、起業家を育成するというものがある。

これまで毎年20人派遣していたものを10倍に増やし、5年間で1000人を派遣するという。また、スタンフォードやMITなどの米国の大学を日本に誘致し、スタートアップ企業の育成に取り組むという報道もあった。

日本国内でも、これまでシリコンバレー型のスタートアップエコシステムをどう作るかという議論や実践は行われてきたし、各大学でもスタートアップの育成には力を入れていたところであるが、これを契機に国内の取り組みやエコシステムがさらにブーストされることが期待される

言うまでもなく、日本の産業振興の観点からは日本に本拠地を置くスタートアップが増え、日本を中心に価値が回るエコシステムをいかに作ることが大事である。こうした米国との連携を契機として、どう国内のエコシステムに繋げていくか、またアジア諸国も含めた人材との関係をどうデザインしていくかも考える必要がある。

さて、そうは言ってもせっかくできる制度である。これから起業をめざす人も(実はそれ以外の人も)、この機会をどう活かすかを考えるのも有意義ではないだろうか。私も少ないながら、シリコンバレーで起業家の調査等を行ったことがある。その経験も踏まえて、いくつか示唆できるところがあれば幸いである。

どんな人が応募すべきか

本プロジェクトが経済産業省の「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」の拡充ということであれば、これまでの派遣者は以下のサイトが参考になるだろう。

これらを見ると、既にしっかりとしたビジネスプランを持っており、国内でのプログラムを経て選抜された20名のみが派遣されるようである。派遣者には大企業の担当者も含まれ、派遣期間は1週間程度のようだ。

正直なところ、冒頭のニュースを見た時に1年程度派遣するイメージを持っていたのだが、今後の取り組みはどうなるのだろうか。1週間では現地のエコシステムや文化を体感するにはやや短いのではないだろうか。もう少し長いプログラムも期待したい。

さて、もう少し長い期間派遣されることを期待しつつ、どんな人がこうしたプログラムに応募すべきだろうか。(ちなみに現時点で筆者は本プログラムの企画等には関わっていないので、以下は個人的な見解である。)

正式な要件等はいずれ発表されるだろうが、私の考えとしては、プロダクト開発前のステージか、既にプロダクトを提供しているが海外展開やピボットを模索している人にとって、得られるものが多いかもしれない。プロダクト開発の真っただ中という人は、あまり長期間行っている余裕はないかもしれない

また、スタートアップで働いてみたいスタッフ系の方も支援したい。スタートアップの立ち上げには、法務、財務、人事なども重要である。そうした非テック系の職種で、シリコンバレーの経験があるという人材が増えてくると、日本でのスタートアップの促進もよりスムーズになるのではないか。

現地で何をすべきか

過去の取り組みは、1週間と短期だったこともあり、あらかじめ決められたプログラムに参加することが中心だったようだが、現地での人脈を作るためには自分でアポイントを取って動き回ることをお勧めしたい

ミートアップへの参加

最も簡単に動ける方法は、月並みかもしれないがミートアップへの参加である。サンフランシスコからパロアルトにかけてのエリアでは、日々たくさんのミートアップが開催されている。登壇者の話を聞くだけでも参考になるが、登壇者や出席者と会話することで、自分の存在も知ってもらい、人脈を作ることにもつながる。挨拶をするだけなら、相手にとってのメリットを気にする必要もない。ただし、自分をどのように印象付けるかについてはあらかじめ用意しておく必要がある。


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San Francisco, Blockchainで検索したミートアップ情報(対面のみ)

起業家訪問は慎重に

現地からも不満の声が聞こえてくるのは起業家等への訪問である。特に相手に何のメリットも無いのに、勉強させてほしい、話を聞かせて欲しいというだけでは、忙しい相手にとっては迷惑になる可能性がある。

私の場合は、自分が研究者であり、相手のビジネスを今後の書籍や(このCOMEMOのような)記事で取り上げる可能性を伝えて、相手にメリットがあることを理解してもらえるようにしていた。

研究者ではなくとも、「日本における〇〇分野のイノベーションの状況を伝えることができる」とか「日本の〇〇さんと繋げることもできるかもしれない」など、過剰にならない範囲で相手にとって提供できるメリットをあらかじめ用意しておくと良い。

もし上手くいけば、じっくりと話を聞けるだけでなく、相手がどんな環境で、どんな人たちと一緒に働いているのか、どんな考え方を持っているのかといったことについて、体感できる貴重な時間となるだろう。

私も、シリコンバレーの一軒家にあったブロックチェーン関係のスタートアップを訪問したことがあるが、話しているうちに裏庭に呼ばれ、芝生の上でメンバーとまったりと語り合う時間を持つことができた。青臭いとも言える情熱や、業界を取り巻く問題など、きちんとマネージされたミーティングでは得られない情報や感覚を得ることができた。パロアルトの夕方の芝生で過ごした時間は、今でも良い思い出である。

半年から1年程度行けるのであれば、現地のスタートアップに参加するのも良いだろう。自分のビジネスプランに固執するより、現地の環境にどっぷりと浸かった方が得られるものがあるかもしれない。特に専門知識と言語力は必要だが、財務、法務、人事、広報などスタッフ系で手伝うのも良いだろう。

起業家育成は、ある程度長期の取り組みも必要であるし、人材の多様性や厚みも必要である。派遣プログラムも、1週間の超短期から、半年、1年など多様なものがあっても良い。予算の制約があれば、全額補助でなくとも、1/2補助など部分的なものがあっても良い。企業に勤めるスタッフ系の人材などは、政府に選抜されたとなれば、1年間職場を離れることも認めてもらえるかもしれないし、1/2でも補助があればなおさらである。

何はともあれ、これを見よう

ところで、シリコンバレーと言えば思い出すのは、アメリカのHBOが制作したドラマ、『シリコンバレー』である。

巨大IT企業がモデルの(と思われる)大企業に勤めていた青年が起業し、ライバルとの戦いや人材獲得、資金調達、システムトラブルなど様々な困難に直面しながら成長していく話がコミカルに描かれており、エンターテイメントとして観ても抱腹絶倒、起業家のリアルを学ぶ上でも参考になる

まずはこのドラマを見て基礎知識を得て、いざシリコンバレーに乗り込もうではないか。乗り込まなくても、楽しい時間を過ごせます。


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高木聡一郎(東京大学大学院教授)
東京大学大学院情報学環教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。チェロ弾き。